- 著者
-
小林 三衛
- 出版者
- 茨城大学
- 雑誌
- 茨城大学地域総合研究所年報 (ISSN:03882950)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.1-14, 2007
「水戸地方裁判所の決定」の検討である。「生命・健康に危険のない質の飲料水,生活用水を確保すること」を人格権と位置づけ,「法的に最大の保護に値する」とし,これが処分場から流出する汚水によって侵害される可能性がある場合には,差止めることが認められるとしており,高く評価される。ついで,処分場から排出される汚水が田野川に流入し,これによって,「水道水が汚染される可能性」を認め,「それを利用している債権者らの被保全権利の侵害の可能性を否定できない」として,「保全性があるものと思料される」と結論づけていることは,先駆的・画期的である,といえる。また,田野川の水を農業用水としている債権者らについて,「水質が害され,水利権が侵害される可能性が高く,その侵害の程度が深刻である場合には,その行為を事前に差し止めることも認められる」としている点も,重要であるが,「農業用水は,水道水のように直接汚染水そのものが人体に影響を及ぼすものではない」ので,「事前差止めまでを求める保全の必要性はない」と判断していることには賛成できない。なお,地下水の汚染の可能性はないとして,その汚染を認めていない点については,疑問である。