著者
加藤 駿 石崎 良祐 三橋 亮太 清水 智恵 島田 順 普後 一
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1_039-1_042, 2014 (Released:2014-05-26)
参考文献数
7

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で,福島県内は放射性物質の甚大な汚染をうけた。桑園とクヌギ畑の土壌,桑やクヌギ葉,幼虫,蛹,繭等の放射性物質濃度の測定,作業環境の空間放射線量等の具体的なデータを収集し,養蚕業や天蚕業に及ぼす放射性物質の影響について考察した。調査地の空間放射線量測定の結果,飼育室内の空間放射線量は,圃場に比較して特段高い値ではなかった。2012年5月と9月測定時の桑園およびクヌギ畑土壌中の放射性Cs濃度は,Cs-134,Cs-137ともに1000Bq/kg以上の値を示していた。しかし,9月時点の桑葉とクヌギ葉の放射性Cs濃度は,いずれも厚生労働省の定める一般食品中の基準値(100Bq/kg)を下回っていた。カイコ幼虫,蛹と繭についてはCs-134,Cs-137ともに検出限界値以下であった。天蚕の繭からはCs-134が20.7Bq/kg,Cs-137は36.3Bq/kg検出された。これらの結果から,福島県での養蚕業あるいは天蚕業への放射性物質の直接的な影響はないと考察した。
著者
長岡 純治
出版者
日本蚕糸学会
雑誌
蚕糸・昆虫バイオテック (ISSN:18810551)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.1_011-1_024, 2014

アントニ・ファン・レーウェンフック(Antonie van Leeuwenhoek,1632-1723)は,自作の顕微鏡を駆使することで,細菌や原生動物などを発見し,また,赤血球や筋肉の横紋などを観察したことはあまりにも有名な話である。同時に,彼はバッタのような無脊椎動物を含むあらゆる動物の精液を観察することで,運動する能力を有する赤血球より小さな細胞,すなわち,精子を発見すると共に,精子が懸濁されている精漿部分にスペルミンの結晶を見出し,単純な液体ではないことを報告した。しかし,あらゆる動物の精巣で形作られた精子は,自発的に運動能を獲得するわけではないし,ましておや,受精能も持つわけでもない。例えば,哺乳類精子は,精巣の細精管の中でその形は完成するが,その後,セルトリ細胞から放出・排精されても,本来の運動能も受精能力も持たない。そして,オスの生殖輸管である精巣上体とそれに続く輸精管,さらに射精により,メスの生殖輸管である膣,子宮,輸卵管へと移動することで,次第に運動パターンと激しさが変化していき,その過程で受精能が獲得(capacitation)される。