著者
宮崎 かすみ
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.127-146, 2015

本稿では、変質論と推理小説の親和性を論証した。まず19世紀半ばにフランスで精神医学の理論として発表された変質論がもっと前の時代の、人類学における人種論としての議論にまで遡り系譜をたどった。その上で、ロンブローゾの犯罪人類学の理論的骨格となっている変質論が、人種論に由来するものであることを明らかにした。後者の変質論は、ダーウィニズムの影響が色濃く、退化や先祖がえりといった概念を特徴とするが、アーサー・コナン・ドイルのホームズ・シリーズを、この変質論のパラダイムから読み解いた。そして、ホームズ物語は、犯罪という現象の原因にある政治や社会問題を、犯罪者の変質した身体の問題へと収斂させるというプロットを内在させていったことを指摘した上で、そのベクトルを変質論から援用していたという結論に至った。
著者
坂井 弘紀
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.41-60, 2015

日本の民話・伝承について考えるとき、これまで多くの研究者が指摘してきたように、中央ユーラシアの遊牧民の民間伝承を避けて通ることはできない。本稿では、ユーラシアのテュルク系民族に語り継がれてきた『アルパムス・バトゥル』、『ナンバトゥル』・『エメラルド色のアンカ鳥』、『勇士エディゲ』、『ジャルマウズ・ケンピル』、『大ブルガルのクブラトの遺訓』などを取り上げ、日本に、これら中央ユーラシアの伝承・民話とよく似た伝承・説話が存在することを具体的に提示した。これらの話は、中央ユーラシアと日本の民話・伝承の比較研究に大きな示唆を与える適例であるといえよう。古来、遊牧騎馬民が駆け巡った、アルタイ地方を中心とする中央ユーラシアの草原地帯に、日本の民間伝承の起源を解く鍵があるかもしれない。本稿は、それを解くための「たたき台」となるはずである。
著者
松村 一男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.17, pp.93-105, 2016

This treatise is divided in two sections: the first part deals with an historical review of previous Dionysian research in relation to my own work. It seems to me that Dionysus was given the role of a stranger god in the Greek pantheon. It was probably an intentional amalgam of antipolis elements (ecstasy, frenzy, savagery, feminine, animal, unconscious) incorporated into the public, official polis religion. In that sense, Dionysian elements are not confined to ancient Greece but could be present in every culture. After reviewing several cultures that employ effeminate priests and shamans, I came to a hypothesis that at the core of these Dionysian elements lies the existence of a similar class of people, i.e. asexual or transsexual priests. By this I mean a class of people who find themselves different from the majority in perception and choose to live as specialists dealing with the otherworld. In my opinion, the Dionysian experience could be grouped in the same category as the androgynous figures found in Gunnestrup Cauldron, Scythian enares, and North American berdache. If these asexual or transsexual religious figures of different areas share common traits, they might come from a genetic particularity, i.e. a GID (gender identity disorder). This surely is a wild and very speculative proposal, but if we do not wish to confine things Dionysian to the domain of Classics, we should also use materials from other branches of the humanities such as archaeology and anthropology. I am not sure if the issue of the possible relationship between a GID and the special kind of religious functionary in areas I discuss in this paper could be connected with the issue of eunuchs in general and gallus (pl. galli), a eunuch priest of the Pyrgian goddess Cybele and her consort Attis in particular. The issue might, however,be worth considering.
著者
田村 景子
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.202-192, 2015

『豊饒の海』四部作は、一九七〇年十一月二十五日、きわめて劇的に人生の幕引きをやってのけた作家三島由紀夫の、長大な遺作である。同時にこの意図された遺作は、「世界の解釈」をめざして時間をかけて練り上げられた物語でもある。三島由紀夫における能楽受容を考えてきた筆者にとって、『豊饒の海』は避けてとおれない。第二次戦後派に数えられつつ日本浪曼派の特異な継承者であった季節はずれの作家による、季節はずれの試みすなわち戦後における前近代の破壊的再提示は、『近代能楽集』シリーズと同じく戦後という時代の最奥へと届いたのか? それとも、『近代能楽集』シリーズをも越えた場所へ到達したか? 本稿と次稿の目的は、謡曲「松風」および「羽衣」を介して『豊饒の海』に新たな読解の地平を開き、決して報われないからこそ生きられた徹底的な悲恋の物語――三島由紀夫の「世界の解釈」を言祝ぐことにある。
著者
浅見 克彦
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.14, pp.9-26, 2013

時間SFは、しばしば型破りな言説構成をとりながら、特異な時間世界を描き出す。この時間世界のありようは、時代的な隔たりを越えて、現在の文化に瀰漫する意識と、いくつかの点で通じあっている。例えば、「反復ループもの」は、社会の歯車として同じようなことを繰り返す現代人の情況に重なる。また、「枝分かれする世界」の物語は、不確定な時の流れに翻弄され、意志と自由を骨抜きにされた私たちの実情を映し出す。さらには、「因果ループ」を焦点とした作品は、物事の真正さと価値の根拠を空洞化させてゆく、ニヒルな文化意識と共鳴しあっている。本稿は、こうした現代の時代意識との照応を確認することを通じて、時を隔てて現代と共振しあう、時間 S Fの不思議な魅力を詳らかにしようとするものである。
著者
坂井 弘紀
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.15, pp.33-54, 2014

テュルクの口承叙事詩には、「最初のシャマン」とされるコルクトをはじめ、シャマンがしばしば登場したり、『エル・トシュテュク』に見られるように、英雄叙事詩の主人公にシャマンの姿が投影されていたりする。英雄の愛馬が八本脚であると暗示されることは、世界各地に見られるシャマン的典型の「八脚馬」と見なすことが可能であり、また、叙事詩で馬の毛を焼く場面からは、シャマニズムの呪術で呪的動物を呼び起こす儀式を読み取ることができる。古来のテュルクの伝承では、大地の中心にある、天空までそびえ立つ世界樹が描かれ、そこからはテュルクの聖樹信仰を見ることができる。また、本来シャマンを意味していたバクスという言葉が、のちに叙事詩の語り手を意味するようになったのは、シャマンの言葉が英雄叙事詩へと発展する一方、イスラーム化にともなって、バクスが預言や託宣を行う機会が減少した結果、叙事詩語りとしての役割が重視されたためと考察される。
著者
松村 一男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.15, pp.73-93, 2014

Archaeological excavations show the importance of iron swords: During the tumulus period, the power of the great king (later emperor) expanded. Myths and archaeological findings attest to the introduction of metallurgy from the continent and subsequent production of iron weapons which resulted in 1) the unification of the country by a great king, 2) the construction of huge tumuli by the ruling class to show their prestige, and 3) the worship of the iron sword and related myths about its power. Such worship of iron swords is told about the Scythians by Herodotus. In the Arthurian legends, the sword Excalibur is the source of the power and prestige of King Arthur. The worship of the ironsword as a divinity might have spread from the Scythians to both ends of the Eurasian continent, west to the Celts and east to the Japanese.
著者
松村 一男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.107-126, 2015

Myths about unknown islands always fascinated island people. The most famous example is the Odyssey. The Odyssey was introduced to Japan in the middle of the sixteenth century by the Jesuits and gave birth to a story named the Nobleman Yuriwaka. Probably influenced by this story, another voyage story, the Voyage of Yoshitsune to the Island of Yezo, was created. The hero of the story is Minamoto no Yoshitsune. His tragic, untimely death made Yoshitsune one of the most popular legendary figures in Japanese history. Many stories have been created about him and this story is one of them. In this paper, the story will be explained and then a comparison with other voyage stories will be given.
著者
松村 一男
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.16, pp.107-126, 2015

Myths about unknown islands always fascinated island people. The most famous example is the Odyssey. The Odyssey was introduced to Japan in the middle of the sixteenth century by the Jesuits and gave birth to a story named the Nobleman Yuriwaka. Probably influenced by this story, another voyage story, the Voyage of Yoshitsune to the Island of Yezo, was created. The hero of the story is Minamoto no Yoshitsune. His tragic, untimely death made Yoshitsune one of the most popular legendary figures in Japanese history. Many stories have been created about him and this story is one of them. In this paper, the story will be explained and then a comparison with other voyage stories will be given.
著者
坂井 弘紀
出版者
和光大学表現学部
雑誌
表現学部紀要 (ISSN:13463470)
巻号頁・発行日
no.15, pp.33-54, 2014

テュルクの口承叙事詩には、「最初のシャマン」とされるコルクトをはじめ、シャマンがしばしば登場したり、『エル・トシュテュク』に見られるように、英雄叙事詩の主人公にシャマンの姿が投影されていたりする。英雄の愛馬が八本脚であると暗示されることは、世界各地に見られるシャマン的典型の「八脚馬」と見なすことが可能であり、また、叙事詩で馬の毛を焼く場面からは、シャマニズムの呪術で呪的動物を呼び起こす儀式を読み取ることができる。古来のテュルクの伝承では、大地の中心にある、天空までそびえ立つ世界樹が描かれ、そこからはテュルクの聖樹信仰を見ることができる。また、本来シャマンを意味していたバクスという言葉が、のちに叙事詩の語り手を意味するようになったのは、シャマンの言葉が英雄叙事詩へと発展する一方、イスラーム化にともなって、バクスが預言や託宣を行う機会が減少した結果、叙事詩語りとしての役割が重視されたためと考察される。