著者
森本 昌宏
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3-4, pp.151-156, 2010-12-01

[抄録] 肩こりは症状名であり,現在でも他の疾患に付随する症状として扱われることが多いことから,医師が肩こりの診療に積極的に取り組んでいるとは言えない状況にある.肩こりの明確な定義がないこと,主観による判断による部分が多いこと,その病因も正確には分析されていないことなどがその原因と考えられる.例えば,症候性肩こりの原因である頸椎疾患をとっても,神経根症がその主体であるとする報告や,加齢に伴った椎間板や椎間関節の変性が主体であるとする報告があり,一定の見解を得るには致っていない.さらに,治療法に関しても randomized controlled traials による検討が蓄積されている訳ではない. このような現状からは,肩こりを単に症状として扱うのではなく,基礎疾患の検索を含めて正確な診断を行うこと,治療にあたってはより適切な治療法を選択することが要求される.また,今後はevidence based medicineの実践による基礎研究,研究デザインの構築が期待される.
著者
松田 外志朗 栗原 敏修 浅沼 博司 中江 晴彦 冨吉 浩雅 森田 正則 嶋津 岳士 平出 敦
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1-2, pp.71-79, 2012-03-01

[抄録] 糖尿病患者の増加及び高齢化に伴い, 低血糖症例は増加している.重症症例は, 意識障害などのため他者の援助を必要とし, 救急搬送されることが多い.低血糖症例にいかに対応するかは救急医療の現場において重要な問題である.近畿大学医学部附属病院では, 低血糖症例のほとんどが救急診療部門(ER)において初期治療がなされている.当院ERにおいて, 2008年4月から2010年3月までの2年間で84回の低血糖によるER受診があった.意識障害あるいは意識消失を主訴とする症例が多く, 高齢者の割合も高い.内分泌代謝内科で治療されている症例は半数以下であり, 糖尿病以外の疾患のために他の診療科かかりつけとなっている症例が多かった.低血糖症例に対し適切な初期診療を行うために, 当院における低血糖症例の特徴を検討し, 初期診療において必要な情報について解説する.また, 初期診療において, 注意を要する症例として, 低血糖が10時間以上遷延した7症例, 糖尿病治療を受けていなかった非糖尿病の12症例をとりあげる.さらに, 患者の高齢化や社会的な要因から留意すべき点について考察する.
著者
奥野 洋子 萬羽 郁子 青野 明子 東 賢一 奥村 二郎
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3-4, pp.115-124, 2013-12-01

[抄録] 対人援助職は, 職務におけるストレッサーが大きい一方, 対人援助職としての成長もあることが明らかになっている. しかしこれらの研究は, 一時点における横断的調査であり, ストレス体験が対人援助職の自己成長感につながっているのかについての縦断的研究は行われていない. 本研究では, 105人の看護師に対して1年間の縦断的調査を行い, 仕事上のストレス体験と1年後の自己成長感との関連を明らかにすることを目的とした. 自己成長感(心的外傷後成長尺度), ストレッサーとソーシャルサポート(職業性ストレス簡易調査票), 個人特性(15項目ハーディネス尺度), 体験ストレスに関する質問紙調査を看護師に対して実施し, 1年後の自己成長感について重回帰分析を行った. その結果, 周囲の状況に対してコントロールできると考える性格傾向であること, 看護職の経験が浅いこと, そして仕事上のストレス体験が多かったこと, 仕事を自分のペースでできていたこと, 働きがいを感じていたこと, 加えて1年後の現在の, 職務上の身体的・環境的なストレッサーが強いこと, 同僚からのサポートがあることと自己成長感との有意な関連性が認められた. 仕事上のストレス体験の多さは, その時点よりも1年後の自己成長感を高め, 個人特性としてのハーディネスのコントロール傾向の高さも自己成長感を高めることが示唆された.
著者
島岡 昌生 釣谷 充弘 小池 英爾 老木 正彰 塩田 充 星合 昊
出版者
近畿大学医学部
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-108, 2008-06-01

ヒト正常妊娠におけるエリスロポエチン情報発現ならびに妊娠過程における役割を調べる目的で,人工妊娠中絶術後の子宮脱落膜組織を用いてエリスロポエチンmRNA,エリスロポエチン受容体mRNAおよびエストロゲン合成酵素であるアロマターゼmRNAの発現量を5週から8週の子宮脱落膜組織で測定した.免疫組織化学的にこれらの蛋白の組織内局在も調べた.標本取得には近畿大学医学部倫理委員会のガイドラインに従った.エリスロポエチンmRNA,エリスロポエチン受容体mRNAおよびアロマターゼmRNAはそれぞれの標本間で発現量の偏りがみとめられたが,各週毎の発現量の平均値を比較すると, 6週の脱落膜組織に3つのmRNAが有意に高値を示した.更にこの時期の脱落膜組織を検索したところ,特に栄養膜細胞の血管壁への侵入と,栄養膜が2細胞層に分化していく過程でエリスロポエチンとエリスロポエチン受容体蛋白およびアロマターゼの分布が共存していることを見出した.アロマターゼの分布はその場でのエストロゲン合成を示唆する.更にエリスロポエチンは分泌型の蛋白であるので脱落膜から初期匪着床部位に移動する可能性も考えられる.本研究では,妊娠6週を前後する週における妊娠維持,特に胎盤形成に関与する栄養膜細胞の分化過程にエリスロポエチンとエストロゲンの関与が示唆された.
著者
中森 康浩 安田 卓司 今本 治彦 加藤 寛章 岩間 密 白石 治 安田 篤 彭 英峰 新海 政幸 今野 元博 塩﨑 均
出版者
近畿大学医学会
雑誌
近畿大学医学雑誌 = Medical journal of Kinki University (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.31-40, 2010-03-01
被引用文献数
2

[抄録] 高齢者が多く侵襲度の高い食道癌術後の誤嚥性肺炎は最も危険な合併症のひとつである.高齢者の誤嚥はサブスタンスP(SP)の分泌低下による咳嗽反射低下がその要因とされている.食道癌周術期における血中SP 濃度と咳反射の推移および誤嚥/肺炎の発症との関連を明らかにする.胸部食道癌手術予定で文書により同意が得られた26例を対象とした.術前,術後2日目(POD2),術後7日目(POD7)に血中SP 濃度測定,クエン酸誘発咳嗽反射閾値検査を行い,誤嚥/肺炎の発症との関連を前向き臨床研究で検討する.血中SP の平均値は術前,POD2,POD7の順に108.2pg/ml,66.8pg/ml,62.2pg/mlと推移しPOD2に大きく低下した.クエン酸誘発咳嗽反射閾値は測定可能の23例中19例(82.6%)でPOD2に閾値の上昇(15例)または最大のレベル10(4例)を示した.65歳以上のE群と65歳未満のY群に分けて検討したところ肺炎は3例(E群:2例,Y群:1例),不顕性誤嚥を2例(E群)に認め,全例POD2に咳嗽反射閾値の上昇をみた.E群の誤嚥/肺炎の4例はいずれも術前血中SP 濃度は40pg/ml以下でPOD2においても上昇をみなかった.食道癌術後の誤嚥/肺炎とのリスク因子を検討した結果,E群において術前の血中SP 濃度≦40pg/mlが最も有意なリスク因子と判明した(p=0.008).食道癌術後は血中SP 濃度の低下と咳嗽反射閾値の上昇により誤嚥性肺炎を容易に発症する状態にある.65歳以上で術前の血中SP 濃度≦40pg/mlは術後の誤嚥/肺炎に対するハイリスク群と考えられた.