著者
滝澤 恵美 小林 育斗 川村 紗世 岩井 浩一
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11546, (Released:2019-06-05)
参考文献数
40
被引用文献数
5

【目的】本研究は,運動器検診の項目であるしゃがみ動作の可不可,さらに下肢の関節間協調性に関連する要因を調べた。【方法】小学生47 名を対象に,踵接地でしゃがみ動作の可不可を確認した。動作中の膝関節に対する股関節の屈曲角度の変化率が一定であることを表す直線からの偏差を二乗平均平方根で計算し,この値を関節間協調性の指標とした。独立変数として,年齢,性,疼痛・傷害歴,スポーツ活動,生活様式(寝具の種類),身体特性(下肢長,肥満度,足関節背屈の角度および筋力,長座体前屈距離)を調べ,ロジスティック回帰分析または重回帰分析を行った。【結果】しゃがみ動作が不可であった児童は12 名(25.5%)であり,疼痛・傷害歴,肥満度,長座体前屈距離が有意に影響した。膝関節と股関節の関節間協調性は年齢のみが関連した。【結論】児童において,しゃがみ動作の可不可は身体構造の状態を反映し,下肢の関節間協調性には発達による変化が現れる。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 小林 育斗
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.127-132, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

〔目的〕異なる股関節肢位でスクワットを行い,大内転筋が発揮する伸展トルクの特徴から役割を検討した.〔対象と方法〕健常男性1名が股関節内外転,回旋中間位(NS)と外転,外旋位(SS)でスクワットを行い,大内転筋と股関節伸展筋が発揮する伸展トルクを筋骨格モデルを用いて推定し,比較した.〔結果〕NSとSSともに,大内転筋や大殿筋,大腿二頭筋長頭が発揮する伸展トルクは半膜様筋や半腱様筋よりも大きかった.〔結語〕大内転筋は,前額面や水平面の股関節肢位に関わらず,中腰姿勢を伴う動作に対して抗重力筋の役割を有すると推察された.
著者
滝澤 恵美 内山 英一 片寄 正樹 泉水 朝貴 鈴木 大輔 藤宮 峯子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.239, 2010 (Released:2010-10-12)

【目的】股関節内転筋群としてグルーピングされている長内転筋や大内転筋は作用が筋名に付与されている。しかし、人が股関節の内転運動を行うことは稀であり、この作用以外の理解が荷重股関節では重要と考える。そこで本研究は、内転筋群の中でも特に大内転筋に注目し、股関節に対するモーメントアーム(以下、MA)を調べ、「矢状面(屈曲・伸展)」「水平面(内旋・外旋)」の作用を検討することを目的とした。 【方法】87歳女性の未固定遺体を第4腰椎の高さから脛骨近位端で切断し用いた。関節包と大内転筋以外は切離した。大内転筋は、貫通動脈と骨の付着部を目安に上部、中部、下部の3つに肉眼的に分類した。上前腸骨棘と恥骨結合部が床と垂直になるように骨盤の矢状面傾斜角度を決定し、骨盤をjigに固定した。大腿骨の自重による自然下垂位(垂線に対し約10°屈曲位)をゼロポジションとし、左側の大腿骨を屈曲・伸展方向に験者がゆっくり動かした。この際、骨上の任意点の座標は3D磁気式デジタイザー(Polhemus社製、FASTRACK)を用いて追従した。サンプリング座標の値を用いて関節角度、大腿骨骨頭中心、MAを算出した。大腿骨骨頭は球体として扱い、骨頭表面上3点の座標と日本人女性の平均骨頭半径(r=2.16cm)を使用し、非線形最小二乗法で推定した。MAは、推定骨頭中心座標と大内転筋の各部分の起始部と付着部を結んだ作用線との垂直距離を求めた。なお、本研究は札幌医科大学の倫理委員会で承認され、生前の本人と遺族に対しては身体の一部を解離して研究に用いることが説明され同意が得られている。 【結果】大内転筋の上部、中部、下部ともに股関節屈曲範囲では、伸展MAと外旋MAを有していた。矢状面のMAは、ゼロポジションにおいても伸展MAを有していた。なお、水平面のMAはゼロポジション付近を転換点とし伸展範囲では内旋MAとなった。 【考察】筋は「収縮」しかできず関節への作用は、関節中心に対する筋の位置によって決まる。すでに大内転筋の下部(坐骨結節~内側上顆)については「伸展作用」が示されている。今回の結果より、上部・中部についても下部と同様に伸展に作用するMAを含有する可能性が推察された。水平面上の回旋作用においては、股関節ゼロポジション付近を変換点に作用方向を変える特徴を持ち、内旋・外旋双方に作用を持つ可能性があった。大内転筋は、恥骨部~坐骨部に起始を持ち関節中心を前後に広く被う構造的特徴があり、多様な作用を含む筋であると予想される。今回は1股関節のデータによる結果であり今後も検討作業を行う予定である。
著者
岩井浩一 滝澤恵美 阪井康友 山田哲 佐藤たか子 木村知美 豊田和典 山本健太 冨田和秀 大瀬弘高 居村茂幸
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.141-148, 2009-03

茨城県常陸大宮市において、平成19年度の介護予備事業としてバランスアップ教室を実施した。教室の開始時および終了時には体力測定を実施し、参加者の体力の変化について検討したが、今年度は併せて呼吸機能の検査を実施した。高齢化の進展に伴って、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率も増加することが懸念されており、住民の呼吸機能の現状を把握するとともに、運動指導によって呼吸機能がどの程度改善するかについて検討した。バランスアップ教室には55名が参加し、平成19年5月から11月までの6ヶ月間、市内の3つの会場でインストラクターの指導のもと、1回60分の教室を月3回の頻度で実施した。教室開始時の呼吸機能検査において、1秒率(FEV1.0%)が70%以下で、COPD疑いと判定された者は3名であった。呼吸機能検査結果と体力測定結果との関連では、FVCは、身長、体重、および反復横跳びの成績と有意な正の相関が見られた。V50/V25は、上体起こし、シャトルラン、立ち幅跳び、および得点合計と有意な負の相関がみられ、体力年齢と正の相関が見られた。V25は、立ち幅跳び、得点合計、および体力年齢と有意な相関がみられた。また、バランスアップ教室の開始時と終了時における測定値の変化は、介入の前後で平均値に有意な差が見られ測定項目はなかったが、多くの測定項目で成績向上の傾向がみられた。教室開始時にCOPD疑いと判定された者は、教室終了時に全員1秒率が70%を超え、呼吸機能の改善がみられた。
著者
滝澤 恵美 山口 麻紀 岩井 浩一 伊東 元
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.1-8, 2014 (Released:2014-06-24)
参考文献数
25

本研究は児童における蹲踞姿勢の実態調査を行い,生活様式や運動習慣との関連性を調べた。対象は小学校1~6年生の68名(男子36名,女子32名)とした。姿勢観察は自由課題(床の高さで絵を描く際に選択する姿勢)と指示課題(踵を接地した蹲踞の可不可)の2課題とした。生活様式(便座の種類,寝具の種類,他),特定の運動習慣の有無は保護者から情報収集した。関節可動性は足関節の背屈角度と長座体前屈を計測した。結果,自由課題で蹲踞を選択した者は6割,指示課題で踵を接地した蹲踞が可能だった者は7割だった。多重ロジスティック回帰分析の結果,選択する姿勢は寝具の種類(調整オッズ比:3.6,95%信頼区間:1.2–11.5,p < 0.05)と学年(調整オッズ比:5.2,95%信頼区間:1.4–18.9,p < 0.01)が関係した。踵を接地した蹲踞の可不可には特定の運動習慣の有無(調整オッズ比:9.2,95%信頼区間:1.8–47.7,p < 0.01)が関係した。児童の蹲踞姿勢において,性や関節の可動域は有意な関係を示さなかった。生活様式や運動習慣は,多様な姿勢の1つである蹲踞に影響を与える。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 伊東 元 鈴木 大輔 藤宮 峯子 内山 英一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100534-48100534, 2013

【はじめに、目的】股関節内転筋群の内転作用以外は諸説あり不明な点が多い。これは,関節の肢位によって筋の作用が変化することが関係している。本研究は股関節の角度変化に伴う股関節内転筋群のモーメントアームの変化を調べ,その作用を検討した。なお,本研究ではDostalら(1981,1986)の方法(モーメントアーム・ベクトル,以下MAV)を用いてモーメントアームの各成分(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)を算出した。【方法】1. 材料:死亡年齢84 〜98 歳(平均90 歳)の未固定標本5 体の右下肢を用いた。神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮が見られる下肢は除外した。標本は骨盤〜大腿骨部分を使用し,関節包および恥骨筋(PE),短内転筋(AB),長内転筋(AL),大内転筋(AM)を残して計測した。なお,AMは大腿深動脈の貫通動脈を基準に4 つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 計測:骨盤を木製ジグに固定し,大腿骨を屈曲・伸展方向に同一験者が動かした。その際,磁気式3D位置センサー(Polhemus社製)を用いて,骨および筋の参照点の座標変化を記録した。参照点は,筋の起始部と停止部,上前腸骨棘,恥骨結合,大転子,外側上顆,大腿骨頭上の3 点とした。また,筋の起始部と停止部の直線距離を計測し,筋腱複合体の長さ(筋長)とした。3. データ処理:大腿骨頭上の座標と骨頭の半径から骨頭中心の座標を非線形最小2 乗法で求めた。骨頭中心座標と参照点を用いて直交座標系を構成し,関節座標系を定義した。骨盤側の座標系を絶対座標系(GCS),大腿骨側を移動座標系(LCS)とした。GCSとLCSの関係から関節角度を求めた。筋の張力方向は,停止部から起始部へ向かう単位ベクトルとした。更に単位ベクトルと筋の停止から骨頭中心に向かうベクトルの外積から3 軸(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)のMAVを求めた。MAVは,筋が1Nの張力を発揮した時の各軸周りの関節トルクの大きさと向きを示す。4. 分析:大腿長で標準化されたMAVおよび筋長と股関節屈曲角度の関係を2 次式で近似した。得られた近似式を用いて,15 度間隔で股関節屈曲-15°から75°の範囲におけるMAVと筋長の値を求めた。最大値を示したMAV成分を主成分,主成分の50%以上の値を示した成分を二次成分とした。【倫理的配慮、説明と同意】使用した遺体は,本人および家族が未固定遺体として使用されることを同意している。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】股関節屈曲-15°から75°の範囲で,AM4 を除く全ての内転筋群の主成分は内転成分であった。一方,AM1 とPEを除き,外旋/内旋成分は常に小さな値を示した。屈曲角度の増加に伴い,AM4 を除く全ての筋の屈曲/伸展成分が屈曲から伸展に転換した。AM2 とAM3 は,それぞれ股関節屈曲45 度,75 度以上で伸展成分が二次的成分になった。AM4 の伸展成分は屈曲0 度以上で二次成分,さらに45 度以上では主成分となった。ALは股関節伸展15°で屈曲成分が二次成分となった。AM1,PE,ABでは二次成分を認めなかった。いずれの筋束も二次成分を示す股関節肢位で筋長は伸長位にあった。【考察】全屈曲角度を通じて,AM4 を除く股関節内転筋群の主成分は内転であったが,屈曲/伸展成分は各筋で異なる特徴を示した。大内転筋のAM2-AM4 は股関節屈曲位において伸展作用を有すると示唆される。特に,AM4 は股関節屈曲45 度以上では主成分が伸展になることから,股関節伸展筋としての要素が強い。ALは従来股関節屈曲位において股関節伸展作用を持つとみなされていたが,股関節屈曲位におけるALの伸展成分はそれほど大きくなく,また筋が弛緩する肢位のため,伸展作用は小さいと考えられる。ALは股関節伸展位で二次成分に屈曲を示し,加えて筋も伸長位にあることから,股関節伸展位近傍で屈筋作用を持つ筋であると考えた。【理学療法学研究としての意義】股関節内転筋群は下肢を内転させるだけの筋ではない。股関節に対する長内転筋の屈曲作用や大内転筋の伸展作用は,腸腰筋やハムストリングスのサブモーターとして機能していると考える。このため,内転筋群は効果的な運動療法を行う上でもっと考慮すべき筋である。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 伊東 元 鈴木 大輔 藤宮 峯子 内山 英一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100534, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】股関節内転筋群の内転作用以外は諸説あり不明な点が多い。これは,関節の肢位によって筋の作用が変化することが関係している。本研究は股関節の角度変化に伴う股関節内転筋群のモーメントアームの変化を調べ,その作用を検討した。なお,本研究ではDostalら(1981,1986)の方法(モーメントアーム・ベクトル,以下MAV)を用いてモーメントアームの各成分(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)を算出した。【方法】1. 材料:死亡年齢84 〜98 歳(平均90 歳)の未固定標本5 体の右下肢を用いた。神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮が見られる下肢は除外した。標本は骨盤〜大腿骨部分を使用し,関節包および恥骨筋(PE),短内転筋(AB),長内転筋(AL),大内転筋(AM)を残して計測した。なお,AMは大腿深動脈の貫通動脈を基準に4 つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 計測:骨盤を木製ジグに固定し,大腿骨を屈曲・伸展方向に同一験者が動かした。その際,磁気式3D位置センサー(Polhemus社製)を用いて,骨および筋の参照点の座標変化を記録した。参照点は,筋の起始部と停止部,上前腸骨棘,恥骨結合,大転子,外側上顆,大腿骨頭上の3 点とした。また,筋の起始部と停止部の直線距離を計測し,筋腱複合体の長さ(筋長)とした。3. データ処理:大腿骨頭上の座標と骨頭の半径から骨頭中心の座標を非線形最小2 乗法で求めた。骨頭中心座標と参照点を用いて直交座標系を構成し,関節座標系を定義した。骨盤側の座標系を絶対座標系(GCS),大腿骨側を移動座標系(LCS)とした。GCSとLCSの関係から関節角度を求めた。筋の張力方向は,停止部から起始部へ向かう単位ベクトルとした。更に単位ベクトルと筋の停止から骨頭中心に向かうベクトルの外積から3 軸(屈曲/伸展,内転/外転,外旋/内旋)のMAVを求めた。MAVは,筋が1Nの張力を発揮した時の各軸周りの関節トルクの大きさと向きを示す。4. 分析:大腿長で標準化されたMAVおよび筋長と股関節屈曲角度の関係を2 次式で近似した。得られた近似式を用いて,15 度間隔で股関節屈曲-15°から75°の範囲におけるMAVと筋長の値を求めた。最大値を示したMAV成分を主成分,主成分の50%以上の値を示した成分を二次成分とした。【倫理的配慮、説明と同意】使用した遺体は,本人および家族が未固定遺体として使用されることを同意している。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】股関節屈曲-15°から75°の範囲で,AM4 を除く全ての内転筋群の主成分は内転成分であった。一方,AM1 とPEを除き,外旋/内旋成分は常に小さな値を示した。屈曲角度の増加に伴い,AM4 を除く全ての筋の屈曲/伸展成分が屈曲から伸展に転換した。AM2 とAM3 は,それぞれ股関節屈曲45 度,75 度以上で伸展成分が二次的成分になった。AM4 の伸展成分は屈曲0 度以上で二次成分,さらに45 度以上では主成分となった。ALは股関節伸展15°で屈曲成分が二次成分となった。AM1,PE,ABでは二次成分を認めなかった。いずれの筋束も二次成分を示す股関節肢位で筋長は伸長位にあった。【考察】全屈曲角度を通じて,AM4 を除く股関節内転筋群の主成分は内転であったが,屈曲/伸展成分は各筋で異なる特徴を示した。大内転筋のAM2-AM4 は股関節屈曲位において伸展作用を有すると示唆される。特に,AM4 は股関節屈曲45 度以上では主成分が伸展になることから,股関節伸展筋としての要素が強い。ALは従来股関節屈曲位において股関節伸展作用を持つとみなされていたが,股関節屈曲位におけるALの伸展成分はそれほど大きくなく,また筋が弛緩する肢位のため,伸展作用は小さいと考えられる。ALは股関節伸展位で二次成分に屈曲を示し,加えて筋も伸長位にあることから,股関節伸展位近傍で屈筋作用を持つ筋であると考えた。【理学療法学研究としての意義】股関節内転筋群は下肢を内転させるだけの筋ではない。股関節に対する長内転筋の屈曲作用や大内転筋の伸展作用は,腸腰筋やハムストリングスのサブモーターとして機能していると考える。このため,内転筋群は効果的な運動療法を行う上でもっと考慮すべき筋である。
著者
滝澤 恵美 鈴木 大輔 伊東 元 藤宮 峯子 内山 英一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1332, 2012

【はじめに、目的】 大内転筋は,大腿四頭筋や大殿筋に次ぐ大きさを有する扇形の筋である。しかし,その大きさに反して大内転筋を含む股関節内転筋群の機能や役割は,はっきりとわかっていない。筋の形態は張力特性を反映するため筋の機能と関係がある。そこで本研究は,大内転筋を任意の筋束に分けて筋の形態を詳細に調べ機能について検討した。【方法】 1. 材料:男性のホルマリン固定遺体7体(左2肢,右3肢)を使用した。死亡時の平均年齢は80歳(75~90歳)であり,神経筋疾患を有した遺体,関節拘縮,著明な筋萎縮および過剰筋が見られる下肢は除外した。大内転筋を剖出し,大腿深動脈の貫通動脈を基準に大内転筋を4つの筋束(AM1-AM4)に分けた。2. 形態計測:AM1-AM4の各筋束の体積,筋長,筋線維長,生理的断面積(PCSA)を計測した。さらに比較群として恥骨筋(PE),長内転筋(AL),短内転筋(AB)についても同様の項目を計測した。なお,内転筋群のうち外閉鎖筋は他の内転筋と明らかに異なる走行と作用を示すため,薄筋は二関節筋であり他の内転筋と異なる特徴を持つため比較群から除外した。大内転筋の筋束および比較群の筋は骨付着部をメスで切離し,表面の結合組織,血管,神経を除去した後に次の計測を行った。体積は,水を入れたメスシリンダーに筋または筋束を入れ増量分を計測した。筋長および筋線維長は,筋を伸長させ起始から停止までの距離を定規で計測した。筋長は腱および腱膜を含む筋の最大部分,筋線維長は中間部分の長さを用いた。PCSAは筋腹の最大部を筋線維に対して垂直に切断後,断面をデジタルカメラで撮影し画像解析ソフトを用いて求めた。 3. 解析:各標本の大腿骨大転子から外側上顆までの長さを大腿長とし形態計測値の標準化を行った。標準化後の体積,筋長,筋線維長,PCSAの平均値を用いて主成分分析を行った。また主成分分析で分類されたグループ間で形態値を比較するためにScheffeの線形対比を用いて多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 本人および家族の同意のもと札幌医科大学に献体された遺体を用いた。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 AM1-AM4,PE,AL,ABの総体積は362.7±74.4cm3,総体積に占める大内転筋の割合は65.3±5.1%だった。大内転筋の筋束のうちAM3およびAM4が大きく,それぞれが大内転筋総体積の約30%を占めた。AM1 は一番小さく12.9%であった。AM1-AM4とPE,AL,ABから得られた体積,筋長,筋線維長,PCSAの計測値を用いて主成分分析を行った。固有値が1以上を示した主成分は第一主成分のみで,固有値3.64,寄与率は91.1%であった。計測した筋群は,第一主成分スコアが負のAM1・PE・ABと正のAM2-AM4・ALの2つのグループに分類された。 異なるグループに属したAM1とAM2-AM4で各計測値をScheffeの線形対比を用いて多重比較した結果,筋長と筋線維長(p<0.01),体積(p<0.05)で有意差を認めたが,PCSAでは有意差は認められなかった(p>0.05)。神経支配はAM1とAM2が閉鎖神経後枝,AM3は閉鎖神経後枝と脛骨神経の二重神経支配,AM4は脛骨神経であった。【考察】 筋線維は定まった長さのサルコメアからなるため,筋線維長が長い程,サルコメアが多く並び関節を大きく動かすことが可能である。一方,PCSAは筋線維の数と太さを反映するため,PCSAが大きい程,発揮される力が大きい。本研究の結果,大内転筋は筋束ごとに異なる筋の形態と支配神経を示した。これより,筋線維長がAM1より有意に長いAM2-AM4は股関節に大きな可動域や運動性をもたらす筋束であると推察された。一方,筋線維が短く関節近くに配置されているAM1はより細かい動きを素早く行うことに優位性を持つと推察され,関節の動的安定性を担う筋束であると推察された。【理学療法学研究としての意義】 筋の質量は機能的な重要性を示す1つの指標である。しかしながら,大内転筋はその質量に反して驚くほど情報が少ない。本研究では,大内転筋の約7割に相当する筋束が表面筋電図では評価が難しい深部に存在すること,さらに深部の筋束は形態的にも神経支配の上でも差異があることを示した。これらは,一般的に重要視される中殿筋のみならず,対側にある巨大な大内転筋の潜在的役割を探索することの必要性を示しており関節障害の治療において意義のある情報となりうる。
著者
滝澤 恵美 鈴木 雄太 小林 育斗
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

抗重力動作における股関節内転筋の役割を検討するために、内転筋が発揮する股関節伸展筋トルクを大殿筋やハムストリングスと比較した。抗重力動作としてスクワット動作を選択した。三次元的に運動データと床反力データを収集し、筋骨格モデル(SIMM)を用いて各筋の伸展筋トルクを推定した。大殿筋と大内転筋は、ハムストリングスよりもより大きな伸展筋トルクを発揮した。大内転筋の抗重力機能はハムストリングスよりも大殿筋に類似するものであり、この筋は補助的ではなく主要な抗重力筋として機能するだろう。
著者
山本 光 谷口 圭佑 滝澤 恵美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>要支援・要介護者の健康管理や在宅運動の習慣といった「自助」の促進は重要な課題である。ある行動の獲得や習慣化に際して自己効力感(self-efficacy:SE)が重要視されており,SEに関する報告は散見されるが,集団体操を通じたSEの変化に関する報告は少ない。そこで本研究は,「自助」の促進を目的とした集団体操が,健康管理に対するSE(健康SE)と在宅運動SEへの影響を検討することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>通所リハビリテーション利用者10名(男性5名,女性5名,年齢79.9±7.4歳)を対象とした。主疾患は中枢神経疾患2名,整形外科疾患7名,心疾患1名であった。Mental Status Questionnaire 8点未満の者は調査から除外した。集団体操は,1)遂行行動の達成(目標に対する達成度を対象者自身で記録),2)代理的体験(他者が称賛される様子を対象者同士が観察できるよう配置),3)言語的説得(称賛や励ましの声掛け),4)生理的・情動的状態(体操前後に血圧・脈拍を対象者自身で測定・記録)のSEを高める4つの情報源(石毛,2010)に対応させて実施した。集団体操は1回40分,週1~2回,3か月間実施した。なお,集団体操で実施した内容を自主トレーニングとして行うように指導した。介入前後で対象者の身体機能テスト5項目(握力,膝伸展筋力,5m最大歩行時間,Timed Up and Go test(TUG),Functional Reach(FR)),およびSE2項目(健康管理に対するSE尺度(横川,1999),在宅運動SE尺度(有田,2014))を調査した。統計学的解析はWilcoxonの符号付順位和検定を用い,統計学的な有意水準は5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>介入前後の結果を以下に示す(介入前/介入後,p値)。握力(kg)(22.0±5.4/22.1±5.4,p=0.95),膝伸展筋力(kg/体重)(0.37±0.12/0.38±0.11,p=0.41),5m最大歩行時間(秒)(5.2±0.9/5.2±1.1,p=0.51),TUG(秒)(12.1±2.1/11.8±2.4,p=0.38),FR(cm)(22.7±6.6/23.9±6.5,p=0.72)であり身体機能の有意な変化は認められなかった。一方,健康SE(42±4.9/45.5±4.5,p=0.02)では有意に上昇した。なお,在宅運動SE(18.2±4.8/22.3±3.9,p=0.05)は有意な変化を認めなかったが,介入前より介入後に上昇した。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本プログラムによって身体機能に有意な変化は認めなかったが,健康SEの上昇の効果を認めた。セラピストと対象者,また対象者同士の関わりを工夫することで,対象者自身が健康を管理する動機付けを促進させると推察された。これより,集団体操はSEの変化に正の効果をもたらすと考えられた。健康SEを向上させた活動として,自己または他者のトレーニングの成功体験や代理的体験,さらに血圧・脈拍の自己管理の導入が考えられた。在宅運動SEは上昇傾向にあることから,今後,自宅での活動に変化が現れれば身体機能の維持・改善も期待される。今後はSEの上昇に伴う実際の行動変容を確かめる必要がある。</p>
著者
佐野 歩 岩本 浩二 冨田 和秀 萩谷 英俊 滝澤 恵美 水上 昌文 門間 正彦 大賀 優 居村 茂幸
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3046-A4P3046, 2010

【目的】<BR>近年、筋圧や筋力評価、筋肉や腱の損傷回復の効果判定など多くの分野に超音波診断装置が用いられてきており、有用といわれている。超音波診断装置による画像診断は、X線では評価しづらい軟骨・筋肉・腱・靱帯・神経を抽出することができ、MRIでは評価しづらい滑膜や関節液の貯留、筋肉や関節の動きを評価することが可能である。また、無侵襲で容易に操作が可能な検査技術である。肩関節や側腹部診断など多くの研究が行われている半面、測定結果への信頼性に対して懐疑的な意見も散見できる。超音波診断装置を用いた測定結果への信頼性研究は少なく、確立されているとは言いがたい現状である。本研究では、肩関節周囲筋のなかでも計測指標が簡単で、筋腹が皮下にて計測できる棘下筋を対象に、本研究では超音波診断装置を用いた筋厚測定の信頼性について検討したので報告する。<BR>【方法】<BR>計測にはHONDA ELECTRONICS社製CONVEX SCANNER HS-1500を用いた。プローブは、周波数7.5MHzのリニアプローブを使用し、全て同一の検査者が実施した。被験者は肩関節に痛みを有しない健常成人男性5名、左右10肩とした。被験者の平均年齢は26.4±4.2歳、平均身長は171.0±5.6cm、平均体重は65.4±5.6kg、平均BMIは22.4±2.4であった。棘下筋の計測部位は、棘下筋のみを計測できる部位として、棘下筋を皮下に直接計測可能な肩甲棘内側1/4、30mm尾側の筋腹にて計測した。計測肢位は椅子坐位で、体幹部は床に対し垂直となる中間位、上腕は体側につけ上腕長軸は床面と垂直に下垂し、肘関節90度屈曲位、肩関節内旋外旋中間位ならびに前腕回内回外中間位とする肢位で、前腕部の高さを調整したテーブルに乗せ、余計な筋収縮が入らずに安楽に配置できるように配慮した坐位姿勢を基本測定姿勢とした。測定は、肩関節中間位、肩関節最大外旋位、肩関節最大内旋位の3肢位である。肩甲骨へのプローブの接触角度は、肩甲骨の傾斜角に垂直とし、傾斜角度を左右ともに測定した。肩関節自動運動での内旋・外旋以外の代償運動が行われないように、第3者が肘関節部を固定して実施した。再現性の確認のために、測定は3日間に渡り実施し、代謝の影響を考慮して同一時間帯にて棘下筋厚を測定した。左右3肢位での棘下筋厚で得られたデータは、各肢位にて3回ずつ測定した際の平均計測値を級内相関係数ICC(1,3)を用いて検者内の信頼性について検討した。統計解析はSPSSを用い,一元配置分散分析により級内相関係数ICCを算出し検討した。<BR>【説明と同意】<BR>すべての被験者に対し、ヘルシンキ条約に基づき、書面にて研究内容を十分に説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR>画像測定での平均値は右中間位10.7±3.04mm、右内旋位9.3±2.32mm、右外旋位18.5±2.88mm、左中間位7.9±2.58mm、左内旋位7.2±1.82mm、左外旋位16.6±4.12mmであった。<BR>級内相関係数では、右中間位ICC=0.964、右内旋位ICC=0.845、右外旋位ICC=0.961、左中間位ICC=0.920、左内旋位ICC=0.958、左外旋位ICC=0.923となり、それぞれ高い信頼性を示した。<BR>【考察】<BR>今回の測定方法により、棘下筋厚の測定値において高い検者内信頼性が示された。測定肢位や検査方法に条件設定を細かく行ったことにより、再現性を高めることができた。今回高い再現性が示された理由として、棘下筋はランドマークがとりやすく、皮下より棘下筋のみの計測が可能なため、機器測定条件の設定が簡便であることがあげられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今後は得られた信頼性を基に適応を拡大し、肩関節疾患を有する患者に対し、理学療法の効果を超音波診断装置を用いて検討して行きたい。<BR>
著者
奥野 裕佳子 冨田 和秀 関本 道治 青山 敏之 滝澤 恵美 橘 香織 大橋 ゆかり 佐藤 斉 二宮 治彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】平成26年度文部科学省「課題解決型高度医療人材養成プログラム」採択事業である多職種連携医療専門職養成プログラム(Coordinated,Continuing,Medical Staff Education Program:CoMSEP)には,筑波大学医学医療系(臨床検査),本学放射線技術科学科・理学療法学科およびその関連病院が参加している。学部課程から卒後までの継続的なプログラムを通して,チーム医療の教育を進めるとともに広い視野を有する臨床実習指導者の養成を目的としている。今回は,プログラム内容の紹介および履修生を対象としたアンケート結果および取り組み状況を含めて報告する。</p><p></p><p>【方法】プログラムは,1)卒前教育にあたる「学部教育プログラム」と2)卒後教育にあたる「履修証明プログラム」より成る。学部教育プログラムでは「生体機能診断ワークショップ」と称し,3年生を対象に2学科ずつの合同演習を年に4回実施している。理学療法学科は医学医療系との合同演習を行い計65名が参加した。履修証明プログラムは,e-learningの履修と集中開講によるスクーリング,合同公開講座より成る。e-learningは3学科の教員による授業科目で,全60時間である。スクーリングは,60時間を年12回に分けて休日を中心に開講し,さらに年1回の合同公開講座への出席を含め,計1年のプログラムとなる。履修生は,臨床検査技師,診療放射線技師,理学療法士であり,卒業大学および勤務病院の制限は設けていない。なお,平成27年度の履修生は理学療法士9名を含む計29名であった。今回,履修生を対象に1)学部教育プログラムと2)履修証明プログラムに関するアンケートを各プログラム後に実施した。</p><p></p><p>【結果】1)学部教育プログラムでは,他分野への興味・関心について「高まった」「ある程度高まった」との回答が9割を超えていた。また,ワークショップの将来性の意義について,意義があると「感じた」「ある程度感じた」との回答が8割を超えていた。ワークショップの満足感についても「満足できた」「ある程度満足できた」との回答が9割以上であった。2)履修証明プログラムでは,9割以上の履修生から「非常に効果的な内容であった」との評価を受けた。しかし,e-learningの講義および課題の提出については,履修生全員より「難しかった」との回答がみられた。特に専門外の講義では難解な説明が多かったこと,課題が難解で時間を要したことが主な理由であった。また,スクーリングの出席率は平均49%であった。欠席理由として勤務,学会,私用によるものが大半であった。</p><p></p><p>【結論】本プログラムでは履修生より高い満足度を得られ,理学療法学生・理学療法士においても専門性の向上と他職種連携への理解を推し進めることが可能と考える。一方,履修証明プログラムのスクーリングでは,履修状況の改善に向けて日程調整に配慮した運営を行っていく。なお,履修による効果について,追加調査等さらなる検討が必要と考える。</p>
著者
滝澤 恵美 岩井 浩一 伊東 元
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.19-26, 2003-03
被引用文献数
3

転倒経験と高齢者自身の主観的な歩行評価を調査し, 時間的・空間的歩行変数が示す歩行パターンとの関係を検討することを目的とした。対象者は屋外独歩可能な65歳以上の高齢者39名とした。主観的歩行評価は歩行中に「よくつまずくと思いますか?」「転びそうだと思いますか?」の2項目を質問した。転倒は「過去1年間に何回転びましたか?」と質問し, 転倒経験が1回以上の者を転倒経験有りとした。時間的歩行変数は自由歩行速度と最大歩行速度, 空間的歩行変数は歩幅, 重複歩距離, 歩隔の平均値, 歩幅と重複歩距離のばらつき(変動係数)を計測した。転倒経験が有った者は11名(28%)であった。転倒経験は有るが現在「つまずきそうにない。」「転びそうにない。」と感じている者は転倒経験者の約半数存在した。しかし, この様なケースを特微づける時間的・空間的歩行変数は存在せず, 転倒経験と高齢者自身の主観的な歩行評価が歩行パターンに影響を与えるとは言えなかった。
著者
滝澤 恵美 岩井 浩一 横塚 美恵子 伊東 元
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.61-68, 2002-03
被引用文献数
1

歩行パターンの変動が高齢者における将来の転倒を予測するという報告がある。そこで, 本研究は歩行パターンの変動と身体運動機能の関係を調べ, 歩行の安全性や安定性の観点から運動指導する糸口を検討することを目的とした。地域在住の65歳以上の健康な高齢者90名を対象に, 自由歩行時における重複歩距離と歩幅の連続10歩の変動を変動係数(CV)で算出した。身体運動機能は, 筋力, 平衡性, リズム形成, 可動性の4項目を測定し, 歩行パターンの変動との関係を調べた。歩幅CVは, 開眼片足立ち時間と負の関係を認めたことから, 歩幅CVが示す歩行パターンの変動は身体運動機能4項目のなかで平衡性の低下がより関係していることが推察された。今後, 平衡性に注目した運動プログラムの実施, 杖や装具の利用による歩行パターンの変動の変化について検討する必要がある。