著者
米倉 裕希子 堤 俊彦 金平 希 岡崎 美里
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.17-22, 2014-03

【研究背景】家族の感情表出研究(Expressed Emotion, EE)の知見をもとに,家族への心理教育の予後改善効果が明らかになっている.心理教育の一部と考えられるペアレントトレーングは,行動療法理論を背景に行動に焦点を当て具体的な対応方法を学ぶもので,子どもと親の否定的な関係を改善するのに効果があると言われている.本研究の目的は,今後さまざまな臨床現場において実践可能な短縮版プログラムの効果とEE との関連について検討することである.【研究方法】A 大学の相談室に来談しており10歳から12 歳の男児の母親4 名を対象に,全5 回のプログラムを実施.介入前後で家族のEE,母親のストレスおよび知識の獲得,子どもの行動を評価した.【結果】ケース全般において行動療法に関する知識の向上は見られたが,EE,母親のストレス,子どもの行動は変化が見られなかった.また,ケースによって変動が大きく,個別性が見られた.【考察】短縮版プログラムについては,知識の伝達といった点においては効果があるが,子どもの行動全般や親のメンタルヘルスの改善までは期待できない可能性がある.短縮版を実施する場合は,子どもの年齢や家族の状況に合わせプログラムを精査したり,選択可能なプログラムを提供したり,フォローアップの内容を検討したりしていく必要がある.
著者
古瀬 徳雄
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.35-44, 2009-03

幾多の作曲家が〈アヴェ・マリア〉を作曲している.ヴェルディ(1813~1901)もその一人である.彼の《アヴェ・マリア》は高齢期の76歳の作品であり,雑誌に投稿された謎の音階に基づいた定旋律で創られている.その後,オペラの大作《ファルスタッフ》を作曲し,82歳の彼は宗教的作品《スタバート・マーテル》《テ・デウム》を完成させ,《聖歌4篇》として世に発表する.一般的には,超高齢期には枯淡の境地に入る場合も多いが,彼は落日の太陽のごとく燃え続けている.さらに造形・絵画の巨匠達にも,高齢期になって,絶妙な作品を開拓した創作家たちが存在することも判明した.そこで音楽界と美術界の高齢期における作品を抽出し,対比させ,芸術創造の特徴や共通点を考察すると,「滑稽性」「肥満性」「グループ性」「宗教性」を捉えることが考えられた.
著者
村上 貴美子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.39-47, 2013-03

1907(明治40)年3月19 日法律第11 号として公布された癩予防ニ関スル法律は,1996(平成8)年3月31 日法律第28 号をもって廃止されるまでの約1世紀にわたるハンセン病対策の基本政策を形成した.本論は,癩予防ニ関スル法律の制定要因を検証することにより,その後の差別意識醸成の根源の一つが法制定時に内在することを明らかにした.癩予防ニ関スル法律の制定に至る過程は,三段階に分けて考えることができる.第1段階は,ハンセン病を伝染病としての取り扱いを議論する段階であり公衆衛生上の論法である.第2段階は,伝染病対策を急性伝染病対策と慢性伝染病対策に分離する段階である.第3段階は,単独法として癩予防ニ関スル法律の制定を議論する段階である.この間一貫している論調が「国家の体面」であり,伝染病の怖さの強調である.この伝染病癩の怖さの強調がその後の差別意識醸成の根源の一因となった.
著者
佐伯 文昭
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.85-92, 2013-03

現在,多くの保育所・幼稚園において,障害児保育が行われている.障害児保育に携わる保育者の支援の一つとして,巡回相談がある.本稿では障害児保育の歴史を顧みた後,巡回相談の定義,実施概要,コンサルテーションとしての機能,支援モデル(支援の視座)について概観した.特にICF の視座は,子どもの個人的特徴のみならず,環境因子(自然環境,社会環境,物理的環境,人的環境)を視野に入れ,アセスメントや支援を展開していくことを重要視するものであり,医療分野だけではなく,保育や幼児教育の現場においても有効と思われる.ICF は「生物・心理・社会的」アプローチであり,子ども自身やその家族,社会をより広い視野で把握することのできる有効な概念である.今後,保育所・幼稚園における巡回相談の支援モデルのさらなる探究,ICF の視座に基づく保育支援の実践が強く求められる.
著者
佐伯 文昭
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.85-92, 2013-03 (Released:2013-07-02)

現在,多くの保育所・幼稚園において,障害児保育が行われている.障害児保育に携わる保育者の支援の一つとして,巡回相談がある.本稿では障害児保育の歴史を顧みた後,巡回相談の定義,実施概要,コンサルテーションとしての機能,支援モデル(支援の視座)について概観した.特にICF の視座は,子どもの個人的特徴のみならず,環境因子(自然環境,社会環境,物理的環境,人的環境)を視野に入れ,アセスメントや支援を展開していくことを重要視するものであり,医療分野だけではなく,保育や幼児教育の現場においても有効と思われる.ICF は「生物・心理・社会的」アプローチであり,子ども自身やその家族,社会をより広い視野で把握することのできる有効な概念である.今後,保育所・幼稚園における巡回相談の支援モデルのさらなる探究,ICF の視座に基づく保育支援の実践が強く求められる.
著者
谷口 泰司
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-56, 2012-09

障害者支援費制度から自立支援制度を経て今日に至るまで,障害者の地域生活移行は主要な課題の一つとして取り上げられている.2012 年4月からは相談支援事業が抜本的に強化され,3か年の間に全ての障害福祉サービス利用者の計画を策定することや,施設からの地域移行支援・地域定着支援の計画を策定することとされている.しかしながら,養護老人ホーム及び救護施設に入所する障害者はこれら地域生活移行支援の対象とはされておらず,過去から現在に至るまで我々の無関心・無理解のもと混合収容が継続し,貧困層における共生社会を余儀なくされているという現状がある. 本論は,これら施設の実態について全国的な調査結果をもとに考察し,また,施設の現状にかかる要因が我々の社会・法制度にあることを検証した上で,今後のあり方に一石を投じるものである.
著者
谷口 泰司
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-56, 2012-09

障害者支援費制度から自立支援制度を経て今日に至るまで,障害者の地域生活移行は主要な課題の一つとして取り上げられている.2012 年4月からは相談支援事業が抜本的に強化され,3か年の間に全ての障害福祉サービス利用者の計画を策定することや,施設からの地域移行支援・地域定着支援の計画を策定することとされている.しかしながら,養護老人ホーム及び救護施設に入所する障害者はこれら地域生活移行支援の対象とはされておらず,過去から現在に至るまで我々の無関心・無理解のもと混合収容が継続し,貧困層における共生社会を余儀なくされているという現状がある. 本論は,これら施設の実態について全国的な調査結果をもとに考察し,また,施設の現状にかかる要因が我々の社会・法制度にあることを検証した上で,今後のあり方に一石を投じるものである.
著者
米倉 裕希子
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-82, 2012-09

【研究目的】統合失調症の家族研究からはじまった家族の感情表出(EE)研究を障害のある子どもの家族へ応用し研究してきた.本研究は,就学前の発達の遅れのある子どもの家族のEE およびQOL を調査するとともに,就学前の発達の遅れのある子どもを対象に実施した親子教室の効果を検討する.【方法】対象者は,A 市の療育機関に協力を得て,募集した親子で,全5回のプログラムを実施.5回のうち前半3回は親子同室で,後半2回は親子分離型で,親に対して障害についての知識や対応方法等を学ぶプログラムを提供し,介入の前後で評価した.評価には,簡便なEE 評価の質問紙であるFAS(Family Attitude Scale),健康関連のQOL 指標であるSF-6v2,子どもの行動評価としてCBCL(Child Behavior Checklist)の3つの質問紙を用いた.【結果】分析対象者は8名であり,介入前後で,ノンパラメトリック検定を用い,Wilcoxon の符号付順位検定を行ったが,FAS,QOL,CBCL それぞれにおいて,有意差はなかった.しかし,幼児期においても,家族のEE は低く,また,「身体的機能」や「日常役割機能(精神)」を除く他の6つの下位尺度でQOL が低いことがわかり,学齢期とは違う傾向があることが示唆された.【考察】今後,さらに対象者を増やすとともに,子どもの発達段階に応じた介入方法や内容等を検討していく必要がある.また,昨今の障害福祉制度改革の中で,障害児支援が強化され,家族支援が位置付けられる中で,根拠に基づいた家族への実践モデルを示していく必要がある.
著者
光田 尚美
出版者
関西福祉大学社会福祉学部研究会
雑誌
関西福祉大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:1883566X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.29-36, 2012-03

本研究の目的は,ペスタロッチーがなぜ貧児や孤児の教育にこだわったのか,その根底にある彼の思想の形成に迫り,後の教育実践とのつながりを探ることによって,彼が教育論として結実させたものの意義を再評価するとともに,その方法を今日的課題に照らして再構成し,その汎用性を探ることである.本稿は,その(1)としてペスタロッチーの思想形成の特徴を,18 世紀初頭のスイスにおける私立孤児院創設に影響を与えた敬虔主義との対比に焦点を当て,整理する.