- 著者
-
Shigeki TOMINAGA
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- Japanese Sociological Review (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.4, pp.509-523, 2000-03-31 (Released:2009-10-19)
- 参考文献数
- 33
フランス革命は近代の政治文化に大きな影響を及ぼしたが, とりわけ社会学にとって見逃せないのは, 1791 年に立憲議会が取った中間集団にかんする一連の法的措置である.すなわち同年 3 月にはこの国に伝統的に存在してきた同業組合が廃止され, 6 月には労働者の新たな団結が禁止されることは, のちの労働運動史に悪評を残しているが, これらほどには知られていないものの, 5 月と 9 月には「民衆協会」と呼ばれる市民の集会の活動を制限する法令も可決されていたのだった.このときの議会の内外の言説からうかがえるのは, 新たに再生した社会で中間集団が果たしうる役割への, 革命期の人びと (そしておそらくは近代人全般) の無理解ないし敵意にほかならない.個人と全体社会とのみで成り立つ彼らの社会観のなかに中間集団が占める位置はありえなかった.こうして旧来の共同体は完全に消滅すると同時に, 新しく模索されるべき公共空間への道はほとんど途絶えてしまう.この消失と途絶は間接的あるいはネガティヴな意味で 19 世紀以降の社会学の生成と展開の出発点を用意するものであった.もっとも, 社会学の出発点としてのフランス革命に注目する社会学者のうちには, 事実の誤認や規範との混同を犯している者も少なくない. 1791 年の中間集団の運命の根抵にあるものを明らかにし, そこから社会学史の認識に修正を加えることこそが, あらためて公共性の社会学を構築するためにぜひ望まれるのである.