- 著者
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清水 建美
植田 邦彦
山口 和男
- 出版者
- 金沢大学
- 雑誌
- 一般研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1994
本研究は高山植物を対象に、起源・伝播経路・分布パターンの成立過程といった生物地理学的課題をDNA情報を導入することによって解明し、DNA地理学に先鞭をつけることを目的としている。この種の研究では対象植物が常に大量に入手できるとは限らず、したがって少量の材料から効率よくDNAを抽出、増殖させる方法が求められる。まず、このような実験方法について研究、実施した。次いで、日本列島をはじめ世界各地から収集した高山植物、42種210試料について葉緑体DNAのtrnLとtrnFの遺伝子間領域、3種34試料についてtrnL遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解析したところ、ハクサンチドリでは全分布域にわたって多型は認められず、アキノキリンソウ・コケモモ・ヤナギランなどの植物は、多型はあるものの地理的なまとまりは認められず、イワオウギ・イワツメクサ・ゴゼンタチバナ・ミヤマアズマギクなどでは北海道と本州の集団間にも多型はなく、また、ヒメクワガタやミヤマゼンコなどでは同一種内の変種間にも多型はなく、エゾウスユキソウとハヤチネウスユキソウでは異種間であっても多型は認められず、葉緑体DNAの変異の現れ方は分類群によりさまざまであることが判明した。一方、エゾコザクラ群およびヨツバシオガマ群においてはそれぞれ6および11の葉緑体DNA型が検出され、塩基配列の違いによって最節約樹を作成したところ、ともに広い分布範囲をもつ北方型、中部山岳群に細かく地域的に分化した南方型に大きくわけられるなど、生物地理学的に意義深い情報をうることができた。また、谷川岳でキタゴヨウマツ・ハッコウダゴヨウ・ハイマツの3集団間での遺伝子の動きを解析したところ、花粉はハイマツからキタゴヨウに供給されて浸透交雑が起こり、ハッコウダゴヨウが形成されることを見出した。