著者
植田 邦彦 須山 知香
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

タチツボスミレ類は日本で著しく分化したスミレ属の種群であるが,その範疇に諸説があった。本研究の目的はタチツボスミレ類における種同定の困難さの原因解明にあるが,先ずは対象種を限定して比較検討するためその範疇の解明を試みた。従来本種群とする見解もある北米とヨーロッパの種を採取し,また,本邦産のエゾノタチツボスミレなど本種群の候補種を可能な限り集め,狭義の本種群とともに系統解析を行った。これらから,外見が極めて類似する「北米産ナガハシスミレ」は本邦産ナガハシスミレと大きく異なり,その他の北米,ヨーロッパ産の種類とともにすべてエゾノタチツボスミレ類に分類されるべきことが判明した。
著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5-6, pp.190-202, 1989 (Released:2017-11-17)

Circum-Ise Bay area, which is newly defined here, means hill and terrace regions that surround Ise Bay, (10-)50 to 600(-1000) m in elevation. A lot of local endemic, semi-endemic and relict taxa growing in small peatless mires (swamp and marsh) in the area are found. The following plants are defined here as Tokai hilly land element: Magnolia tomentosa, Berberis sieboldii, Drosera indica, Drosera spathulata ssp. tokaiensis, Pyrus calleryana, Acer pycnanthum, Vaccinium sieboldii, Chionanthus restusus, Pedicularis resupinata var. microphylla, Utricularia minutissima, Veratrum stamineum var. micranthum, Eriocaulon nudicspe and Eulalia speciosa.
著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.117-126, 1980

オオヤマレンゲ Magnolia sieboldii は,モクレン属オオヤマレンゲ節に分類される落葉性大本植物である。雄〓の色・葉形・葉の大きさ・毛の色と量・花の咲き方・樹形・樹高及び生育環境に変異が見られ,その変異に地理的なまとまりがあるので,2亜種,日本(谷川連峰から屋久島)と中国の安徽省・広西省に分布するオオヤマレンゲM. sieboldii ssp. japnicaと,朝鮮,南満州に分布するオオバオオヤマレンゲ(新称) M. sieboldii ssp. sieboldii を認める。オオヤマレンゲは,古く花壇地錦抄(三代目 伊藤伊兵衛,1695)にあげられており,また地錦抄附録(四代目 伊藤伊兵衛,1733)によれば延宝年間(1673〜1680)に江戸に栽培用として持ち込まれた。その後,岩崎灌園は草木育種(1819)と本草図譜(1828)で,雄〓の色に紅白の2種類があるとしている。オオヤマレンゲの名は大峰山に生えているため,つけられたということなので,日本に自生していることは,当時すでに知られていた。伊藤圭介は栽培されていたオオバオオヤマレンゲの標本をSIEBOLDにわたしたが,ラベルには日本の高山に自生と書かれている。その標本がもとになって,オオバオオヤマレンゲ M. parviflora SIEB. et ZUCC.(non BL.)が記載された。伊藤圭介が両者を混同していた事は,後年著した小石川植物園草本図説(1881)からもうかがえる。彼は,濃赤紫色の雄〓が示されているオオバオオヤマレンゲの絵に,日本の深山に自生するオオヤマレンゲの説明文を書いている。更に,雄〓に紅色と紫色の2種類があって,紅色のものは中国産のオオヤマレンゲであると誤った説明をしている。欧米では,上記の文献等は訳されてはいたが,雄〓の色に2種類あることは問題にされず,日本の種苗商より得たオオバオオヤマレンゲは日本産と信じられていた。それと,WILSONらが朝鮮より持ち帰ったものは,当然のことながら,同一物とされてきた。こうして,長らく日本のオオヤマレンゲの実体は,顧みられず,状況は日本においても同様であった。文献にみられる限りでは,岡ら(1972)の山口県植物誌でのオオヤマレンゲの記載をきっかけに,ようやく雄〓の色が注目され始めたようである。また,園芸的に栽培されているものは朝鮮産ではないかとの疑いも生じていた。オオバオオヤマレンゲは,朝鮮では少し山地に入れば極めて普通で,様々な環境下で旺盛に生育しており,3-10mの大灌木〜小喬木である。それに対し,オオヤマレンゲは,深山に点在し,やせ尾根や岩場,林縁等の限られた所にのみ生え,1〜3mの灌木で,葉もより小さく毛も少なく,全体的にひ弱な印象を受ける。大峰山以外では稀な植物で,オオヤマレンゲ節の他の種と,生育地・分布型・樹形等を比較して考えると,遺存種といっていいだろう。雄〓の色は,前者では本節の他種同様,濃赤紫色であるが,後者では白地に紅色が少しさす程度である。この様に,両者は容易に区別がつき,明らかに分類群を異にする。しかし,葉・花・毛等の形質を,個々にとり出してみた場合,雄〓の色をのぞいて,変異が連続してつながってしまう訳ではないが,多少とも変異は重なりあう。更に,モクレン科を通じて重要な分類形質である葉裏面の毛を両者間で比較すると,オオバオオヤマレンゲの方が,図2に見られる様に,色素沈着のない細胞が長い点等で違うものの,細胞構成や直毛で基部からねている点ではまったく同一である。こうしたことを考え合わせると,両者は互いに独立種として扱える程ではなく,地理的亜種としてとらえるのが適当であろう。八重咲きのものが時にオオバオオヤマレンゲに見られ,花彙(1765)や上記の小石川植物園草木図説,白井光太郎(1933)の樹木和名考等に絵がのせられており,欧米の書にもよく紹介されている。和名・学名とも様々につけられているが,正式に記載された学名はなく,また分類群としても認められない。オオヤマレンゲに6枚以上の花弁はまず見つからないが,オオバオオヤマレンゲでは6〜8枚の花弁は普通で,同一の木に6枚の花弁の花と八重咲きのものが同時に咲いたりする。
著者
清水 建美 植田 邦彦 山口 和男
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は高山植物を対象に、起源・伝播経路・分布パターンの成立過程といった生物地理学的課題をDNA情報を導入することによって解明し、DNA地理学に先鞭をつけることを目的としている。この種の研究では対象植物が常に大量に入手できるとは限らず、したがって少量の材料から効率よくDNAを抽出、増殖させる方法が求められる。まず、このような実験方法について研究、実施した。次いで、日本列島をはじめ世界各地から収集した高山植物、42種210試料について葉緑体DNAのtrnLとtrnFの遺伝子間領域、3種34試料についてtrnL遺伝子のイントロン領域の塩基配列を解析したところ、ハクサンチドリでは全分布域にわたって多型は認められず、アキノキリンソウ・コケモモ・ヤナギランなどの植物は、多型はあるものの地理的なまとまりは認められず、イワオウギ・イワツメクサ・ゴゼンタチバナ・ミヤマアズマギクなどでは北海道と本州の集団間にも多型はなく、また、ヒメクワガタやミヤマゼンコなどでは同一種内の変種間にも多型はなく、エゾウスユキソウとハヤチネウスユキソウでは異種間であっても多型は認められず、葉緑体DNAの変異の現れ方は分類群によりさまざまであることが判明した。一方、エゾコザクラ群およびヨツバシオガマ群においてはそれぞれ6および11の葉緑体DNA型が検出され、塩基配列の違いによって最節約樹を作成したところ、ともに広い分布範囲をもつ北方型、中部山岳群に細かく地域的に分化した南方型に大きくわけられるなど、生物地理学的に意義深い情報をうることができた。また、谷川岳でキタゴヨウマツ・ハッコウダゴヨウ・ハイマツの3集団間での遺伝子の動きを解析したところ、花粉はハイマツからキタゴヨウに供給されて浸透交雑が起こり、ハッコウダゴヨウが形成されることを見出した。
著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.339-348, 1987-09-25
著者
植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.149-161, 1985-11-30

日本産モクレン属各種類と,ハクモクレンとシモクレンの学名を再検討し正名を定めた.なお,第1,2部はTaxonに投稿したので合わせて抄録させていただきたい(UEDA,1986a,b).これらは古くから欧米に花木として導入されている.19世紀初期までは情報不足から一部の種の取り扱いに混乱がみられるが,各分類群の概念はほぼ一貫している.多くのすぐれたモノグラフ等も出版されている(REHDER and WILSON, 1913 ; MILLAIS, 1927 ; JOHNSTONE, 1955 ; FOGG and MCDANIEL, 1975 ; SPONGBERG, 1976 ; TRESEDER, 1978等).東亜温帯産のモクレン属を最初に包括的に再検討したのはREHDER and WILSONで,初期に書かれた多くの学名を整理し,そこで採用された学名が一般にうけいれられてきた.ところが,最近になって,ホオノキ,ハクモクレン,ノモクレンの学名について論争が起きている(DANDY, 1973 ; SPONGBERG, 1976 ; HARA, 1977, 1980 ; TRESEER, 1978 ; OHBA, 1980).筆者はこれらの議論を詳しく検討し,また,コブシとシデコブシに現在採用されている学名は使用できないことが判明したので報告する.大変不幸なことに大半の種は現在採用されている学名は使えず,以下の学名が正名である.すなわち,ハクモクレン : M. heptapeta(BUCHOZ) DANDY, シモクレン : M. quinquepeta (BUCHOZ) DANDY, シデコブシ : M. tomentosa THUNB., コブシ : M. praecocissima KOIDZ., ホホノキ: M. hypoleuce SIEB. et ZUCC., ウケザキオオヤマレンゲ : M. × wieseneri CARRIEREである.従来のままはタムシバ M. salicifolia (SIEB et ZUCC.) MAXIM.と最近認識されたコブシモドキM. pseudokobus ABE et AKASAWA (1954), オオヤマレンゲM. sieboldii ssp. japonica UEDA (1980)だけである.
著者
植田 邦彦 綿野 泰行 伊藤 元己 長谷部 光泰 藤井 紀行 朝川 毅守
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

前々・前年度収集した植物資料の集団遺伝学的・分子系統学的解析を進めた。本年度の現地調査は次のように計画され,実行された。前年度の結果よりグンネラ属等がアンデス沿いに分化していった過程の解析に最適であることが判明したので,さらに詳細に資料収集を行った。また,同様にグンネラほど集団密度が高くないにしろ分布範囲が広く,解析に適した,ユキノシタ属の1種,カタバミ属の1種,フウロ属の1種等も重点対象種とした。すなわち結果として,チリ,ボリビア,エクアドル,アルゼンチン,そして同種が著しい隔離分布を示しているとされるニュージーランドとタスマニア(オーストラリア)において,さまざまな地域より集団サンプリングを行った。グンネラにおいては1集団より30個体以上からのサンプリングを基本として合計50集団以上から資料を収集することが出来,他の種類については可能な限り多数の個体と集団よりサンプリングを試みた。いずれの地域も交通手段はレンタカーしか無いために多人数での調査は困難なため,調査班を3班に分け,さらに南米域の植物に詳しい者と植物採集に長けた者との2名を研究協力者として参加を要請し,調査班を構成した。本年度収集品は前々・前年度の収集品と合わせ,集団遺伝学的・分子系統学的解析を行っているところである。
著者
中村 俊之 植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.125-137, 1991 (Released:2017-09-25)

カンサイガタコモウセンゴケDorosera spathulata ssp, tokaiensisの分類学的再検討を行った結果,コモウセンゴケD. spathulataとモウセンゴケD. rotundifoliaの雑種起源の分類群であり,独立種として認識されるべきものであるとの結論に達した。従って,学名をDrossera tokaiensis (Komiya & C. Shibata) T. Nakamura & Uedaとし,通称名であったカンサイガタ(関西型)コモウセンゴケを改め,標準和名としてトウカイコモウセンゴケを提唱する。トウカイコモウセンゴケは種子の形態,大きさ,腺毛の発達する部分の葉長に対する比,托葉の形態,裂片数においてコモウセンゴケとモウセンゴケの中間型を示す。また核型は,トウカイコモウセンゴケが2n=60=20L+40Sであり,モウセンゴケの2n=20=20Lとコモウセンゴケの2n=40=40Sの双方のゲノムを有している。なお,これまで葉形についてコモウセンゴケはヘラ型,トウカイコモウセンゴケはスプーン型とされてきた。東海地方では通常確かにそうであるが,近畿地方の集団に顕著にみられるように後者にもヘラ型的な個体が多く,両者の識別点にはならない。形態上の識別点として有効なのは托葉の形態である(Fig. 10)。さらに,トウカイコモウセンゴケは核型と托葉の形態を除けば,東海地方と近畿地方の集団では形態上かなりの点で異なっていることが判明した。この差異がトウカイコモウセンゴケが分類群として成立してからの分化なのか,異なった起源によるのかは今後の課題である。トウカイコモウセンゴケがコモウセンゴケの関西型として認識されだしたのは1950年代後半ごろからのようであり,新分類群として記載されたのは1978年である。しかし,東海,近畿地方の植物誌などでは本種には言及されず,どちらもコモウセンゴケとして扱われてきた。現在の分布状況から判断すると,そのほとんどはトウカイコモウセンゴケであると思われるが,判断は不可能である。湿地が急速に失われていく現状では標本が保管されていない産地にどちらの種が生育していたのか調べようがなく,不明のままであることが多い。改めて,公的機関での永続性のある標本の蓄積の重要性を認識した次第である。
著者
若菜 勇 佐野 修 新井 章吾 羽生田 岳昭 副島 顕子 植田 邦彦 横浜 康継
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.517, 2004

淡水緑藻の一種マリモは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧I類に指定される絶滅危惧種で,日本では十数湖沼に分布しているといわれている。しかし,生育実態はその多くで明らかではなかったため,過去にマリモの生育が知られていた国内の湖沼のすべてで潜水調査を行い,生育状況と生育環境の現状を2000年に取りまとめた(第47回日本生態学会大会講演要旨集,p.241)。その中で,絶滅危惧リスクを評価する基準や方法について検討したが,新規に生育が確認された阿寒パンケ湖(北海道),西湖(山梨県),琵琶湖(滋賀県)ではマリモの生育に関する文献資料がなく,また調査も1度しか行うことができなかったため,個体群や生育環境の変化を過去のそれと比較しないまま評価せざるを得なかった。一方で2000年以降,阿寒ペンケ湖(北海道)ならびに小川原湖(青森県)でも新たにマリモの生育が確認されたことから,今回は,過去の生育状況に関する記録のないチミケップ湖を加えた6湖沼で複数回の調査を実施して,個体群や生育環境の継時的な変化を絶滅危惧リスクの評価に反映させるとともに,より客観的な評価ができるよう評価基準についても見直しを行った。その結果,マリモの生育面積や生育量が著しく減少している達古武沼(北海道)および左京沼・市柳沼・田面木沼(青森県)の危急度は極めて高いことが改めて示された。また、1970年代はじめから人工マリモの原料として浮遊性のマリモが採取されているシラルトロ湖(北海道)では,1990年代半ばに47-70tの現存量(湿重量)があったと推定された。同湖における年間採取量は2-2.5tで,これはこの推定現存量の3-5%に相当する。補償深度の推算結果から判断して,現在のシラルトロ湖における資源量の回復はほとんど期待できず,同湖においては採取圧が危急度を上昇させる主要因になっている実態が明らかになった。
著者
中村 俊之 植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.125-137, 1991-12
被引用文献数
3

カンサイガタコモウセンゴケDorosera spathulata ssp, tokaiensisの分類学的再検討を行った結果,コモウセンゴケD. spathulataとモウセンゴケD. rotundifoliaの雑種起源の分類群であり,独立種として認識されるべきものであるとの結論に達した。従って,学名をDrossera tokaiensis (Komiya & C. Shibata) T. Nakamura & Uedaとし,通称名であったカンサイガタ(関西型)コモウセンゴケを改め,標準和名としてトウカイコモウセンゴケを提唱する。トウカイコモウセンゴケは種子の形態,大きさ,腺毛の発達する部分の葉長に対する比,托葉の形態,裂片数においてコモウセンゴケとモウセンゴケの中間型を示す。また核型は,トウカイコモウセンゴケが2n=60=20L+40Sであり,モウセンゴケの2n=20=20Lとコモウセンゴケの2n=40=40Sの双方のゲノムを有している。なお,これまで葉形についてコモウセンゴケはヘラ型,トウカイコモウセンゴケはスプーン型とされてきた。東海地方では通常確かにそうであるが,近畿地方の集団に顕著にみられるように後者にもヘラ型的な個体が多く,両者の識別点にはならない。形態上の識別点として有効なのは托葉の形態である(Fig. 10)。さらに,トウカイコモウセンゴケは核型と托葉の形態を除けば,東海地方と近畿地方の集団では形態上かなりの点で異なっていることが判明した。この差異がトウカイコモウセンゴケが分類群として成立してからの分化なのか,異なった起源によるのかは今後の課題である。トウカイコモウセンゴケがコモウセンゴケの関西型として認識されだしたのは1950年代後半ごろからのようであり,新分類群として記載されたのは1978年である。しかし,東海,近畿地方の植物誌などでは本種には言及されず,どちらもコモウセンゴケとして扱われてきた。現在の分布状況から判断すると,そのほとんどはトウカイコモウセンゴケであると思われるが,判断は不可能である。湿地が急速に失われていく現状では標本が保管されていない産地にどちらの種が生育していたのか調べようがなく,不明のままであることが多い。改めて,公的機関での永続性のある標本の蓄積の重要性を認識した次第である。