- 著者
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近田 文弘
清水 建美
- 出版者
- 国立科学博物館
- 雑誌
- 国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
- 巻号頁・発行日
- vol.38, pp.95-107, 2002
帰化植物は種数が多く,地域の植物相の重要な要素となっている.また,環境が変化した場所に侵入することが多く,帰化植物の分布状況は自然環境の改変を示唆すると考えられている.このような観点から富士山の帰化植物の分布を梅村(1923),近田・杉本(1983)の植物相調査と比較し,また垂直分布に注目して調査した.梅村(1923)には,1,110種の分布が記録されこの内,帰化植物は5種である.近田・杉本(1983)は,1,557種を記録し,この内,帰化植物は86種である(表1).今回の調査では31科113種の帰化植物を記録した.近田・杉本(1983)以後に新たに記録された種は42種である.これらの内,ナガミゲシ,ショカツサイ,シンジュ,オッタチカタバミ,マツヨイグサ,アレチウリ,ウラジロチチコグサ,セイバンモロコシは,東京とその近郊では普通であるのに,富士山ではごく限られた小地域で生育していて,最近富士山に侵入したことを思わせる.富士山の南面と北面では帰化植物の分布に違いが見られた.南面では86種が記録されこの内,40種は南面でのみ記録された.北面では53種で,17種は北面のみの記録である.南面は交通の便が良く都市化が進んでいるので,帰化植物の侵入口であることが予想される.帰化植物の垂直分布を,海岸から亜高山帯まで500mづつ標高を区切って各種の分布上限から調べると,大部分の帰化植物は標高1,000m以下に分布し,それより上では限られた少数の帰化植物が分布する.亜高山にまで分布できる帰化植物はセイヨウタンポポ,オオアワガエリ,カモガヤ,グンバイイナズナ,コイチゴツナギ等少数である.富士山の帰化植物数を他の地域と比較してみると,富士山では帰化植物数が少ないと言える.富士山の中腹以上の地表は火山灰で栄養や水分が乏しく,地表の大部分は帰化植物が生育し難い樹木の密生した森林で被われているいるので,帰化植物の生育できる範囲は限られていることが大きな原因ではないかと思われる.