- 著者
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伊藤 寿啓
喜田 宏
- 出版者
- 鳥取大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1996
インフルエンザウイルス(IFV)は哺乳動物や鳥類に広く感染する。すべてのIFVは野生水禽のウイルスに由来すると考えられている。しかし、ウイルスが異なる動物種間を伝播する機序が解明されていない.IFVはHA蛋白を介して細胞表面のシアル酸を末端にもつ糖鎖レセプターに結合して感染する。そこで、本研究ではIFVのレセプター特異性と宿主域との関連を解析し、さらに感染実験によってその異動物種間伝播のメカニズムを解明することを目的とした。宿主の細胞表面上にあるレセプターの種類をレクチンを用いて解析した結果、馬、鯨、アザラシの呼吸器にはシアル酸がガラクトースにα2-3結合している糖鎖(α2-3)のみが存在し、豚、フェレットにはα2-3およびα2-6の両者が存在することが判明した。これらの成績はα2-3親和性の鳥IFVが馬に直接伝播可能であるという疫学的知見を裏づける。また、鯨およびアザラシのウイルスが鳥由来ウイルスであるという遺伝子解析結果をも支持する。一方、豚やフェレットでは、α2-6親和性の人ウイルスもα2-3親和性の鳥ウイルスも共に増殖するという以前の感染実験の成績に一致する。一方、人ウイルスから選択された、α2-3親和性変異株のHAのみを有し、他の遺伝子は全て馬のウイルス由来のハイブリッドウイルスを作出した。このウイルスのHAは226番目のアミノ酸がLeuから鳥ウイルスと同じGluに変化していた。しかし、このウイルスは馬では増殖しなかった。さらに228番目のアミノ酸も鳥ウイルスと同じGlyに変化したHAをもつハイブリッドウイルスを作出したところ、馬でよく増殖した。即ち、IFVが馬の気管で増殖するためには226番目に加えて228番目のアミノ酸も重要であることが判明した。現在、このアミノ酸がIFVのレセプター特異性にどのような変化をもたらすのかをレセプター結合試験により解析中である。