著者
西本 憲弘 吉崎 和幸 桑島 正道
出版者
大阪大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

カルニチンは、生体にとって重要なエネルギー源である長鎖脂肪酸のβ酸化に関与する分子量161の小分子である。このカルニチンの輸送担体の遺伝子異常を有するJVS(juvenile visceral steatosis)マウスにおいては脂肪肝や低血糖、筋委縮などの全身性カルニチン欠損症状に加え、著しい胸腺の萎縮が認められ、組織学的検索から胸腺細胞のアポトーシスが疑われた。そこでJVSマウスを用いて、胸腺でのアポトーシス現象およびT細胞の分化におけるカルニチンの関与について検討した。【方法】2,4,8週齢のhomozygote(jvs/jvs)、heterozygote(+/jvs)ならびにL-カルニチン(1μmol/grBW,ip)による治療を行ったhomozygoteを用いた。胸腺の重量測定、HE染色、TUNEL法によるアポトーシスの検索に加えて、FACS-によるT細胞表面マーカーの解析を行った。【結果および考察】JVS未治療群では胸腺は萎縮していたがL-カルニチン腹腔内投与により胸腺重量は正常化したことからこの胸腺の委縮はカルニチン欠乏によって生じることが確認された。さらにJVSの胸腺ではアポトーシス陽性細胞の増加がTUNEL法により確認された。胸腺より分離したT細胞数もコントロールに比べ約1/10に減少し、これらの細胞を用いたFACS解析からJVSマウスの胸腺ではCD4^-8^-分画の割合が増加し、CD4^+8^+分画の割合が減少していることがわかった。このことからカルニチン欠乏におけるT細胞の分化をPositive Selectionの段階で障害する可能性も示唆された。JVSマウスはヒト原発性カルニチン欠乏症のモデルマウスであり後天性のものに必ずしもあてはまるとは限らないが、カルニチン欠乏はヒトAIDS患者でも報告されておりカルニチン欠乏状態がT細胞免疫不全を悪化させている可能性がある。カルニチンは経口でも補うことが可能であるからカルニチン欠乏が疑われる場合、不足を補うことで病態の悪化を防ぐことが可能である。

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