- 著者
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田口 文広
松山 州徳
中垣 慶子
森川 茂
石井 浩二
氏家 誠
- 出版者
- 国立感染症研究所
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
SARS-CoVは、受容体ACE2に結合後、エンドゾームに輸送され、cathepsin-Lなどのプロテアーゼによりスパイク(S)蛋白の膜融合能が活性化され、細胞侵入するという、エンドゾーム経路で細胞内へ侵入する。一方、我々は外来性のプロテアーゼが存在する場合、細胞表面から侵入する可能性を提唱した。この細胞表面からの侵入は、ACE2結合したS蛋白がプロテアーゼにより解裂され、膜融合活性を獲得するために可能になると考えられている。本研究では、この仮説を検証するため、解裂性S蛋白を持つpseudotypeウイルスを用いて、細胞表面からの侵入が可能か否かに付いて検討した。SARS-CoV S蛋白上の細胞内プロテアーゼ(フリン)により解裂が予想される3か所にプロテアーゼ認識アミノ酸配列を導入した変異S蛋白を作成した。このS蛋白をenvelope上に持つ水泡生口内炎ウイルス(VSV)のpseudotypeウイルスを作成し、その細胞侵入経路を検討した。3か所の変異挿入部位の中で、S蛋白797/798で解裂が起こるよう設計されたS蛋白は、細胞融合性を示し、pseudotype envelope上に発現された。このpseudotypeは、SARS-CoV非解裂性S蛋白を持つpseudotypeと比べ、エンドゾーム経由感染阻止薬による感染抑制はなく、また、SARS-CoVがエンドゾーム内で活性化されるプロテアーゼ阻害剤の影響も低かった。以上の結果から、解裂性S蛋白を持つpseudotypeは細胞表面から侵入することが強く示唆された。即ち、SARS-CoVはプロテアーゼの存在下で直接細胞膜から細胞侵入する能力を有することが確認された。マウス肝炎ウイルス(MHV)のS蛋白のheptad repeat由来peptideは膜融合活性を阻害することでウイルス感染を阻止することが報告されている。SARS-CoVのS蛋白でも同様の実験がなされたが、MHVに比べて阻害効率が著しく悪い事が報告されている。我々は、外来性のプロテアーゼ存在下、細胞表面からの感染が可能な状態で、peptideの感染阻害効率を再評価した。この結果、細胞表面からのウイルス感染では従来考えられていたよりも低濃度のpeptideで効率よく阻害できる事が分かった。このことは、これらのpeptideが潜在的なSARS-CoVに対するinhibitorとなりえる事を示唆するもので、SARS-CoVの感染経路にpeptideをターゲティングする事でSARS-CoVの感染を効率よく阻止できる可能性を示した。