著者
長屋 佐和子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.156-164, 2005-08-10
被引用文献数
2

0〜24ヶ月児の母親(120名)を対象として, 自身の子どもの性別・数・年齢が乳幼児表情写真(IFEEL Pictures)に対する情緒読み取り傾向に与える影響について検討した。その結果, (1)情緒読み取りには子どもの性差の影響が認められ, 息子をもつ母親に比べて娘をもつ母親のほうが受動的な情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (2)子どもが1人の場合は息子をもつ母親のほうが「不満」に注意を払う傾向があり, 子どもが複数の場合は娘をもつ母親のほうが受動的情緒(「恥」・「注意」)の読み取りが多い, (3)子どもの数にかかわらず, 息子をもつ母親は子どもの年齢が高くなるほど「自己主張」および肯定的情緒を多く読み取る傾向があるが, 娘の場合にはそのような関係が見られない, (4)子どもが複数の場合, 息子との関係では, 子どもの年齢が高くなると「対象希求」が増加, 「我慢」が減少する傾向がある, などの所見が得られた。従来の観察研究によれば, 母親は息子との間に肯定的な関係性を維持する傾向があるのに対し, 娘との間では多様な情緒による相互作用が行われる, とされてきた。本研究の所見から, 母子の行動上の特徴だけでなく, 母親側の認知側面においても同様の傾向が確認された。このように母親の認知面に注目することによって, 今後さらに母子相互作用の様相が明らかになると同時に, その所見の臨床場面への応用が可能になると思われる。
著者
日潟 淳子 齋藤 誠一
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.109-119, 2007-08-10

青年期は時間的展望の獲得期とされ,自己の人生に対して時間的な視野が広がるが,それと同時に現実と非現実が分化し,未来に対しては期待とともに不安も抱くことが示唆されている。本研究では高校生と大学生を対象に,過去,現在,未来に対する時間的展望の様相と精神的健康との関係をとらえ,青年が心理的に安定した状態で時間的展望の獲得を促す要因を検討することを目的とした。その結果,高校生,大学生ともに過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望を持つ者は精神的健康度が高かった。しかし,未来に対する時間的態度においては違いが見られ高校生では未来のみにポジティブな態度を示している者は精神的健康度が低かったのに対して,大学生では低くはなかった。高校生と大学生では未来を志向することに対する心理的影響が異なることが示唆された。また,過去,現在,未来に対してポジティブな時間的展望をもっている者は,過去,現在,未来の出来事をバランスよく想起しており,過去の出来事へのとらえ直しや,未来の出来事に対して現実的な認知を行っている様子が見られ青年期が心理的に安定した状態で時間的展望を抱く要因として自己の過去,現在,未来におけるライフイベントに対する関与の強さと的確な認知をしていることが示唆された。