著者
小野寺 敦子 青木 紀久代 小山 真弓
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.121-130, 1998-07-30
被引用文献数
15

はじめて父親になる男性がどのような心理的過程を経て父親になっていくのか, そして親になる以前からいだいていた「親になる意識」は, 実際, 父親になってからのわが子に対する養育態度とどのように関連しているのかを中心に検討を行った。まず, 父親になる夫に特徴的だったのは, 一家を支えて行くのは自分であるという責任感と自分はよい父親になれるという自信の強さであった。そして父親になる意識として「制約感」「人間的成長・分身感」「生まれてくる子どもの心配・不安」「父親になる実感・心の準備」「父親になる喜び」「父親になる自信」の6因子が明らかになった。親和性と自律性が共に高い男性は, 親になる意識のこれらの側面の内, 「父親になる実感・心の準備」「父親になる自信」が高いが「制約感」が低く, 父親になることに肯定的な傾向がみられた。また, これらの「親になる意識」が実際に父親になってからの養育態度にどのように関違しているかを検討した。その結果, 「制約感」が高かった男性は, 親になってから子どもと一緒に遊ぶのが苦手である, 子どもの気持ちをうまく理解できないと感じており, 父親としての自信も低い傾向がみられた。さらにこれらの男性は, 自分の感情の変化や自己に対する関心が高い傾向が明らかになった。
著者
平山 順子 柏木 惠子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.216-227, 2001-11-15
被引用文献数
3

本稿は,核家族世帯の中年期の夫と妻554名(夫婦277組)を対象に,夫婦間コミュニケーションの様態を検討した。夫と妻とをコミュニケーションを構成する2つの単位(個人)と捉え,夫と妻とのコミュニケーション態度の相違を検討した。加えて,相手(配偶者)へのコミュニケーショし態度と夫婦の学歴及び妻の経済的地位との関連性を検討した。主な結果は次のようである。(1)夫婦間コミュニケーション態度は,「威圧」「共感」「依存・接近」「無視・回避」の4次元から成る。(2)相手へのコミュニケーション態度得点(自己評定)を夫婦間比較した結果,ポジティブなコミュニケーション態度である「共感」と「依存・接近」では妻のほうが有意に高く,他方,ネガティブなコミュニケーション態度である「無視・回避」と「威圧」では夫のほうが有意に高かった。また,相手へのコミュニケーシション態度のうち,夫に最も顕著な態度は「威圧」,妻に顕著な態度は「依存・接近」であった。(3)夫・妻とも,相手へのコミュニケーション態度について,夫婦の学歴による差は見出されなかった。(4)夫の妻へのコミュニケーション態度のうち,「共感」において妻の経済的地位による差がみられ,妻の経済的地泣か高いほど,夫は妻に対して共感的なコミュニケーション態度をとる傾向が明らかにされた。夫と妻とが対照的に異なるコミュニケーション態度をとる背景には,性的社会化の影響,男女間の社会的・経済的地位の格差があると推察される。
著者
戸田 有一
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.25-33, 1993-07-10

統合保育が直面している課題の一つは, 発達遅滞幼児と健常幼児の仲間関係をいかによりよくするかである。この課題の解決への糸口を探すため, 幼児の軽度精神発達遅滞幼児 (MR児) と健常幼児に対する態度 (行為意図) とその理由を面接で尋ねた。6つの保育園で, それぞれ3人の幼児 (1人のMR児と2人の健常児) をターゲットに選び, その6園の210人の幼児 (4歳児が104人, 5歳児が106人) に個別面接を行った。写真で提示したターゲット児と散歩の時に手をつなぎたいか, お昼を隣で食べたいかなどを, その行為を行っている図版を示しつつ尋ねた。MR児に対する行為意図と健常児に対する行為意図に一定方向の違いは見られなかった。ターゲット児による行為意図の違いへの社会的接触の差異・年齢・性別の3要因での交互作用は有意であったが, 他の交互作用や主効果は有意ではなかった。選好・非選好の理由としてMR児は能力的側面に, 非選好理由として健常児は性格的側面に言及されることが多かった。
著者
謝 文慧
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.199-208, 1999-12-31

本研究では, 新入幼稚園児の移行過程において, 安定した友だちや, 「仲良し」や「親友」といった親密度の異なる友だち関係がいつ, どのように形成されていくのか, また, 「入園前の知り合い」や「入園前の友だち」が移行過程にどのような影響を及ぼすのかについて究明することを目的とした。4歳児8名 (男児4名, 女児4名) の白由遊び時間における幼児間の交渉を, 4月の入園時から10月中句まで6期に分けて観察した。観察内容は, 対象児と交渉を行った相手の名前, その相手との交渉回数, 交渉持続時間であった。各対象児の社会的ネットワークでの連続交渉回数と延べ交渉時問を検討し, 安定した友だち関係, 仲良し関係と親友関係は, 6月から7月中旬にかけて (入園後1カ月半から3カ月) 形成され, さらに, 親友関係は10月にまで持続されることが明らかとなった。「入園前の知り合い関係」や「入園前の友だち関係」は移行初期においていずれも新入幼稚園児の社会的ネットワークに影響していた。しかし, 長期的には「入園前の友だち関係」のほうがより強い影響を及ぼしていた。
著者
松岡 弥玲 岡田 涼 谷 伊織 大西 将史 中島 俊思 辻井 正次
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.179-188, 2011-06-20
被引用文献数
1 1

本研究では,発達臨床場面における介入や支援における養育スタイルの変化を捉えるための尺度を作成し,養育スタイルの発達的変化とADHD傾向との関連について検討した。ペアレント・トレーニングや発達障害児の親支援の経験をもつ複数の臨床心理士と小児科医師によって,養育スタイルを測定する項目が作成された。単一市内の公立保育園,小学校,中学校に通う子どもの保護者に対する全数調査を行い,7,000名以上の保護者からデータを得た。因子分析の結果,「肯定的働きかけ」「相談・つきそい」「叱責」「育てにくさ」「対応の難しさ」の5下位尺度からなる養育スタイル尺度が作成された。ADHD傾向との関連を検討したところ,肯定的働きかけと相談・つきそいは負の関連,叱責,育てにくさ,対応の難しさは正の関連を示した。また,子どもの年齢による養育スタイルの変化を検討したところ,肯定的働きかけ以外は年齢にともなって非線形に減少していく傾向がみられた。本研究で作成された尺度の発達臨床場面における使用について論じた。
著者
野村 晴夫
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.109-121, 2005-08-10

本研究では, 高齢者の人生転機の語りに基づき, 構造的一貫性に着目したナラティヴ分析の方法論的検討を目的とした。一高齢女性の転機の語りを材料として, まず, Habermas & Bluck (2000)の提起した, ライフストーリーにおける時間的・因果的・主題的一貫性の分析枠組みに依拠し, 高齢者の語りを分析するための下位カテゴリーを抽出した。その後, 理論的な推測を考慮しつつ, 当初の分析枠組みを検討することによって, 新たに語りの状況要因を加味した状況的一貫性の分析枠組みを付加し, 同様にその下位カテゴリーを抽出した。その結果, 故人や神仏等の超越的他者に起因する因果的一貫性や, 聞き手との相互性を考慮した状況的一貫性等, 物語様のさまざまな構造を把捉し得る分析カテゴリーが, 見出された。そして, 最終的に得た分析カテゴリーを用いて, 調査対象者の転機の語りを分析し, 転機に付与された意味づけを考察した。本研究の試みから, 仮説的分析枠組みに基づく分析カテゴリーを用いることによって, 高齢者の転機の語りの構造的一貫性を具体的に分析する方途が示唆された。
著者
佐藤 眞一 下仲 順子 中里 克治 河合 千恵子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.88-97, 1997-07-30
被引用文献数
3

年齢アイデンティティのコホート差, 性差, およびその規定要因を生涯発達の視点からとらえるために, 8-92歳の一般住民女性1,026名, 男性816名の合計1,842名を対象に調査を実施した。年齢アイデンティティの指標として, 感覚年齢(実感年齢, 外見年齢, 希望年齢の3種類)および理想年齢の4種類の主観年齢を測定した。主観年齢の暦年齢からの偏差を年齢コホートの変化過程に沿って検討すると, 主観年齢が自己高年視から自己若年視へと転じる現象のあることが明らかとなった。男性ではその転換が青年期(18一24歳)前後でみられたのに対して, 女性では思春期G3-17歳)前後に生じていた。また, 感覚年齢では, 男性が成人前期(25-34歳)から成人中期(35-44歳)で変化が少なく, 女性では青年期から成人前期(25-34歳)にかけての変化が少なかった。理想年齢では, 男女とも青年期以降変化が少なくなる傾向にあったが, 男性の場合には成人後期(45-54歳)から, 女性では初老期(55-64歳)から再び変化が大きくなった。年齢アイデンティティの規定要因を検討したところ, 教育年数, 健康度, 自尊感情, タイプA, 女性性に何らかの有意な効果がみられたが, いずれの主観年齢においても暦年齢の効果が最大であった。このことから, 年齢アイデンティティあるいは主観年齢に対しては, 社会的な要因ばかりでなく加齢に伴う心理学的時間感覚ないし時間評価も同時に影響していると思われた。
著者
仲村 照子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.61-71, 1994-06-30
被引用文献数
6

この研究の目的は子どもの死の概念の発達を調べるものである。3歳から13歳までの男女205名の子どもたちに個別に面接し, 死に関する9の質問に答えてもらった。結果は, 幼児期の子どもは大人がもつような死の意味とは違ったものとして理解している。生と死は未分化であり, 現実と非現実の死の区別がなされておらず, その子ども独自の自由な死の概念を形成していると思われる。そして自分は死なないと思っている。児童期あたりから死の現実的意味である普遍性, 体の機能の停止, 非可逆性を理解するようになる。彼らは誰でもいつかは死ぬし, 死によって体の機能は停止するし, 再び生き返ることは出来ないことを理解する。これらの自覚から死は自分にも起こり得ると考えるようになり, それはやがて死後の世界ヘの想像, 願望, 希望が膨らみはじめると思われる。特に年齢が高くなるにつれて人間は死んだらまた生まれかわるという「生まれかわり思想」の増加が目立った。全年齢を通して変化のないものは死はいやな感じであるという感情であった。
著者
水野 里恵
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.56-65, 1998-04-10
被引用文献数
8

254名の第一子の乳幼児期の縦断研究の結果, 乳児期の子どもの気質的扱いにくさと母親が子どもに対して感じる分離不安が, その子どもが幼児期に達した時の母親の育児ストレスと関連があることが明らかになった。幼児期に気質診断類型でdi拓cuhになる子どもは, easyになる子どもに比較して, 乳児期に新しい情況に消極的で順応性が低い子どもであった。そして, dimcuhの子どもを持つ母親は, easyの子どもを持つ母親に比較して, 育児ストレスを強く感じていた。乳児期と幼児期の気質次元に対する正準相関分析および乳幼児期の正準変数得点と母親の育児ストレスとの相関分析の結果から, 乳児期に世話がしにくく順応性が悪い子どもは, 幼児期に活動性が高く順応性が悪く持続性がない子どもになる傾向があり, それらの子どもの母親の育児ストレスは高いことが明らかになった。乳児期に子どもに対する分離不安が高い母親は, 分離不安が低い母親に比較して, 伝統的母親役割観を強く持ち, 子どもを預けての外出を控える傾向にあり, 幼児期に青児ストレスが強かった。
著者
宇良 千秋 矢冨 直美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.34-41, 1997-04-30
被引用文献数
1

本研究では高齢者に笑いを誘う刺激を提示し, その間に起こった笑いの表情の表出度(頻度・持続時間・強度)に対する年齢と認知能力の影響について検討を行った。サンプルは高齢者福祉センターに通う60歳以上の男女54名であった。実験は個別に行った。被験者に対して笑いを誘発する2つのピデオ刺激を提示し, その間の被験者の表情をビデオカメラで撮影した。被験者はそれぞれの刺激に対して感じたおもしろさの強度を評定した。さらに, 認知能力を測定するテストとして絵画配列課題を施行した。2名の研究者が独立に笑いの表情の判別および表出度の測定を行った。分析の結果, 認知能カによって笑いの表出度に有意な差はみられなかった。しかし, 刺激の種類によって笑いの表出度に有意な年齢差がみられ, 場面展開の速い刺激において前期高齢者より後期高齢者の笑いの表出度が小さかった。また, 笑いの表情が表出されているにもかかわらずおもしろいと感じなかった者や, 逆に, 笑いの表情が表出されていないのにおもしろいと感じた者が相当数おり, 表出と主観的情動経験との間に有意な相関はみられなかった。表出の傾向として, 約半数の被験者の表出強度が口角や頬がわずかに動く程度のごく弱いものであったこと, いったん表出された笑いが消失されずに保持される者が少なくなかったことが示された。
著者
菅野 幸恵 岡本 依子 青木 弥生 石川 あゆち 亀井 美弥子 川田 学 東海林 麗香 高橋 千枝 八木下(川田) 暁子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.74-85, 2009-04-20

本研究では子育て・親子関係を正負双方の側面をもちあわせたダイナミックなプロセスとしてとらえ,はじめて子どもを産む女性を対象に,子どもに対する不快感情についての説明づけを縦断的に検討した。具体的には子どもが2歳になるまでの間3ヶ月ごとにインタビューを行い,そこで得られた子どもに対する不快感情についての説明づけを分析することを通して,母親たちのものの見方を明らかにした。母親たちのものの見方は,目の前のわが子の育ち,子育ての方向性,母親自身の資源とが,せめぎあうなかで成り立っていることが考えられた。生後2年間の変化として,子どものことがわからないところから子どもの行動をパターン化し,1歳の後半には人格をもった一つの主体としてとらえるようになるプロセスと,世話・保護の対象から親の影響を受けるひとりの主体として子どもをとらえ,ソーシャライザーとしての役割を認識するようになるプロセスがあることが明らかになった。そのようなものの見方の変化は子どもの発達と不可分であることが示された。
著者
川田 学
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.157-167, 2011-06-20

乳児期における他者理解のひとつの形式とされる同一化(identification)について検討するため,擬似酸味反応(virtual acid responses)と呼ばれる現象について実験的に検討した。擬似酸味反応とは,例えば他者が梅干を食べようとしているところを見るだけで,(他者が酸っぱそうな顔をしていないのに)自分が酸っぱそうな顔になってしまうといった現象で,久保田(1981)によって6か月児の一事例が報告されていた。本研究には,43名の乳児(生後5か月〜14か月の乳児をyounger群[5〜9か月]22名,older群[9〜14か月]21名に分割)が実験に参加した。材料にレモンを用い,事前にレモンを食する経験をした乳児(Le群)とそうでない群(N-Le群)に分け,両群に対して実験者が真顔のままレモンを食する場面を呈示した。最終的に9個の行動カテゴリを抽出した。主要な結果として,(1)Le群>N-Le群でより多くの行動カテゴリの生起が見られること,(2)顔をしかめたり,口唇の動きが活発になるなどの典型的な擬似酸味反応はLe-younger群で多く見られるが,Le-older群では手のばしや発声のような外作用系の活動が多いこと,(3)他者が真顔のままレモンを食す場面を呈示されたLe群と,他者がいかにも酸っぱそうな表情でレモンを食す場面を呈示されたN-Le群では,反応が変わらないかむしろLe群においてより活発であった。以上の結果に基づき,生後1年目後半の乳児の意図理解や三項関係の発達と関連づけて議論した。
著者
平山 順子 柏木 恵子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.89-100, 2004-04-20
被引用文献数
1

本稿は、核家族世帯の中年期夫婦277組を対象に,夫婦間コミュニケーション態度をもとに夫婦のコミュニケーション・パターンの特徴を明らかにし,その様態が夫・妻それぞれの心理状態とどう関係しているか,またコミュニケーション・パターンの差をもたらしている要因を夫婦の経済生活及び結婚観との関連で検討した。主な結果は次のとおりである。(1)対象夫婦は,双方がポジティブな態度でコミュニケーションをしている「共感親和群」(36.5%),平均的で中立的なコミュニケーションをしている「平均中立群」(35.7%)、双方がネガティブな態度でコミュニケーションしている「威圧回避群」(27.8%)の3群に分類された。(2)共感親和群及び威圧回避群では,妻は夫に比べて夫婦関係満足度が低く,離婚思念度が高いことが明らかにされた。特に威庄回避群では夫と妻との得点差が他の2群に比べて大きかった。(3)夫婦の経済生活はコミュニケーション・パターンの違いと関連しており,片働き夫婦では平均中立群が多いこと,一方、妻の年収100万円以上の共働き夫婦では共感親和群が多いことが見出された。(4)夫婦のコミュニケーション.パターンと結婚観との関連を検討した結果,共感親和群の夫は平均中立群・威圧回避群の先に比べて,<相思相愛>及び<夫の妻への理解・支持>が顕著に高いことが明らかにされた。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.86-95, 2009-04-20

本研究の目的は,不思議を感じとりそれを楽しむ心の発達について明らかにすることであった。研究1では,幼稚園年少児29名,年中児34名,年長児33名に3つの手品を見せ,そのときの幼児の顔の表情,探索行動,言語回答を観察し分析を行った。その結果,年少児では手品を見せられても顔の表情にあまり変化がなく,手品の不思議の原理を探ろうとする探索行動も全く見られなかったのに対して,年中児では軽く微笑んだり声をあげずに笑うなどの小さい喜び反応が増加し,探索行動も現れるようになり,さらに年長児では声をあげて笑ったりうれしそうに驚くなどの大きい喜び反応が増加し,探索行動も増加するといった一連の発達的変化が確認された。研究2では,研究1に参加した幼児86名に対して空想/現実の区別課題を行い,研究1の手品課題における反応との関連について検討した。その結果,空想/現実の区別を正しく認識している幼児ほど,手品を見たときに喜び反応をより多く示していたことがわかった。以上の結果から,不思議な出来事に遭遇したときに生じる,出来事の不思議に気づき,それを楽しみ,探究するといった心の動きが幼児期において発達すること,そしてその発達の背景には空想/現実の区別についての認識発達が存在することが示唆された。
著者
原田 新
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.95-104, 2012-03-20

本研究の目的は,青年期から成人期への発達的移行に伴う自己愛と自我同一性との関連の変化について検討することであった。青年期として18歳〜25歳の大学生・大学院生の371名,成人期として26歳〜35歳の352名に対して,自己愛と自我同一性の尺度を含む質問紙調査を実施した。発達段階ごとに自己愛と自我同一性との関連について検討した結果,特に「注目・賞賛欲求」と「共感性の欠如」に関して,青年期と成人期における注目すべき関連の差異が示された。さらにそれら自己愛の2変数を説明変数,「中核的同一性」,「心理社会的自己同一性」の2種類の自我同一性を目的変数とするモデルを両発達段階に対して仮定し,多母集団同時分析を実施した。その結果,青年期よりも成人期の自己愛の方が自我同一性に対してより強い負の影響を及ぼすことが示された。これらの結果から,「注目・賞賛欲求」や「共感性の欠如」という自己愛的心性を解消することは善年期の発達的課題であり,そのような課題が解決されなかった場合,成人期におけるそれらの高さは自我同一性の形成に負の影響を及ぼすことが示唆された。
著者
佐藤 由宇 櫻井 未央
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-157, 2010-06-20

広汎性発達障害者の抱える心理的な問題として,他者との違和感や自分のつかめなさといった自己概念の問題の重要性が近年指摘されているが,その研究は非常に困難である。本研究では,当事者の自伝を,彼らの自己内界に接近できる数少ない優れた資料であると考え,中でも卓越した言語化の能力を有する稀有な当事者による自伝を分析することによって広汎性発達障害者の自己内界に迫り,自己の特徴と自己概念獲得の様相を探索的に明らかにすることを目的とした。1冊の自伝を取り上げ,KJ法で分析を行った。結果,311のエピソードを取り出し,28のカテゴリーを生成した。その当事者の自己の様相においては,自己感の曖昧さや対人的自己認知の困難などの特異的な困難が明らかとなった。それらの困難ゆえに,対人的自己認知の獲得の過程において,主体としての自己を喪失する危機が生じやすいが,その際,自己感の曖昧さや対人接触の拒絶,解離など一般に障害あるいは症状とみなされる現象が危機に対する対処として機能していると考えられた。さらに,対人的自己認知は困難であるとはいえ,対人的経験の中で自己感を得られる新たなコミュニケーションスタイルを獲得しうる可能性も示唆された。
著者
杉村 智子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.342-352, 2010-12-20

顔などの視覚情報の特徴を言語で表現すると,後の視覚情報による再認成績が低下する現象は言語隠蔽効果(Schooler & Engstler-Schooler,1990)として知られている。本研究では,幼児を対象として,ライブイベントを目撃した際の人物の顔の再認記憶において言語隠蔽効果が見られるかどうかを検討した。調査対象者には,女性が紙芝居を読み男性が紙芝居の手伝いをするという出来事を目撃させ,約1日後に,出来事の内容についての自由再生と,顔の再認課題を行わせた。その際,言語群には,人物の顔や髪型等の人物の特徴についての言語供述を行わせたあとに再認課題を行わせ,統制群には再認課題のみを行わせた。その結果,言語群のほうが再認成績が低い傾向にあった。また,言語群の言語供述については,人物同定の手がかりとはならない主観的情報や誤った情報が述べられる傾向がみられた。これらの結果が,言語隠蔽効果が生起する認知過程の観点と,子どもの目撃証言に関わる実用的観点から考察された。
著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.170-179, 1996-12-20

発達心理学では, 家庭環境の影響を示すために, 親の与える家庭環境の指標と子どもの行動指標との相関を用いる。しかしそこには遺伝的影響が関与している可能性がある。本研究では秋田(1992)が行った「子どもの読書行動に及ぼす家庭環境の影響に関する研究」に対して, 行動遺伝学的視点から批判的追試を行った。小学6年生の30組の一卵性双生児ならびに20組の二卵性双生児が, その親とともに読書に関連する家庭環境に関する質問紙に回答した。子どもはさらに読書行動に対する関与度についても評定が求められた。親の認知する家庭環境の諸側面は子の認知するそれと中程度の相関を示した。図書館・本屋に連れて行ったり読み聞かせをするなど, 親が直接に子どもに与える環境を子が認知する仕方には, 遺伝的影響がみられた。また子どもの読書量についても遺伝的影響が示唆された。だが子どもの読書に対する好意度には, 遺伝的影響ではなく, 親の認知する蔵書量が影響を及ぼしていた。
著者
川野 健治
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.395-403, 2012-12-20

本稿の目的は,暴力と自殺を通して貧困について考えることである。ただし,社会的排除を強めることになりかねないので,暴力と自殺の共通性を仮定することには慎重でありたい。貧困は,アノミー論や内的衝動論が示すように,個体の暴力発生の確率を高める側面をもっている。しかし,そればかりではなく,児童虐待,配偶者間暴力,犯罪の側面からみると,暴力の方向性に影響を与えている可能性がある。一方,自殺については,景気変動との関係は指摘されており,理論的な説明も試みられている。しかし,社会経済状況やそれに基づく社会資源の不足を指標とした貧困と自殺関連行動との関係性についての実証的研究では,一貫した結果は得られていない。暴力と自殺を通して見出される貧困の特徴とは,解消すべき内的な心理状態を生み出すものであり,その発露に対する防御因子,たとえば家族との適切な交流とか,支援・サービスの利用とか,安定した住環境とか,教育の機会を剥奪するものであった。しかし,逆にいえば,貧困に注目することで,暴力や自殺の発生を規則的に把握することができる。ニッチとしての貧困という視点からの研究を進めることで,これらの社会病理を管理する手がかりを得られるのではないだろうか。