著者
浅川 淳司 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.243-250, 2009-09-10

幼児は数を表したり数えたりする際に指を使っている。幼児の計算時における指の利用に関しては計算の方略という観点から研究が多く行われており,発達段階や課題によって指の利用頻度や用い方が変化することが明らかにされてきた。これらの結果は,計算において指の利用が重要な役割を果たしていることを示唆しているが,近年,指の認識の発達も計算能力に関係することが指摘されはじめた。そこで本研究では,指の認識過程において重要な役割を果たすと考えられる手指の運動に着目し,幼稚園の年長児48名を対象に計算能力と手指の巧緻性の関係を検討した。その結果,手指の巧緻性と計算能力との間には有意な強い相関がみられ,この関係は,月齢と動作性の知的発達得点や月齢と短期記憶容量の得点を統制しても,変わることがなかった。また,計算能力との相関は短期記憶容量よりも指の巧緻性の方が強かった。以上の結果から,就学前の子ども計算能力には,従来の知見から予想される以上に,手指の巧緻性が関係していることが示唆された。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.33-41, 2013-03-20

本研究の目的は,恋人のいる大学生を対象とした3波のパネル調査によって,アイデンティティと恋愛関係との間の因果関係を推定することであった。恋人のいる大学生126名を対象に,多次元自我同一性尺度(谷,2001)と恋愛関係の影響項目(高坂,2010)への回答を求めた。得られた回答について,交差遅れ効果モデルに基づいた共分散構造分析を行った。その結果,恋愛関係からアイデンティティに対しては, Timel及びTime2の「関係不安」得点がTime2及びTime3のアイデンティティ得点にそれぞれ影響を及ぼしていることが明らかとなった。一方,アイデンティティから恋愛関係に対しては有意な影響は見られなかった。これらの結果から,アイデンティティ確立の程度は恋愛関係のあり方にあまり影響を及ぼさないとする高坂(2010)の結果を支持するとともに,Erikson(1950/1977)の理論や大野(1995)の「アイデンティティのための恋愛」に関する言及を支持するものであり,青年が恋愛関係をもつ人格発達的な意義を示すことができたと考えられる。
著者
吉田 真理子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.44-54, 2011-03-20

本研究は,実験とインタビューを通して,幼児における未来の自己の状態を予測する能力を調べた。特に,「起こるかもしれない」未来の自己の状態を予測しはじめる時期を特定するため,実験では,不確実に生起しうる未来で必要となるアイテムを前もって準備するか否か,インタビューでは,実際の未来の行事に対して自覚的に心配を抱いているか否かを検討した。対象児は幼児36名(3歳児11名,4歳児12名,5歳児13名)であった。その結果,(1)4歳頃から不確実に生起しうる未来に必要なアイテムを準備するようになること,(2)4歳頃から未来の行事に対して心配があると答えるようになること,(3)アイテムの準備と心配の有無には関連がみられること,(4)未来の複数の可能性を予測する際にはそれらの生起確率を考慮する必要があることが明らかとなった。以上の結果から,子どもは4歳頃から,未来の自己の状態を,複数の可能性があるものとして予測するようになることが示唆された。
著者
河本 英夫
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.339-348, 2011-12-20

発達には,それぞれの局面で経験そのものの再編が含まれる。そうした経験そのものの再編を含むような変化を考察するさいには,経験の組織化がどのような仕組みで起きているのか,またそのことは能力の開発形成の誘導を行う発達障害児の治療で,どのような介入の仕方を可能にするのかという問にかかわることになる。発達にかかわる議論では,いくつか難題が生じる。発達段階論は,図式的な発達論の派生的な問題である。そうした難題に関連して,1.で三点に絞って考察している。第一に「発達するシステムそれ自体」に,観察をどのように届かせるのかにかかわり,第二に発達というとき,「何の発達か」という問にかかわり,第三に発達の段階そのものは,どのような仕組みで成立するかにかかわっている。それらの検討を受けて,2.では,脳神経系の事実から,発達論の基礎となる構造論的な論理を設定している。また発達という生成プロセスをどのように捉えるかを考察した。これは発達障害の治療では,決定的な治療介入の変更を示唆する。
著者
飯塚 有紀
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.278-288, 2009-09-10

本研究は,低出生体重児が保育器に収容されることによって母と分離され,保育器を出ることによって再統合された20組の母子について,特に「抱き」と「子どもの動き」に注目して観察を行った。その結果,まず「抱き」の種類の変化について検討するため,再統合直後(以下「前期」)と退院直前(以下「後期」)を比較したところ,前期では「横抱き」の出現数が最も高く,後期では「対面抱き」が最も高かった。これは,「横抱き」に「対面抱き」が追加されるという「抱き」の種類の増加の過程であった。また,「子どもの動き」の出現数を検討したところ,後期の出現数は,前期のそれに比して有意に増加した。このことから,母親が「対面抱き」を「抱き」の種類に加える過程と「子どもの動き」の増加との間には密接な関係が予想されたため,この関係について検討すべく「抱き」の前後に起こるイベントを考察したところ,「対面抱き」にはより遊び的な機能,「横抱き」ではあやしやなだめといった機能のように,その機能に違いがあることが明らかとなった。
著者
西條 剛央
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.97-108, 2002-08-10

生後1カ月の乳児とその母親16組を対象として,1カ月時から7カ月まで1カ月おきに「抱き」の縦断的観察が行われた。そして,ダイナミックシステムズアプローチに基づき,乳児の身体発達・姿勢発達・行動発達の3側面から,「横抱き」から「縦抱き」への移行に最も影響するコントロールパラメータが検討された。その結果,乳児の「横抱きに対する抵抗行動」が最も縦抱きへの移行に影響力のあるコントロールパラメータとなっていることが明らかになった。次に,縦抱きへの移行プロセスを明らかにするために,母親の言語報告と通常抱き場面における縦抱きへの移行場面を撮影した事例を質的に分析した。その結果,横抱きから縦抱きへと移行プロセスは,以下の3パターンがあることが明らかとなった。(1)乳児が抵抗を示しはじめると,母親は,緩やかな間主観的な解釈を媒介として,乳児が安定する抱き方を探索し,その結果「抵抗」の収まる縦抱きに収斂する。(2)乳児の首すわりといった身体情報が母親に縦抱きをアフォードする。(3)上記の(1)と(2)の双方が影響を与え縦抱きへと移行する。以上のことから「抱き」という行為は,母子の相互作用を通して一定の方向へ自己組織化していく行為であることが示された。
著者
古屋 喜美代
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.12-19, 1996-08-01

子どもは文字を読み始める前から, 自分で絵本を開き, 絵を見てその内容を言語で表現し始める。この初期の絵本読み場面について, 1事例について2歳から4歳まで縦断的に約月1回資料を収集し, 以下の点について検討を加えた。第1点は, 「語り」についての子どもの認識の発達であり, 第2点は, 子どもがどのように登場人物とかかわっているかである。この2点から, 絵を見て絵本を読む時期には次の4つの発達的段階が見いだされた。任)絵本を「読む役割」に興味をもって, 絵を見て物語の内容を表現し始める。他者に向けて言語化するという意識は弱い。(2)セリフと母親に直接語りかけるような話し言葉的ナレーションで物語を表現し, 始まりと終わりを宣言する必要を理解している。ここまでの段階では, 子どもは物語の中に引き込まれた発話をすることがあり, 物語世界の外にいる自分を登場人物と対立的に意識してとらえてはいないと考えられる。(3)子どもは絵本の登場人物に対する自分自身の思いを, 感想や疑問として表現する。このことは, 子どもが物語世界の外にいる「読者」としての自己の立場を認識していることを示唆する。(4)セリフと書き言葉的ナレーションで表現する。子どもは作者の語り口をとる「語り手」としての自己を意識し, その語り口を保持する。
著者
金子 俊子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.41-47, 1995-07-15

E. H. Eriksonが提唱した, 自己同一性が他者との関わりを通じて確立されていくという理論を基にして, 青年とそのまわりの友人 (一般的他者) との関係のしかたと, 自己同一性形成との関連を探求した。(1) 10項目からなる文章完成法の質問紙を72名の大学生に実施して, (2) それに基づき, 自己一他者関係尺度を作成して, 100名の大学生に実施し, 因子分析の結果, 「違い意識」「左右されやすさ」「距離をおくこと」の3因子が得られた。 (3) さらに, 自己一他者関係尺度と中西・佐方G982) の同一性拡散感尺度, 遠藤ら (1981) の同一性測定尺度を90名の青年 (大学生及び専門学校生) に実施した。その内の63名について, 「違い意識」「左右されやすさ」「距離をおくこと」の下位尺度と自己同一性との関連を検討した結果, 「左右されやすさ」や「距離をおくこと」が強い青年ほど「私は誰?」というような同一性拡散の感覚が強く, 「違い意識」がある青年ほど「自分への確信」がしっかりしているということが明らかになり, 自己一他者関係の特徴と自己同一性の確立度との関連が見いだされた。
著者
高橋 登 大伴 潔 中村 知靖
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.343-351, 2012-09-20

筆者らはこれまで,インターネットで利用可能な適応型言語能力検査(ATLAN)として,語彙,漢字の2つの検査を開発してきた。本研究ではその下位検査として新たに作成した文法・談話検査について,その特徴と妥当性を検討した。最初に本研究で測定しようとする文法・談話の能力について先行研究に基づき定義を行った。研究1では,この定義をもとに小学生を対象とする課題として8種類の問題タイプについて計67課題を作成,これを2つの版に分けて小学1〜3年生309名に実施した。また幼児を対象とする課題として12種類の問題タイプについて計67課題を作成,これを2つの版に分けて幼稚園児258名に実施した。項目特性曲線のデータとの当てはまりの程度を考慮し,最終的に128項目を項目プールとして選定し,文法・談話検査としてATLANに追加実装してインターネットを介してWebで利用できるようにした。次に研究2において,妥当性を検討するために,ATLAN語彙,文法・談話検査とLCスケール(大伴・林・橋本・池田・菅野,2008)を幼稚園児59名に実施した。ATLAN2検査を説明変数,LCスケール得点を目的変数とする重回帰分析を行った結果,2課題で目的変数の分散の48%が説明されることが示された。最後に,ATLAN文法・談話検査について残された課題について論じ,ATLANの今後の拡充方針について解説した。
著者
細谷 里香 松村 京子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.331-342, 2012-09-20

我々は以前,優れた教師が子どもと関わるときに自身の情動能力に自覚的であり,子どもの前での情動表出を指導に用いる有効なスキルの一つとして捉えていることを報告した。本研究は,教育実習に参加した教員養成課程在籍学生の子どもと接しているときの情動体験および情動表出パターンを明らかにし,実習生と優れた教師の情動体験・情動表出および調整プロセスの比較により,今後の教員養成への示唆を考察することを目的とした。教育実習終了後の大学生計41人に,個別に半構造化面接を実施し,質的な分析を行った。実習生は,子どもと関わっている時に,喜びなどのポジティブ情動とともに,怒り,悲しみ,恐れ,嫌悪などのネガティブ情動も感じていた。ネガティブ情動は子どもだけでなく,自分自身によっても喚起されていた。優れた教師との顕著な違いは,実習生が教師としての未熟さに由来する恐れを感じていたことであった。情動表出パターンとしては,自然な表出,情動の直接的演出,抑制等のほかに,実習生の顕著な特徴として,恐れのコントロール不能が見出された。優れた教師が自覚的に行っていた怒りの直接的演出は,実践を困難に感じる実習生がいたことが明らかとなり,実習生の怒りの演出に関連する情動調整プロセスが見出された。教員養成教育において,子どもと関わるための教師の情動能力への気づきを促すような教育が求められる。
著者
青木 直子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.320-330, 2012-09

本研究は,自然場面において子どもがほめられる場面に注目し,子どものほめられる経験の認識と動機づけの関連について検討したものである。研究1では,小学校1〜3年生に対して,ほめられてがんばろうと思ったことをたずねるインタビュー調査を行い,子どもの報告に含まれる要因を整理した。その結果,ほめられた時期・ほめ手・ほめられたことがら・ほめられた活動をするに至った背景・ほめられた活動に対する評価・ほめられ方・感情という7つの要因が見出され,ほめられたことがら・ほめられ方・ほめ手という要因が報告されやすいことが明らかになった。研究2では,子どもにほめられてがんばろうと思ったエピソードをたずね,ほめられて動機づけが高まるとき,そのエピソードにおけるほめられたことがら・ほめられ方・ほめ手の中でもっとも重要であるものを選択させ,その選択理由をたずねた。その結果,ほめられたことがらという要因はその活動の価値を決定するため,動機づけに影響をもたらすこと,ほめ手という要因はほめ手に対する肯定的感情や対人的欲求に差異を生じさせるため,動機づけが変化すること,ほめられ方という要因はその内容やフィードバックの際の口調などによって子どもに自信をもたせるため,動機づけを高めることが示唆された。
著者
水口 啓吾 湯澤 正通
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-84, 2012-03-20

本研究では,日本語母語大学生・大学院生60名を対象として,音韻構造の異なる5つの英単語(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)を用いた記憶スパン課題を行い,英単語音声知覚時の分節化について検討した。その結果,以下のことが明らかになった。第1に参加者全体の記憶スパンを音韻構造で比較したところ,CVCとCVCV,CVCCとCVCVCの記憶スパンはそれぞれ同じだが,CVC,CVCVの記憶スパンは,CVCC,CVCVCの記憶スパンよりも長かった。第2に,モーラ分節者の反復音声持続時間は,もとの音声刺激の持続時間や,混合分節者のそれよりも長くなる傾向が見られた。第3にTOEIC得点の高い英語能力高群の記憶スパンでは,低群のそれよりも,音節による分節化と一致するパターンが多く見られた。以上の結果から,長期間,英語学習を積んできた大学生・大学院生であっても,英単語音声の知覚や音韻的短期記憶内での処理において,日本語母語のリズムの影響を強く受けること,そして,英語能力の向上は,音節による分節化と密接な関連があることが示唆された。
著者
中島 伸子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.202-213, 2012-06-20

本研究の目的は,老年期における身体・心的属性の機能低下について,幼児や小学生がどのように理解しているのか,そしてそれはどのように発達するかを検討することであった。24名の5歳児,28名の6歳児,24名の7歳児,28名の8歳児,31名の大学生の5群を対象に,5種の身体属性(走る速さ,風邪に対する耐性,腕力,心臓の働き,骨の強度)と心的属性として記憶力の計6属性について,5歳(幼児)から21歳(若年成人)および21歳から80歳(高齢者)へと加齢後どのように変化するかを「以前より衰退する」「以前より向上する」の2選択肢のもとで予測させた。その結果,(1)老年期における身体属性の機能低下については,5歳から気づきはじめ,6歳では大学生と同程度の理解に達すること,(2)老年期における記憶力の低下についての理解は,幼児から7歳くらいまでは希薄なのに対して,8歳以降,大学生にいたるまでに明確になること,(3)記憶力の低下についての理解の発達的変化には,記憶力と身体ないしは脳(頭)との関連性についての認識が関与していることが見出された。老化現象の理解の発達に関わる認知的要因について,素朴生物学の発達と心身相関的な枠組みの獲得という観点から考察した。
著者
野村 信威 橋本 宰
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.75-86, 2001-07-15
被引用文献数
2

本研究における目的は,老年期における回想という行為と適応との関連について検討することである。また回想において適応と関連を示す要因は,回想行為そのものよりも回想の質であるという仮説のもとに,「回想の情緒的性質」および「過去のネガティブな出来事を再評価する傾向」を測定する尺度を作成し,これらの要囚と人生満足度や抑うつ度などとの関連について,老人大学受講者208名および大学生197名を対象に質問紙調査による検証を試みた。その結果,世代や性別によりその関連の仕方は異なるものの,回想の情緒的性質が適応度と関連することが認められ,ネガティブな出来事の再評価傾向は主に青年期で,回想量は老年期の男性で特徴的に適応度を説明した。そのため老年期の男性で頻繁に過去を振り返ることは適応度の低さと関連すると考えられた。さらに老年期の男性のみに,ポジティブな回想の想起しやすさと回想量との交互作用が認められ,ポジティブな回想と適応度の関連する程度は回想量によって異なると考えられた。
著者
長田由紀子 長田 久雄
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-10, 1994
被引用文献数
3

本研究の目的は, 高齢者の回想の特徴および回想と適応との関係を若年者と比較し, 老年期における回想の意味を検討することである。われわれは, 目常生活において自然に起こる回想の量を測定するために, 8項目からなる回想尺度を作成し, 質問紙を用いて個人の回想の量の測定を行なった。対象者は18〜24歳の132名 (学生群) , 40〜64歳の97名 (壮年群) , 65〜95歳の133名 (老年群) であった。回想の量について3群の差を検討した結果, 他の2群に比べて学生群の回想の量が多いことが示された。老年群でよく回想をする者は現在満足度が低く, 死について意識することが強く, 死の不安が強い傾向が示されたが, 回想に対して「気分転換」や「重荷から解放される」という効果を感じていた。結果から, 青年期における回想は自我同一性の確立を反映している可能性が示唆された。また, 老年期において回想を行なうことが, 死を意識することと関係があることが示された。老年期における回想の高頻度と, 満足度の低さとの間に関係が示されたが, この結果は, 回想による人生の統合が失敗に至ったことを示唆するとともに, 不適応状態への対処として回想が用いられる可能性を示唆するものであった。
著者
福田 佳織
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.161-171, 2003-08-15
被引用文献数
2

本研究では,家庭の夕食場面における母親・父親の幼児への摂食促し行動と幼児の情動状態(ポジティブ・ネガティブ)との関連を検討した。また,家族システム論的視点を援用して,母親の摂食促し行動と父親の摂食促し行動の関連,それらの行動と夫婦関係性変数および家族成員の人日読静学的変数との関連を検討した。対象は,4,5歳児を持ち,父母がそろった家庭である。分析には,家族全員がそろった家庭内の夕食場面のビデオ撮影(2回),夫婦関係性および人口統計学的変数を尋ねる質問紙の全データがそろった28家庭を用いた。その結果,母親・父親の摂食促し行動が強いほど幼児のネガティブな情動状態が強いという結果が得られた。さらに,母親が夫婦関係性を良好でないと評価しているほど母親の摂食促し行動が強く,また,対象児の月齢が低いほど,母親も父親も摂食促し行動が強いことが示された。これらの結果は,限定的ではあるが,母親・父親の養育行動と幼児の情動状態が強く関係することを実証的に示したものであり,また,家族システム論の主張とほぼ一致するものであったといえるだろう。
著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.219-229, 2006-12-20
被引用文献数
4

本研究の第1の目的は,不快場面に置かれた3歳児を対象に,快,不快情動の変化から捉えた情動調整プロセスの個人差を明らかにすることである。第2に,同一の子どもについて2歳時点から3歳時点への情動調整プロセスの個人差の変化を示す。第3に,不快場面での情動調整行動を検討し,3歳児の情動調整の自律性を明らかにする。2歳前半に実験的観察を実施した母子41組の中で,3歳後半の時点で32組の母子を対象に実験的観察を実施した。その結果,情動調整プロセスの個人差について,不快情動から捉えた情動調整プロセスタイプの中に,快情動変化から捉えた個人差が存在することが明らかになった。情動調整プロセスの個人差の変化については,2歳時に不快情動を表出した多くの子どもが,3歳時には不快情動を表出しなくなることや,2歳時に快情動を表出しなかった子どもの多くは,3歳時には快情動を表出したことを示した。また,情動調整行動に関しては,他の活動を積極的に行ったり,気紛らわし的行動が増え,より自律的な行動が増えることを示した。以上より,3歳児は2歳児と比較して,より自律的で適応的な情動調整が可能となることを明らかにした。
著者
森田 慎一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.252-262, 2006-12

日本では,今後,「専門性」を有する職業への就職を希望する学生の割合の増加が見込まれる。このような状況をふまえ,研究1では,学生における職業への志向を,「専門性」を特徴づける諸概念に基づき測定する尺度の作成を試みた。まず,社会学のプロフェッション研究の知見に基づき,「専門性」を特徴づける5つの概念(「利他主義」「自律性」「知識・技術の習得と発展」「資格等による権威づけ」「仕事仲間との連携」)を想定した。次に,大学2年生207名を対象とした質問紙調査を行い,因子分析の結果,5つの概念それぞれへの志向を測定する「職業専門性志向尺度」が完成した。研究2では,医師を志望する学生に焦点をあて,「職業専門性志向」のなかで,彼らの「職業決定」に影響を与えるものの探索を行った。先行研究の知見から,「人間関係」と関連の強い志向が影響を与えることが予想された。医学部進学予定の大学2年生96名を対象とした質問紙調査を行い,重回帰分析の結果,「人間関係」と関連の強い「仕事仲間との連携志向」のみならず,「人間関係」と関連の弱い「知識・技術の習得と発展志向」も「職業決定」に影響を与えることが示された。
著者
石本 雄真 久川 真帆 齊藤 誠一 上長 然 則定 百合子 日潟 淳子 森口 竜平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.125-133, 2009-06-10

本研究は,青年期女子の友人関係のあり方と心理的適応や学校適応の関連を検討することを目的とした。友人関係のあり方を心理的距離と同調性といった2側面から捉え,学校段階ごとに心理的適応,学校適応との関連を検討した。女子中学生96名,女子高校生122名を対象に友人との心理的距離,同調性,心理的適応,学校適応について測定した。その結果,表面的な友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに不適応的であることが示された。心理的距離は近く,同調性の低い友人関係をとる者は,心理的適応,学校適応ともに良好であることが示された。心理的距離は近く,同調性の高い密着した友人関係をとる者は,中学生では概して適応的であった。一方,高校生で密着した友人関係をとる者は,学校適応においては適応的であるものの,心理的適応に関しては不適応的な結果も示した。これらの結果から,同じ青年期であっても学校段階ごとに友人関係のあり方が持つ意味が異なるということが明らかになった。高校生においては,心理的距離は近くとも同調的ではない友人関係を持つことが心理的適応にとって重要であることが示唆された。
著者
松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.165-175, 1997-10-30

本研究の目的は, 感情を表現した比喩の理解が幼児期においてどのように発達するのかを明らかにすることであった。本研究では, 喜び, 悲しみ, 怒りという3種類の感情を表現する直喩を作成し, 4歳児, 5歳児, 6歳児における理解を調べた。被験児は, 実験者の口頭で読まれた比喩文に対して, 4枚のカード(喜び, 悲しみ, 怒りの表情を示したカードおよび白紙のカード)の中から1つを選ぶというやり方で, 比喩文が表現する感情について答えた。白紙のカードは, 比喩文が表現する感情がわからない場合, または比喩文が喜び, 悲しみ, 怒り以外の感情を表現していると思われる場合に選択するように教示された。主な結果は次のとおりであった。(1)感情の種類によって比喩理解の発達の様相が異なっていることが示唆された。(2)4歳児の正答率はチヤンスレベルをこえたが, 比喩の理解が成人に類似した形で安定するのは5歳になってからであった。(3)熱い液体に関わる語句によって怒りが表現された場合に悲しみの表現と判断しやすいなど, 幼兄の誤答には一定の傾向が認められた。