- 著者
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大六 一志
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1996
子どもがかな文字の読みを習得する過程において,拗音(小さい"ゃ""ゅ""ょ"を伴う音節)は基本音節文字よりも習得時期が遅いので,その習得のためには基本音節文字の習得以上の何らかの必要条件が存在すると考えられる。本研究ではその必要条件について,発達遅滞事例に対する実験的教育手法を用いて検討した。まず先行研究の検討により,必要条件の候補を2つ見出した。すなわち,音素を客観的にとらえ操作できるようになること,および,二文字で一音節を形成するという規則の習得である。次に,両者が実際に拗音習得の必要条件になっているかどうかを検討するために,発達遅滞事例に訓練を行った。先に音素を操作する技能を育てる訓練を行ったが,この訓練は困難で,結局被験事例は音素を操作できるようにはならなかった。続いて二文字で一音節を形成するという規則に気付かせる訓練を行ったところ,この課題ができるようになるのとほぼ時期を同じくして,拗音節も正しく音読できようになった。なお,すべての拗音節が正しく音読できる段階に至っても,音素の操作は依然困難であった。以上より,二文字で一音節を形成するという規則の習得は,拗音節が音読できるようになるための必須条件であると結論した。一方,音素操作技能は拗音節音読習得の必要条件ではないと結論した。しかしながら,両者の間に相関関係が存在することが報告されているところから,むしろ拗音節の音読の習得が音素操作技能の必要条件となっていることが示唆された。