著者
山形 恭子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.310-319, 2012-09-20

本研究では絵本における文章の読みに関する表記知識・手続き的知識の発達を4側面から捉え,ひらがな読字能力との関連のもとに検討した。調査対象児は2歳半から4歳の年少児40名(研究1)と4歳から6歳の年長児66名(研究2)である。絵本課題では絵本を読み聞かせながら質問をする対話方式を用いて絵本に関する手続き的知識,文字表記知識,読みの手続き的知識,意味理解の4側面に関する理解を発達的に調べた。結果はこれらの4側面の理解に関して3段階の発達様相が見出された。2歳半児は絵本に関する手続き的知識や文字同定,頁間の方向性,意味内容を理解していたが,読みの手続き的知識と文字表記知識の理解は年齢にともなって発達した。特に,読みの手続き的知識のなかの最初の頁の読みの始点に関しては4歳以下では理解できず,4歳以上の年長児で年齢にともなってその理解が進展した。また,読みの手続き的知識と文字表記知識はひらがな読字能力と有意な相関がえられ,読字能力の習得が関連した。これらの結果は絵本読みにおける表記知識・手続き的知識の発生・発達過程ならびに文字の習得との関係や方法論に基づいて考察された。
著者
井上 徳子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.51-60, 1994-06-30

チンパンジー幼児の自己鏡映像認知の発達過程を, 縦断的観察 (実験I) と横断的観察 (実験II) によって検討した。実験Iの被験体は生後9週齢から人工哺育で育てられたメスのチンパンジー頭で, 実験開始時に76週齢, 実験終了時に87週齢だった。ケージ内に鏡を設置し, 1日1試行10分間の呈示を47試行おこなった。被験体が鏡呈示事態において示したさまざまな行動を50種の行動型として記述した。さらにこれらを社会的反応, 探索反応, 協応反応, 白己指向性反応, 複合反応の5つの行動カテゴリーに分類した。被験体は社会的反応や探索反応から, 協応反応や自己指向性反応へと出現行動カテゴリーを変化させ, 最終的には複合反応を示すに至った。いわゆる「自己意識」の成立の指標とされる自己指向性反応を被験体が示したのは1歳半をすぎてからだった。実験IIでは, 過去に鏡に関する経験を持たない1歳4カ月から4歳11カ月のチンパンジー幼児17頭を被験対象とした。1試行40分間の鏡呈示を実施し, 試行中に出現した鏡に関する行動を, 実験Iと同様の行動カテゴリーに分類した。40分間の試行内における鏡に関する行動は3歳半以上の被験体で特に変化した。社会的反応は最初の10分間で急減し, その後, 自己指向性反応およぴ複合反応が出現した。各行動カテゴリーの加齢に伴う出現変化も同様の傾向がみられた。年少の被験体は社会的反応を主に示し, 年長の被験体は自己指向性反応や複合反応を示した。横断的観察で得られた自己鏡映像認知の発達過程は, 縦断的に観察したチンパンジー幼児やヒト乳幼児の例と同様だった。だが自己指向性反応が現われ始めた時期は横断的観察では3歳半頃で, 繰り返し鏡が呈示された実験Iの被験体よりも, 約2年遅れていた。自己鏡映像の認知能力は, 加齢に伴う成熟と, 自己鏡映像に関する学習経験量によって決まることが示唆された。
著者
向井 隆久 丸野 俊一
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.158-168, 2010-06-20
被引用文献数
1

本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を'生み育て両方'とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に'生み育て両方'を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
著者
別府 哲
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.88-98, 1999-11-15

自閉症の問題行動に, 「他の人の怒りを引き出すことを明らかな目的として, 執拗になされる行為」 (杉山, 1990) としての挑発行為がある。挑発行為は一方では, 他の人の怒りを理解した上での行動として他者理解と関運しており, またネガテイブではあるが社会的相互作用行動の一形態とも考えられる。本研究では, 一時期挑発行為を頻発した就学前の自閉症児A児 (CA2;11〜6;5) を取り上げ, 社会的和互作用行動と他者理解の側面から事例検討を行い, 挑発行為の意味を検討した。結果は以下の通りである。(1) 社会的相互作用行動を, 始発するのが大人かA児か, そして相手の行動を引き出すために行うのか情動や意図を引き出すために行うのかで, 第I〜IV期の4つの時期を抽出した。(2) A児が始発するがまだ相手の行動を引き出すために社会的相互作用行動を行う第皿期に, 挑発行為が出現した。(3) 第IV期になると相手の意図や情動を引き出すための社会的相互作用行動が出現した結果, 挑発行為は消失し, 代わりにからかい行動が出現した。(4) 他者理解を検討したところ, 第III期には行為者としての他者理解が成立するが, 第IV期にみられる情動や意図を有する主体としての他者理解はまだみられず, その意味で第III期に特徴的にみられた挑発行為は, 他者の情動や意図を理解していないがゆえの行動と推察された。
著者
神藤 貴昭 尾崎 仁美
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.345-355, 2004-12-20

近年,大学における教育的側面が検討されるようになってきた。本研究の目的は,大学授業における教授者のストレスと対処行動の過程を明らかにすることであった。研究1では大学授業における教授者の認知するストレッサーの種類を調査した。研究2では,3名の大学教員によっておこなわれた実際の7つの授業をもとにして,教員への面接や授業VTRの分析をとおして,教授者と授業中のストレッサーとの相互作用を詳細に記述した。主な結果は以下のようであった。(1)全体的には学生の反応に関するストレッサーが多いこと,(2)放置という対処が多く見られたこと,(3)教授者の経験年数が少ないほど,学生の否定的反応に関するストレッサーを多く認知していること,(4)対処行動にもかなり個人差があるということ,(5)あるストレッサーを解決しようとすると,別のストレッサーが生起する可能性があること,の5点である。これらの結果はファカルティ・ディベロップメントの観点から議論された。
著者
西原 数馬 吉井 勘人 長崎 勤
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.28-38, 2006-04-20

広汎性発達障害児A児の発達評価より,「心の理解」における発達課題が「信念」理解における他者の「見ることが知ることを導く」という原理(Pratt&Bryant,1990)の理解であると評価されたため,これを指導目標とした。指導方法としては,親しい他者との相互交渉を利用した指導である「宝さがしゲーム」共同行為ルーティンを用いた。指導の結果,最初は指導場面内で変化が見られた。まず「宝さがしゲーム」内の直接援助を行った要素(例えば「隠した場所を教えない」行動など)が徐々に,自発によって遂行可能になった。「違う場所を教える」行動など直接援助を行わなかった要素についても徐々に遂行可能になっていった。指導場面以外でも,一切援助を行わなかった硬貨隠しゲームにおいて「見ることが知ることを導く」という原理を意識する様子がみられた。また,行動観察において他者の叙述的な心的状態に関する発話数が増加した。さらに,日常生活場面においても他者の「見ることが知ることを導く」という原理の理解の指標となるエピソードが報告・観察された。以上より,ゲーム共同行為ルーティンによって,「見ることが知ることを導く」という原理の理解が促進された可能性が考えられるが,指導後も,誤信念課題を通過できなかった。これはA児における物語理解の困難性と関連があると考察された。
著者
横山 真貴子 秋田 喜代美 無藤 隆 安見 克夫
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.95-107, 1998-07-30

本研究では, 保育の中に埋め込まれた読み書き活動として, 幼稚園で行われる「手紙を書く」活動を取り上げ, 1幼稚園で園児らが7カ月問に書いた手紙1082通を収集し, コミュニケーション手段という観点から手紙の形式と内容を分析した。具体的には「誰にどのような内容の手紙を書き, 書かれた手紙はどのようにやりとりされているのか」について, 収集した手紙全体の分析(分析1)と手紙をよく書く幼児とあまり書かない幼児の手紙の分析(分析2)から, 全体的発達傾向と個人差を検討した。主な結果は次の通りである。第一に, 幼児は主に園の友達に宛てた手紙を書いており, 手紙の大半には, やりとりに不可欠な宛名と差出人が明記されていた。このことから, 幼児は園での手紙の形式的特徴を理解していることが示された。第二に, 全体的には絵のみの手紙が多く, コミュニケーションを図ることよりも, 幼児はまず手紙を書き送るという行為自体に動機づけられて手紙を書き, 「特定の誰かに自分が描いた作品を送るもの」として手紙を捉えていることが示唆された。特にこの傾向は年中児で頭著であった。だが第三に, 年長児になると相手とのやりとりを期待する伝達や質問等の内容が書かれ始め, 手紙を書くことの捉え方が発達的に変化することが示された。また第四に, 手紙を書くことに興味を持つ時期が子どもによって異なり, 手紙が書ける園環境が常時準備されていることの有益性が指摘された。
著者
池田 幸代 大川 一郎
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-35, 2012-03

本研究の目的は,保育者のストレス評価の特徴に注目し,保育者のストレッサーは職場や職務に対する認識が媒介することによって変化が生じ,その結果職務に対する精神状態に影響をおよぼすという構造仮説モデルを,保育士と幼稚園教諭という職種別に検討することである。具体的には保育士119名と幼稚園教諭114名を対象に質問紙調査を実施し,パス解析を行った。その結果,保育者の認識の媒介効果は部分的に証明された。保育者の認識のうち保育者効力感を規定するポジティブな効果がみられた媒介変数は,保育士・幼稚園教諭ともに「専門職としての誇り」「保護者・子どもとの信頼関係」であった。「職場の共通意識」は,保育士の場合はバーンアウトを低減させる効果が示されたが,幼稚園教諭の場合は媒介変数としての効果は何もみられなかった。よって,保育職一般にとっては職務における個人的なやりがいや満足感といった認識はストレス軽減に関与し,職場内のまとまりや共通意識は,保育士にとってはストレス軽減要因となるが,幼稚園教諭にとってはストレス評価に関与しないという現状が明らかになり,保育職のうち職種の違いによって独自のストレッサーおよびストレス関連要因の存在が示唆された。今後,これらの要因を調整することにより,保育者の精神的健康が守られることが期待され,ひいては子どもの健全な発達援助の一助になると考えられる。
著者
藤崎 亜由子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.109-121, 2002-08-10
被引用文献数
4

飼い主がペット動物の「心」をどのように理解しているのかを調べるために,実際のやりとり場面の観察を行った。イヌの飼い主22人,ネコの飼い主19人に自分のペット動物をビデオカメラで撮影してもらい,その中に含まれる飼い主の発話及び行動について分析を行った。併せて質問紙調査も行った。その結果,飼い主は動物の注意を引く為に発話を行うことが最も多く,次いで動物に対して内的状態を尋ねたり,状況を問う等の質問形式の発話が多く見られた。また,動物の内的状態への言及は,イヌ・ネコの飼い主とも「感情状態」が最も多かった。特に,飼い主が動物に内的状態を付与することが多かった場面は,飼い主の働きかけに動物が無反応であったり,回避行動をとる場面であった。イヌ・ネコの飼い主で比較した結果,人はイヌよりもネコに対してより微妙な顔の表情を読みとるなど,動物に対する飼い主の発話及び行動にはいくつかの違いが認められた。しかし,質問紙の回答からは,イヌ・ネコという全く異なる二種の動物に対する飼い主の「心」の理解には違いが無いことが示された。以上の結果は,人のペット動物に対する「心」の読みとり,関わり方には,幼い子どもに対する育児的な関わり方といくつかの共通点があるという視点から議論された。
著者
遠藤 晶
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.25-34, 1998-04-10
被引用文献数
1

手あそびは手や身体を動かす歌のあそびで, 歌詞を表現する動きや, リズムを表す動きを歌を歌いながら行うものである。保育の中で手あそびは, 頻繁に活用されてきた。保育者と一緒に手あそびをするという日常行為の中に, 認知とパフオーマンスの発達を促す童要なシステムが機能していると推測される。パフオーマンスというのは遂行行動のことであり, すでに学習されている行動を実行に移し動作として表すことで, 外にあらわれた単なる行動や行為を示すものではなく知的な側面を含む活動である。知っている手あそびの刺激が与えられたときに, 幼児が提示された手あそびに対して, 知覚的認知をコントロールし幼児自身で手あそびを生み出したパフオーマンスを「手あそびのパフォーマンス」と定義し, 幼児の年齢ごとにどのように変化するのかを調べた。既に知っている手あそびとして『げんこつやまのたぬきさん』の刺激が与えられた。幼児のパフオーマンスについて検討した結果, 「動きの再生度」では, 2歳児と5歳児で差が見られ, 「動きの順序性」は, 1歳児から3歳児の間に高まるが3歳児から5歳児にかけて差はなくなり, 「リズムの再生度」は2歳児から3歳児の問にリズムに合うことが示された。手あそびは, リズムに合わせて身体を動かしたり歌うことを獲得する幼児期に, 動きや歌の模倣を促し, さらに幼児が自発的にあそびの発展を楽しむことを促すものであることが示唆された。
著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.30-40, 1990-07-25

The purpose of this study was to examine what role "deficit-complement" schema played in a thematic integration of narrative sequences and how the schema developed. Eighty-four4-year-old (4:10-5:5) and 5-year-old 5:10-6:5) children were divided into three homogeneous groups (14 subjects each), and assigned to one of three conditions : the deficit condition where the children were informed that the character was in the deficit state, the non-deficit condition where they were informed that the character was in the complement state, and the control condition where no information about the character was given. The children were shown a drawing story, asked to describe each picture and, after interpreting all the pictures, to recall the story without the pictures, to answer 10 questions about the character's feeling. The results showed that the children in the deficit condition could grasped the pictures as a story, and construct the thematic and coherent interpretation of them, while the children in the other two conditions often failed to integrate the pictures into a story. Especially, in the non-deficit condition, the degree of erabolation of description were lower than in the other two conditions. In the recall and comprehension tasks, these trends were confirmed. From these results, it was suggested that the information about the the deficitsituation of the character enhanced the integration of narrative sequences as a cognitive framework through the activation of 'deficit-complement' schema.
著者
伊藤 恵子 田中 真理
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.73-83, 2006-04-20
被引用文献数
2 3

指示詞コ・ソ・アの理解という点から,自閉症児の語用論的機能の特徴を検討した。具体的には,指示詞「こっち・そっち・あっち」に対して言語教示のみによる理解実験を行い,(1)一般的な指示詞使い分けとの一致率,(2)反応パターンの分析,(3)行動観察の三つの視点から分析を行った。その結果,以下の点が見出された。(1)定型発達児では,実験者(話者)と対象児(聞き手)が同じ側に並ぶ同側条件と,両者が向かい合う逆側条件で,指示詞コ・ソ・アの理解の標準反応一致数に差がなかった。しかし,自閉症児では逆側条件で,この標準反応一致数が同側条件に比べても,定型発達児の逆側条件に比べても有意に少なかった。(2)逆側条件の「そっち」に関しては,従来から他者視点の取得を特に要すると言われているが,逆側条件の「そっち」に関する自閉症児の成績は「こっち」と「あっち」の指示詞理解の成績と差がなかった。(3)逆側条件における自閉症児の反応は,視点固定型が定型発達児に比べ有意に多かった。この視点固定型とは,話者の視点変換を行わず,先に実施した条件での話者視点からの反応を繰り返す反応型である。(4)言語のみで指示対象を特定するといった状況で,曖昧情報を補うために実験者(話者)の顔の向きや視線を手がかりにすることも,指示対象特定に迷うことも,自閉症児は定型発達児に比べ少なかった。
著者
難波 久美子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.276-285, 2005-12-20
被引用文献数
1

青年期後期の仲間概念を24名の青年への直接面接を通して探索的に検討した。研究1では, 調査協力者に現在の対人関係を表す単語を親密さの順に図示するよう求めた。そして, その単語の書かれた位置と, その単語がどのような関係性の規模であるのかによって対人関係を整理した。また, 各調査協力者に対し, 対人関係を表す単語が並べられた図中に, 仲間と捉える範囲を示すよう求めた。親密さと関係性の規模によって対人関係を整理し, 仲間と捉える範囲を併せて検討したことで, 仲間は親友に次ぐ親しさであること, 互いを認識できる複数の規模での関係であることが明らかとなった。研究2では, 児童期の仲間関係と現在の仲間関係の比較, 友だち・親友と仲間関係の比較によって, 仲間関係の説明を求めた。その結果, 青年期後期の仲間関係は, 児童期や青年期前期・中期の仲間関係とは区別されていた。また, 仲間の説明からは, 研究1と対応する親密さや関係性の規模に関する報告がみられた。さらに対人関係を整理する枠組みとして, 目的・行動の共有が導出された。そこで, 親密さと, 目的・行動の共有という2軸によって, 仲間, 友だち, 親友を布置し, 仲間を他の関係から分離する指標として目的・行動の共有が有効であることを確認した。
著者
糸井 尚子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.243-251, 2008-10-10
被引用文献数
1

本研究の目的は,ピザとチョコレートのアナロジー課題を使用して,幼児の図形比率において円形と四角形の形状の影響を明らかにすることである。4〜6歳児100人を対象児として,円形のピザと四角形のチョコレートの図版を用いてアナロジー課題を実施した。どちらの図版も分割線がはっきりしている状態で提示された。提示図版のピザ1枚全体からある比率の部分を取り除くことを示して,対象児に選択図版のピザ1枚あるいはチョコレート1枚または粒チョコ4個から同じ比率だけ取り去ることを求めた。実験者の提示図版であるピザまたは、チョコは8分割であり,2/8,4/8,6/8の比率を取り去り,対象児の選択図版のピザまたはチョコは4分割であり1/4,2/4,4/4取り去ることが求められた。選択図版は,これらに加えて分離した単位量として粒チョコ4個の課題も実施した。実験者,対象児の間でピザ-ピザ,チョコ-チョコ,ピザ-チョコ,チョコ-ピザ,および,ピザとチョコレートからそれぞれ粒チョコへのアナロジー課題の6課題が実施された。その結果,このアナロジー課題において4〜6歳児が比率を理解していることが示された。また,円形で8分割のピザが提示された場合は他の課題に比べて正答率が低いことが明らかになった。この結果から,図形の形状がアナロジーによる比率理解に影響を及ぼし,同じ8分割でも四角形か円形かによって比率の理解が異なることが示された。
著者
加藤 弘通
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.135-147, 2001-07-15

本研究の目的は,問題行動及び指導に対する生徒の意味づけを明らかにすることにより生徒同士の関係のあり方から問題行動の継続過程について検討することである。問題行動の繰り返しによって高校を中途退学した少年F(18歳)を対象に17回のインタビューを行い,彼の問題行動や指導,自己に対する意味づけを探った。また,Fと同時期に同校に在籍していた生徒4名へのインタビューから,他の生徒の問題行動や指導,及び問題行動を起こす生徒(F)への意味づけを探った。そして,Fと他の生徒の意味づけを比較し,問題行動を巡る生徒同士の関係のあり方から問題行動の継続過程について検討した。その結果,(1)問題行動・指導に対する意味づけは,生徒が置かれた状況によって異なること,それと対応して,(2)問題行動を起こす生徒も個々の生徒との関係に応じて,自らの問題行動に対して異なる意味づけをしていることが明らかになった。Fは「悪ガキ」との関係において,問題行動を肯定的に意味づけ(「格好いい」),親密な関係を築く一方で,悪ガキ以外の生徒との関係においては,問題行動を否定的に意味づけ(「(自分は)抹消されている」),関係を希簿化させていた。このことから,Fが問題行動を起こすほど,そして,それに対する指導を受けるほど問題行動が繰り返されやすくなる生徒同士の関係が生じるという。Fの問題行動・指導を巡る循環関係の存在が示唆された。
著者
岡田 努
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.162-170, 1993-11-10
被引用文献数
4 15

従来青年期の特質として記述されてきたものとは異なり, 現代青年は, 内省の乏しさ, 友人関係の深まりの回避といった特徴を示していると考えられる。こうした特徴は, 新しい対人恐怖症の型として注日される「ふれ合い恐怖」の特徴とも共通すると考えられる。本研究は, 「ふれ合い恐怖」の一般健常青年における現れ方 (ふれ合い恐怖的心性) を, 内省, 友人関係の持ち方, 自己評価間の関連から考察した。内省尺度・友人関係の深さに関する尺度を変量としたケースのクラスタ分析の結果, 3つの大きなクラスタが得られた。第lクラスタは内省に乏しく友人との関係を拒否する傾向が高く, 「ふれ合い恐怖的心性」を持つ群と考えられる。第2クラスタは内省, 対人恐怖傾向が高く自己評価が低い, 従来の青年期について記述されてきたものと合致する群であると考えられる。第3クラスタは自分自身について深く考えず友人関係に対しても躁的な態度を示し, 第1クラスタとは別に, 現代青年の特徴を示す群と考えられる。この群は自己評価が高く, 対人恐怖傾向については, 対人関係尺度の「他者との関係における白己意識」下位尺度得点以外は低かった。これらのことから, 現代の青年の特徴として, 自分自身への関心からも対人関係からも退却してしまう「ふれ合い恐怖的心性」を示す青年と, 表面的な楽しさを求めながらも他者からの視線に気を遣っている群が現れている一方, 従来の青年像と合致する青年も一定の割合存在することが見いだされた。
著者
草薙 恵美子
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.42-50, 1993-07-10

気質と関連するとおもわれる変数間の関係について, これまであまり明らかにされていない。本研究の目的は快, 恐れ, 怒りの表出の個人差の間の関係, 及び快, 恐れの個人差と接近傾向の間のそれぞれの関係を検討することである。21名の乳児を情動的及び運動的反応を評定するために実験室において観察した。また, 日常生活での情動性を評定するために母親の記入した気質質問紙も用いた。得られた結果は次のようになった。 (1) 快, 恐れ, 怒りの表出傾向は互いに独立である。 (2) 実験室での反応及び質問紙の結果からより恐ろしがりの乳児は新奇性の高い刺激物に対してより遅く接近する傾向がある。 (3) 社会的場面でより微笑・笑いを示す乳児は新奇性の高い刺激物に対してよりはやく接近する傾向がある。これらの結果から, 各々の情動性を気質の構成要素と考える理論が支持され, また, 接近における個人差は快及び恐れの傾向と独立ではないということが示唆される。
著者
柴山 真琴
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.120-131, 2007-08-10

本研究では,保育園児を持つ共働き夫婦が子どもの送迎分担をどのように調整しているのかを質的に分析した。データは,私立J保育園を利用する28家族についての送迎記録表と,2001年3月から8月の間に10家族を対象に実施したインタビューによって得た。分析の結果,送迎分担には,(I)母専任型,(II)父母分担型, (III)父専任型,(IV)祖母依存型(下位タイプ:(a)父母+祖母型,(b)母+祖母型),(V)ベビーシッター利用型,の5タイプがあることがわかった。この送迎分担タイプと夫婦間での調整過程(調整過程で使用される相互作用様式,送迎分担についての妻の考え,調整過程での妻の主導的役割の有無)との間には対応関係があった。父親が送迎を分担しない家族(I,IV(b),V)では,妻の多くが送迎は自分の仕事と考え,夫に働きかけて話し合うこともなく,妻が送迎の方針を決めて送迎を実行していた。特に前二者のタイプでは,「暗黙の了解」「話し合いせず」「話し合い不成立」という夫婦間で調整をしない相互作用様式が使用されていた。一方,父親が送迎を分担する家族(II,III,IV(a))では,妻の多くが送迎は夫婦で分担すべきであると考え,夫が送迎を分担するよう積極的に働きかけ,「話し合い」によって形成したルールに従って夫婦で送迎を分担していた。
著者
別府 哲
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.128-137, 1996-12-20
被引用文献数
2

本研究の目的は, ジョイントアテンション行動としでの後方向の指さし理解における, 自閉症児の障害を検討することである。その際, 指さしと言う行動が, 指さすものと指さされるものの関係の理解を必要とする行動であり, しかも対象を相手と共有する目的で行う行動でもあるという, 2つの能力を必要とする行動と捉える。前者の能力を調べるため, 後方向の指さし理解課題を用い, 後者の被験者が対象を相手と共有したい要求をもてる文脈を形成するために, 自閉症児も興味をもちやすいシャボン玉を指さしの対象とした。実験は, 5カ月から1歳8カ月迄の健常乳児53名, 実験では就学前の通園施設に通う自閉症鬼23名を, 各々被験者として行い, 比較検討した。その結果, (1)自閉症児も健常乳児と同様, 一定の発達年齢(1歳1カ月)以上では, 後方向の指さし理解が可能となること, (2)しかし健常乳児では同時期に, 後方向の指さしに振り返った後, 指さしや発声を伴って再び大人を見て注意を共有したことを確認する共有確認行動が半数近くの被験者に出現するのに対し, 自閉症児ではそれがほとんどみられない, という特徴が示された。自閉症児が, ジョイントアテンション行動としての指さし理解に障害を持つという結果を, 他者認識との関連で考察した。
著者
瀬野 由衣
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.36-46, 2008-05-10

本研究では,相手によって知識の提供と非提供を使い分けられるようになる発達的プロセスを検討した。105名の幼稚園児(3〜6歳児)を対象に,隠し合いゲームを実施し,ゲームの流れの中で協力場面,競争場面を設定した。どちらの場面でも,子どもは宝物の隠し場所を見たが,協力相手,競争相手はそれを見なかった。協力相手に正しい知識を提供すれば,宝物は子どもの宝箱に人った。一方,敵である競争相手に正しい知識を提供すると,宝物は競争相手に取られてしまった。いずれの場面でも,協力相手,競争相手は,まず,子どもに「知ってるかな?」と尋ねた。その後,子どもが知識を提供しなかった場合は,「教えて」と尋ね,知識伝達を促した。その結果,年少児(3歳児)では,両場面で,「知ってるかな?」と質問された時点で隠し場所を指す,即時性の強い反応が最も多くみられ,この反応は年齢の上昇と共に減少した。一方,正答である競争相手には知識を提供せず,協力相手のみに知識を提供するという使い分けは,年齢の上昇と共に可能になった。さらに,上記の課題で知識の提供と非提供を使い分けられる子どもは,既知の対象に対する行為抑制が必要な実行機能課題(葛藤課題)の成績もよかった。以上から,相手によって知識の提供と非提供を使い分ける能力の発達に,既知の対象に対する行為抑制の発達が関連することが示唆された。