著者
和田 忍
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.81, pp.269-292, 2015

アルフリッチによる『聖人伝』(Ælfric Lives of Saints)には,「呪術について」という説話が収録されている。この説話の中にはhæðen 'heathen' の語が5 度出現し,聖書的な文脈での「異教徒」の意味で使用されている。本論では,アルフリッチがhæðen という語彙に上述の意味に加えて,ヴァイキングの存在も含めていると考えられることを示す。アルフリッチは,この「呪術について」の説話において,ヴァイキングを示す「デーン人」(ða Denisca 'the Danes')という語を使用していない。それ故,彼は直接的にヴァイキングを言及していない。しかし,このテキストにおいて,hæðenとともにscucca(sceocca)といった語彙を取り上げて分析すると,アルフリッチはこれらの語彙を通じて,ヴァイキングを意識していることがわかる。そして,アルフリッチは,キリスト教の教理を浸透させるという説教集の目的とは別に,この呪術についての説話を通じて,ヴァイキングがイングランド人に対して脅威となる異教徒であると示唆している。