著者
関口 智
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.13-38, 2021-09-22 (Released:2021-09-28)
参考文献数
68

隠れた福祉国家とされるアメリカの賃貸住宅政策の特徴の1 つは,連邦政府,州政府,地方政府,「民間支援住宅」供給組織等へと,委任関係が外延化している点にある。現在,「民間支援住宅」の3 分の1 を,非営利組織が所有している住宅政策の非営利組織への責任の委任は,特に1980 年代以降に活発化したが,それは保守派の「小さな政府」による支出削減等への要求と,リベラル派の「大きな政府」によるアフォーダブル住宅供給増等の要求とを,同時に満たそうとするものでもあった。 ニューヨーク市で低所得層向け賃貸住宅を供給する巨大非営利組織BRC グループの事例では,通常利用される税務申告書(単体)に加えて,財務書類(結合グループ)を組み合わせること等により,以下の点を明らかにした。第一に,非営利組織による住宅支援は,「公営住宅」とは異なり,政府部門のバランスシートから切り離されているが,フロー(政府補助金や租税支出等)とストック(住宅債務等)の両面で,政府部門の関与が埋め込まれていること,第二に,非営利組織への政府部門の関与は,住宅支援を担当するニューヨーク市の財産税軽減,補助金支援,金融支援だけでなく,連邦政府,ニューヨーク州による財政・金融面での支援も絡む,重層的なものであること,第三に,そのような財政・金融面の支援を背景に,連邦政府,ニューヨーク州,ニューヨーク市が,非営利組織に対して独立監査人による監査を義務付けていること,第四に,非営利組織が,営利企業によって商品化されている民間賃貸住宅を「脱商品化」し,低所得層の居住の権利(社会権)を保障することで,「公営住宅」の代替的機能を果たしていること,第五に,低所得層向け住宅サービスと医療サービスとを連携させようとしていること等である。 これらの低所得層向け賃貸住宅サービスの非営利組織等への委託は,連邦・州・地方政府の厳しい財源制約等の中で行われており,「重度な住宅問題」を抱えている人々のニーズを必ずしも十分には満たしきれていないでいる。
出版者
会計検査院
巻号頁・発行日
vol.平成22年度, 2011-11
著者
宮本 善仁
出版者
会計検査院
雑誌
会計検査研究 (ISSN:0915521X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.67-96, 2017-09-15 (Released:2022-03-25)
参考文献数
40

欧米諸国では,経済の低迷や人口の高齢化等による社会保障費支出の増加等により,構造的に支出が収入を上回っている傾向にあり,厳しい財政運営を強いられている。このような財政状況の下,各国においては財政再建を進めたり,財政の健全性を維持したりするためには,一定の拘束力のある中期財政計画や支出の総額上限等を定めた財政ルールに則った財政運営が必要であるとされている。そして,中期財政計画を策定するために中長期の財政の見通しを試算したり,政府が財政ルールを遵守しているかなど,政府の財政健全化の取組や予算作成の全体を分析評価したりする独立財政機関が注目されている。他方で,財政監督機関として伝統的な会計検査院が存在している。 本稿では,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス及びフィンランドを取り上げ,各国の独立財政機関の制度,組織及び活動状況について概観し,伝統的な財政監督機関として存在している各国の会計検査院は,どのように財政の健全化のための取組を行っているのかについて考察するとともに,独立財政機関と会計検査院の役割の相違,役割分担等について検討を行った。 独立財政機関と会計検査院の役割分担について考えてみると,一般的に,独立財政機関には,財政計画や予算の策定に使用するマクロ経済の推計を行ったり,財政健全化目標の達成状況を評価したり,個々の政策の財政への影響を具体的に分析評価したり,財政の持続可能性など将来の事象についての分析評価が期待される。一方,伝統的な会計検査院の役割は,主に予算執行の結果である決算の正確性,妥当性など過去の事象についての分析評価や検証を行うことであり,予算の執行について事後的に分析評価や検証を行っていく過程で決算数値を基に,様々な比較検証を行うことにより財政の持続可能性の検証など将来の事象についての分析評価を行っている。

1 0 0 0 OA 決算検査報告

出版者
会計検査院
巻号頁・発行日
vol.平成24年度, 2013-11