著者
大舘 智志
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.81-88, 2023-03-20

北海道などの寒冷地域に生息し冬季間も活動するトガリネズミ類の越冬生態について概観した.トガリネズミ類はおもに土壌表面や土壌中に生息している小型無脊椎動物を食べている.トガリネズミ類では冬期には餌資源量の減少が考えられるが,ある程度の安定した餌の供給は保たれていると考えられている.またトガリネズミ類では冬期には一旦,体サイズや頭骨サイズが縮小し,越冬後に急激にサイズが増大する.この現象はデーネル現象と言われており,トガリネズミ類の越冬生態と密接に関わっていると思われるが,そのメカニズムはほとんど解明されていない.
著者
堀井 有希 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.131-139, 2023-03-20

一部の哺乳動物は,冬季に環境温度付近にまで体温を低下させる冬眠を行う.また,数時間の低体温を呈する日内休眠を行う動物種もある.冬眠や日内休眠のメカニズムを解明する手立てとして,実験室内でそれらを再現することは重要である.シリアンハムスターでは低温で暗期の長い環境において冬眠が誘発され,与える栄養素により冬眠誘発までの期間が変化する.また,マウスでは絶食,スンクスでは寒冷環境が日内休眠を誘発する引き金となる.さらに,冬眠しない哺乳動物であるラットは,薬理学的な方法によって冬眠様の低体温へ誘導することが可能である.本稿では,実験室における哺乳動物の冬眠・休眠の誘導についてまとめ,冬眠研究の展望を論じる.
著者
村上 光 長尾 耕治郎 梅田 眞郷
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.27-36, 2023-03-20

温度は,生物にとって最も身近な環境因子の一つであり,生命活動に強く影響する.そのため,動物は自らの体温を調節する様々な手段を獲得することにより,環境に適応してきた.しかしながら,生命の最小単位である個々の細胞における温度制御の実態は長らく不明であった.我々は近年開発された細胞内温度計測技術を駆使し,ショウジョウバエ培養細胞内の温度がミトコンドリア熱産生により維持されていること,この現象に生体膜の流動性の制御に必須であるdelta9脂肪酸不飽和化酵素DESAT1が寄与することを見出した.今回の発見から,我々は「生体膜を介する細胞自律的な細胞内温度制御」という生命における温度制御の新規メカニズムを提唱した.
著者
加藤(鈴木) 美羅 岡松 優子
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.99-108, 2023-03-20

哺乳類には,白色と褐色の2種類の脂肪組織が存在する.白色脂肪組織はエネルギーを中性脂肪として貯蔵する役割を担うのに対し,褐色脂肪組織はミトコンドリアの脱共役タンパク質1(UCP1)により熱を産生する非震え熱産生の部位である.哺乳類は寒冷刺激を受けると交感神経を介して褐色脂肪組織の熱産生を活性化し,体温の低下を防ぐ.寒冷刺激が長期に渡ると褐色脂肪組織が増生するとともに,白色脂肪組織中にUCP1を発現するベージュ脂肪細胞が誘導され(白色脂肪の褐色化),個体レベルの熱産生能が増大して寒冷環境に適応する.本稿では,寒冷適応における脂肪組織の変化とその分子機序を概説するとともに,動物種による褐色脂肪組織の発達や機能の違いについて紹介する.
著者
坪田 敏男
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.173-180, 2023-03-20

クマ類の冬眠は,体温の降下度が小さい,中途覚醒がない,筋肉や骨の退行がない,インスリン抵抗性になる,などの特徴を有する.オスでは,冬眠中(2~3月)に精子形成が再開し,メスよりも早く冬眠から覚める.メスは,初夏の交尾後に着床遅延を維持するが,冬眠導入期(11月下旬~12月上旬)に着床する.その後約2ヶ月で胎子発育を完了し,冬眠中間期の1月下旬~2月上旬に出産する.さらに冬眠後半期に新生子を哺育するが,母グマのみ冬眠を継続する.ヒグマやツキノワグマと違ってホッキョクグマでは,メスだけが出産・哺育のために冬眠するが,雌雄共に夏~秋にはほぼ飢餓状態になるため“歩く冬眠”と呼ばれる冬眠様生理状態に切り替える.