著者
堀井 有希 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.131-139, 2023-03-20

一部の哺乳動物は,冬季に環境温度付近にまで体温を低下させる冬眠を行う.また,数時間の低体温を呈する日内休眠を行う動物種もある.冬眠や日内休眠のメカニズムを解明する手立てとして,実験室内でそれらを再現することは重要である.シリアンハムスターでは低温で暗期の長い環境において冬眠が誘発され,与える栄養素により冬眠誘発までの期間が変化する.また,マウスでは絶食,スンクスでは寒冷環境が日内休眠を誘発する引き金となる.さらに,冬眠しない哺乳動物であるラットは,薬理学的な方法によって冬眠様の低体温へ誘導することが可能である.本稿では,実験室における哺乳動物の冬眠・休眠の誘導についてまとめ,冬眠研究の展望を論じる.
著者
椎名 貴彦 志水 泰武 椎名 貴彦
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニワトリを始めとする鳥類は、空腹時であっても300mg/dl以上の高血糖を維持しているにもかかわらず、循環系、神経系の障害といった糖毒性が発生しない。本研究では、まず、鳥類の血糖値が高いことに関しては、積極的に高いレベルにコントロールしているのか否かについて検討した。ニワトリに血中グルコース負荷試験を行い、グルコース消失速度を調べたところ、上昇した血糖値は極めて速やかに投与前のレベルに回復することが判明した。このことは、充分な制御がかかった上で高血糖を維持していることを意味する。しかしながら、哺乳動物でインスリンの作用に不可欠な4型グルコース輸送体の存在が骨格筋および脂肪組織において検出することができなかった。また、インスリン刺激後に骨格筋におけるインスリン受容体の自己リン酸化やIRS1-4のチロシンリン酸化を調べたが、いずれも応答は認められなかった。従って、ニワトリの血糖降下機序が、哺乳動物とは本質的に異なることが示唆された。次に、哺乳動物の糖尿病時に糖毒性による障害を受ける血管系について、電気生理学的解析を行った。ニワトリ前腸間膜動脈縦走平滑筋は、ATPを神経伝達物質としたプリン作動性神経の強い支配を受けており、哺乳動物とは異なる非常にゆっくりとした脱分極反応が記録された。また、ニワトリ前腸間膜動脈輪走平滑筋については、プリン作動性神経と内皮細胞の相互作用によって、ゆっくりとした過分極反応が誘発されることが明らかになった。さらに、ニワトリの血管系の神経支配は、成長に伴って変化することも明らかにした。これらの結果は、ニワトリの血管系が哺乳動物とは異なる神経支配を受けていることを示唆している。このことは、ニワトリの血管系が糖毒性による障害を受けないことと考えあわせると、非常に興味深い知見と言える。
著者
平山 晴子 樅木 勝巳 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.6, pp.270-274, 2014 (Released:2014-06-10)
参考文献数
24

グレリンとは,主に胃から分泌される,28個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである.他のホルモンにはないグレリンの特徴として,3番目のセリン残基に脂肪酸による修飾を受けていることが挙げられる.この脂肪酸修飾がグレリン受容体を介した作用発現には必須である.生体内にはグレリンの脂肪酸修飾を持たない型も存在し,デスアシルグレリンと呼ばれるが,脂肪酸修飾を欠くというその構造上,グレリン受容体に対しては不活性型である.しかし近年では,デスアシルグレリンのグレリン受容体以外の経路を介する作用についても多数の報告がなされている.グレリンの作用としては,成長ホルモン分泌促進や,食欲亢進,エネルギー消費の抑制をはじめとし,循環器系への作用,消化器系への作用と,その作用は非常に多岐に渡る.グレリンの消化管運動に対する作用としては,胃や小腸,大腸の運動性を亢進させることなどがこれまでに報告されている.また,消化器疾患におけるグレリンの関与についてもさまざまな知見が報告されており,今後の研究の展開が期待されている.我々はこれまでに,in vivoの実験系を用い,グレリンの脊髄腰仙髄部の排便中枢を介する大腸運動への作用について研究してきた.本稿ではこの結果について,実験系も含め紹介する.
著者
志水 泰武 椎名 貴彦
出版者
岐阜大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、細胞保護作用のある低温ショックタンパク質CIRPに着目し、冬眠動物での発現調節機構を解明することを目的とした。冬眠動物であるハムスターの主要臓器において、平常体温時にPCR法で3本のバンドとして増幅されるCIRP mRNAが冬眠中には1本となること、このような選択的スプライシングは冬眠準備期ではなく体温低下期に起こった。スプライシング調節は、人為的な低体温でも確認できた。非冬眠動物(ラットとマウス)においてもCIRPのスプライシング調節が起こり、低体温に誘導できた。これらの成果は、冬眠の有用な特性を医療応用する基盤となると考えられる。