- 著者
-
飯田 直樹
- 出版者
- 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2014-04-01
2017年度は、まず大阪府方面委員創設前に設立された社会事業施設(大阪養老院など)や方面活動を契機に設立された社会事業施設(四恩学園など)における事業内容について、方面活動との連携などに留意しながら検討した。特に警察主導で設立された社会事業については、徳風・有隣の両夜学校(いずれも1911年開校)での事業を念頭において、事業対象者に対して画一的・強制的・取締り的な限界を持っていたと評価したことあったが、感化矯正施設である大阪府立修徳館(1908年開館)の事業を検討することを通じて、警察事業にはそのような評価では収まらない性格(例えば家族主義や普通教育重視など)があることを確認した。また各施設には、これまでの方面委員研究ではほとんど利用されていない資料、例えば各方面が月番に当たった際に過去一年間の活動内容をまとめた方面委員事業概況(概要とも)などが所蔵されていることが判明し、施設所蔵資料が方面委員研究にとっても重要な意味を持っていることを確認した。次いで、方面委員がいわゆる「行き倒れ」に対して、どのように対応したのかを具体的に検討し、以下の知見を得た。(1)方面委員によって救護された行旅病人には、警察や区役所から引き渡された者が多く、また他の行旅病人同様に、財団法人弘済会大阪慈恵病院に収容された。(2)行旅病人が複数の警察署や区役所、方面委員間で往復させられ、その扱いが「たらい回し」にされる場合があった。(3)他府県でも行旅病人の救護を方面委員が担っており(長野県)、他府県の委員から行旅病人の情報について大阪府委員に寄せられることがあった。(4)行旅病人をめぐる方面委員の活動についても、他の活動同様に「個別性」が確認されたこと。(5)行旅病人の中には、「定住性」(寺の境内に長期間居住する)や「常習性」(毎年のように来阪して救護を受ける)が認められる者がいたこと。以上である。