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改装、2冊(合1冊)、題簽欠、題名は改装表紙の書題簽に拠る仮題であり、原題未詳。画工名無記。柱題「助六」。当館本以外の所蔵は知られていない。旧蔵者加藤雀庵(白鴎狂翁、妥什山翁、墨水/白鴎)が5丁に及ぶ考証(天保6年、安政6年の記)を巻末に合綴した手沢本である点は他に類がない。雀庵はこの考証において、山谷堀の船宿藤屋、茶屋松屋、山屋、ひしや、羽子突の詞、元禄頃の小唄、うどん桶、役者の口癖、米饅頭の店、太神楽に着目し、特にうどん桶の図を珍とし「享保年間の発兌」とする。作品は後述の通り介六(助六)と総角が婚礼するめでたい結末で、筋は助六ものが演劇に現れた初期の一中節「蝉のぬけがら」に近い。背景を下端や上端に小さく描く表現法は一般の黒本・青本に見られず古風が感じられる。介六の、杏葉牡丹の紋を付けた黒の着衣に一つ印籠を下げる拵えは江戸で初演の助六ものの歌舞伎(正徳3年[1713]4月、山村座「花館愛護桜」)からのもの、傘を差しての出端(では)は「花館愛護桜」に続いて2代目市川団十郎が2度目に助六を演じた「式例和曽我」(享保元年[1716]2月、中村座)からといわれている。父親の名を助右衛門とし、鼓が登場する作品に享保20年(1735)5月豊竹座初演の浄瑠璃「万屋助六二代