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- vol.上,
異類物のお伽草子(室町物語)。桜木の大王の三宮露の宮は梅が枝中納言の姫朝顔の上と一夜の契りを結ぶが、姫は継母の讒言により吉野山中に捨てられ、絶命する。露の宮は姫を求めて諸国を放浪し、権現の導きで朝顔の塚に至り自害したとする。植物を擬人化した異類の継子物語で、伝宗祇筆の室町末期写と推定される写本(赤木文庫旧蔵)をはじめ、「草木のさうし」と題される元文2年(1737)写本(刈谷市中央図書館蔵)、寛永頃の刊行と推定される絵入り大本(赤木文庫旧蔵上下巻、天理図書館蔵下巻存)など、多数の伝本が知られる。明暦4年(1658)山田版、万治2年(1659)松江版、寛文4年(1664)山本版など複数の版種が確認されており、人気のほどが窺える。掲出本は上巻のみの端本ながら、寛永頃の刊行と推定される絵入り大本の覆刻の丹緑本であり、注目される。屋代弘賢(1758-1841)の「不忍文庫」、徳島藩の「阿波国文庫」の印記を付す。(恋田知子)(2019.11)