著者
中根 允文 田崎 美弥子 宮岡 悦良
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.123-131, 1999
被引用文献数
25

生活の質(Quality of life,QOL)を測る尺度が近年数多く開発されてきている。それらの被験者となる人たちを特定のグループ(ある疾病に罹患した患者におけるなど)に限定するか,全般的なものに限定するかによって,その尺度のあり方は変わってくる。われわれは,健康に関連したQOLを広く測定できるものとして開発されたWHOQOL短縮版(26項目版)についていくつかの状態について検討してきたが,今回多数の一般住民におけるQOLスコア値を把握する調査を行ったので報告する。対象は東京都・大阪府・長崎市の住民1,410人(男性679人,女性731人)で,彼らの平均QOL値は3.29(男性3,24,女性3,34)であった。調査地域による差はなく,性差も有意なものではなかった。年齢群で見ると,60歳以上の高齢者が30歳代より有意に高いQOL値を示した。同時に行った全般健康調査票(GHQ)の結果と比較対照したとき,精神身体的健康度が低下するとQOL値も低下していた。<BR>多数の一般住民における平均的なQOL値を評価しておくことは,さまざまな負荷のもとにある対象のQOL値の問題を探る上で必須である。今回の資料を前提にして,これから各種の状態,例えば慢性疾患の患者,長期的な障害に悩む人たち,あるいは彼らの介助者などにおけるQOLの実状が明らかにされ,より適切な対応が図られるようになることを期待したい。
著者
Boulton William R.
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-111, 2000

過去20年間,米国ヘルスケア業界では大型合併が進められてきた。今日わずか4社の卸(マッケソン,バーゲン・ブランズウィク,カーディナルヘルス,アメリソースヘルス)が医療用医薬品流通の80%以上を,4社のドラッグチェーン(CVS,ウォールグリーン,ライトエイド,エッカード)が小売処方薬ビジネスの60%以上を支配している。このような大型顧客の出現によって,製薬メーカーは競争上不利な立場にあったが,ようやく精力的な動きをとりはじめた。<BR>製薬メーカーは,戦略的提携により,新製品の発掘・開発のための最新技術を得る一方,世界的な統合を通じ,市場の拡大とマーケティング・一般管理費の削減をめざす戦略を再び取り始めた。製薬業界の再編はまだ終了したわけではないが,今後の方向は明確である。製品開発をさらに押し進め,経営コストを削減するリストラクチャリングが,新しい世界規模でのリーダーの要件となるであろう。たとえば,グラクソとバローズ・ウェルカムは1996年に合併してグラクソ・ウエルカムに,ゼネカとアストラは1998年にアストラ・ゼネカとなった。その他にも,ノバルティス(チバガイギーとサンドの合併会社-1996年に合併),アベンティス(ヘキストとローヌ・プーラン・ローラーの合併会社-1998年に合併)が,業界のリーダーシップを取るべくしのぎを削っている。この業界では10%の市場シェアを占めることが最終的な目標のように思われる。というのは,メルクでさえもいまだ約7.5%,アベンティスが約6.7%,グラクソ・ウエルカム,ファイザー,アストラ・ゼネカはそれぞれ6%のシェアを占めているにすぎないのである。<BR>ヒトゲノム解析計画は,大手製薬メーカーへ最新の開発・経営技術を提供する新会社を生むこととなった。たとえば,有望な新薬開発に向けて,ファイザーは,インサイト・ファーマスティカルズと遺伝子解読の作業を加速し,すべての遺伝子配列を解読するため協力・提携することに合意した。インサイトは約5万個のヒト遺伝子に関する特許を出願中で,すでに遺伝子に関連する特許を453件取得している。このような提携によって,今後は一連の全く新しい形の医薬品の導入を進めていくと思われる。将来のリーダーには彼らとの接触が不可欠となろう。
著者
泉田 信行
出版者
医療と社会
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.83-94, 1995

この論文において,今までに行われてきた医療過誤問題に関する研究に関する議論を行う。主にSimon(1981)とSimon(1982)の紹介をする。Simon(1981)は過失責任体系と無過失責任体系の比較分析を行っている。過失責任体系は被告を過失があるときに罰し,無過失責任体系は過失の有無に関わらず彼を罰する。彼女の結果は過失責任体系は無過失責任体系よりもパレートの意味において優越するということであった。<BR>一方,Simon(1982)は裁判システムが原告側に費用をかけるときに被告の製造物の品質がどうなるかを検討した。彼女の結論は非常に自然なものであって,比較的低い所得の個人からなる市場においては製品の品質が比較的低下するというものであった。この結果として裁判システムは誘因体系としては限界があり,それゆえ政府による直接的介入の効果を検討する必要があると思われる。<BR>最後の節において,これらの結果に関するコメントと将来の研究の方向性について論じている。