著者
橋口 泰武
出版者
千葉県体育学会
雑誌
千葉体育学研究 = Chiba Journal of Physical Education (ISSN:09138137)
巻号頁・発行日
no.16, pp.21-28, 1993-03-31

[目的] スポーツの試合(競技会)などの緊張場面では,心拍数は通常の状態に比べ明らかに増加する傾向にあることは多く報告されている 4) 8) 10) 11) 12) 13)。心拍数は試合の前から増加する傾向にあり,山地 15) によると「試合直前ではウォーミングアップと精神的興奮の二つの要素によって心拍数は高められ」,試合前の「適度な興奮とは心拍数で120~130拍/分に相当する 14)」と指摘している。小林 5)は最大運動の前の心拍数は100~110拍/分で良いバフォーマンスが得られたと指摘しており,試合や運動前の心拍数に至適レベルが存在することを示唆している。橋口 1) 2)も高校体操競技選手の試合時のコンディショニングを把握するために,演技直前の心拍数を指標として選手の技術水準などとの関係を分析した結果,技術水準の「低い選手」に比べ技術水準の「高い選手」の方が演技直前の心拍数は高くなっていた。また,各種目間の心拍数の散布度(ばらつき)は小さい傾向がみられ,山地 14),小林ら 5) の試合や運動前の心拍数の至適レベルに関する知見から推論すると技術レベルの高い選手の方が適度な準備状態(コンディション)にあることを指摘してきた。しかし,これまでの研究をみると,心拍数を高める精神的興奮の内容の検討は十分ではないように思われる。特に体操競技などの個人競技では,競技(演技)直前の心理的コンディションが成績や記録を左右するといわれている 7) ことから,体操競技での演技直前の心拍数と心理的要因との関係を分析することは体操競技選手の生理・心理的コンディショニングの一つの手がかりとなるものと考えられる。そこで今回は,公式の高校体操競技大会での男子6種目の演技直前の待機時心拍数の程度によって選手の競技経験,演技に対する態度,結果(成績,演技ミスなど)などの心理的要因との関係を分析し,高校体操競技選手の演技直前のコンディショニングの実態を把握するための基礎資料を得るために検討を試みた。
著者
菊地 武道 秋田 信也 中沢 克江
出版者
千葉県体育学会
雑誌
千葉体育学研究 = Chiba Journal of Physical Education (ISSN:09138137)
巻号頁・発行日
no.8, pp.9-16, 1986-01-31

[研究目的] スポーツの競技力を向上させる要因としては、体カ・技術および戦術などがあげられる。テニスは、その中でも技術の占める割合が多い種目と考えられる。しかし、技術を発揮したり、技術習得の激しい練習に耐えるには、桔礎体力が必要であり、そのヒさらに種目特有の専門的体力も必要である。この様な事から大学テニス部員がテニスの競技力向上を図るため、基礎体力は勿諭のこと、テニスに必要な専門的体力を作り、その向上をも併せ図る事は意味のある事である。テニスプレイヤーの体力的特色は、庭球協会のデ杯選手の体力測定報告によれば心肺機能、反応時間および利き手の握力に優れている。一方パワーや柔軟性の能力に欠けていると言っている。テニスの試合形態は、今でこそタイブレイクで試合の決着をつけるようになった。しかし、3セットや5セットマッチと試合は長い時間を要する事から、テニスフレイヤーが全身持久性の能力に優れている事は理解できよう。また、反応時間については、黒田らがミュンヘンオリンピック日本代表選手の全身反応時間は、365.59msecであると言っている。これに比較してデ杯選手は296.94msecと他のスポーツ種目の選手よりも速く、テニスプレイヤーの体力資質として反応時間にも優れているものと推察できる。現在は、ハードコートのサーフェイスが多くなったこと、それにも増して技術的な進歩によりプレースメントよりもハードヒットする打法が主流を占め無酸索的パワーの要素、すなわち力強く、しかも速い動きが必要となってきた。さらに激しい動きの中においてボールを打つためには、その動きを一瞬静止させ、身体のバランスをとることが打球時の動作の中でより必要となってくる。本研究は、テニスプレイヤーの体力的特徴を知り競技力向上の指針を得るとともに、体力的特徴である反応時間およびプレー自体から判断して速い動きの中での身体のバランスも必要と考え、そのための指標となる緩衝性能力がテニスの練習をおこなうことによりどの様に変化するか、その推移からテニスプレイヤーの体力的特徴を併せ考察するものである。
著者
田中 博史 川合 武司 中島 宣行 浜野 光之 石出 靖
出版者
千葉県体育学会
雑誌
千葉体育学研究 = Chiba Journal of Physical Education (ISSN:09138137)
巻号頁・発行日
no.24, pp.1-9, 2000-06-30

[目的] 大学トップレベルのチームでは全日本級の選手育成のためにスピード、パワー、高さなどの体力の向上と技術・戦術の向上が課題になっている。しかし、それらの向上と同様精神面の管理または強化が重要な課題となっている。これらは、大学バレーボール界のみならず日本のトップレベルにあるすべてのスポーツチームにもいえることである。近年、精神面の強化と自己の精神面の管理ないしはコントロールするいわゆるメンタルマネージメントを目的としたトレーニングが行われるようになってきている。バレーボール選手にこのトレーニングを実施するに当たり、まずバレーボール選手の競技場面におげる心理特性とを把握しておく必要がある。特に競技行動に直接的な影響をもたらす心理的要因の一つと考えられる競技不安についてとチームパフォーマンスとしての勝敗との関係を把握することは、メンタルトレーニングを選手に課す際に重要であると考えられる。競技不安に関する研究は、近年国内外でかなり行われるようになってきている。Cox1) は、競技不安に関する従来の研究について1) 不安に関する多次元的性質に関するもの2) 競技開始前の不安3) 競技に及ぼす不安の影響4) 不安とパフォーマンスとの関係という4 領域に分類している。これらは、相互に関連し合っていることは言うもでもない。ここでは、スポーツ選手の競技場面における心理的コンディションと直接的に関連すると考えられる競技開始前の不安、パフォーマンスと関連が深いと考えられる競技終了後の不安を取り上げることとした。Spielberger 18) らが不安を状態不安 (StateAnxiety) と特性不安 (Trait Anxiety) とに2 分されるとし、緊張水準の一時的な変動によって生じる不安水準である状態不安を比較的安定した性格特性としての不安水準から分離した。従来、状態不安は、覚醒水準と関連することが明らかになって以来、覚醒水準を測定するために用いられた生理的指標がこの測定に利用されることが多かった。しかしフィールド研究においては、Martens 13) が指摘しているようにこの指標を用いることは困難である。Spielberger 18) 19) らによって質問紙法による検査(State Trait Anxiety Inventory、以降STAI と略記する。)が開発されて以来、競技場面における状態不安の測定が容易に可能になり、これに関する研究がかなり行われるようになってきている。市村 5) は、Kleine10) がスポーツ状況Sに合わせて作成された不安テストの予測妥当性が十分でないことを指摘していると述べ、pielberger ら1B) 19) の質問紙の方が、スポーツ状況に合わせて作成された不安テストよりも、選手の不安水準を正しく測定し、不安のために生起する運動の混乱を予測するのに妥当性が高いことを指摘している。Spielberger ら 18) 19) のSTAI は清水ら 17) によって日本語版が作成されている。このテストは、20項目からなり4件法で回答し得点の範囲は20点から80点である。従来のSTAIを用いた競技開始前の状態不安に関する研究の中には、競技が近づくに連れて不安が高くなってくるといった時間的要因に関する研究やこの要因を含んだものはかなり多く報告されている1)。しかし試合後の状態不安まで取り上げた研究はチームスポーツ選手を対象とした中島ら 15) の研究などがあるが数少ない。長谷川 3) は試合後の選手達が日常の健康な精神生活へのスムーズな復帰への過程が重要であると述べ、試合後の心理的コンディション作りの需要性を述べていることから、状態不安の測定には競技前後の2つの測定点での測定が必要であると思われる。そこで本研究においては、大学女子バレーボール1部リーグ戦に初めて昇格したチームの1部リーグ戦および1部・2部入れ替え戦を対象として競技開始前・後の状態不安を測定し、測定された状態不安とチームパフォーマンスとしての勝敗との関係を明らかにし今後のこの種の研究及びコーチングの際の基礎的資料とすることを目的とした。