著者
張 珈銘
出版者
名古屋市立大学経済学会
雑誌
オイコノミカ (ISSN:03891364)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.19-41, 2012-02

本稿はグローバル市場の中で中国造船業の競争主体となる「船舶企業」成立への歴史的過程と到達点を検証しようとするものである.本稿の標題の「組織構成」は政府・企業間関係と企業集団の組織構造との両方を含むものとして使用している.このような意味での中国造船企業の組織構成についての先行研究は空白状態である.そこで中国造船業の発展3段階の時代区分に沿って,中国造船業の組織構成の歴史的変遷をはっきりさせた.改革開放後の中国では,経済主体としての「企業」をつくりだす運動は行政機関から企業組織への権限委譲(「政企分離」)としておこなわれてきた.第2の段階で,所有と経営の分離を目的として行った「工場長責任制」,「請負経営責任制」の改革は成果とともに限界があると言える.この段階では結局のところ経済主体としての「企業」は成立しなかったと確認された.1997 年に二大造船集団が設立した後の第3段階では,集団傘下に上場企業が誕生し,集団公司がその持株会社となって政府が間接的に所有するという重層的な構造が形成された.そこでは,持株会社が傘下の各造船企業に対する政府の直接介入を妨げる役割を果たす.これは造船企業の発展のためによい環境を作るので,現状の政府と造船企業にとっては必要である.
著者
服部 恵 横山 和輝
出版者
名古屋市立大学経済学会
雑誌
オイコノミカ (ISSN:03891364)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.105-117, 2010-03

本稿の課題は,貨幣鋳造政策の実施を通じて旗本・御家人の実質所得が引上げられるという効果が統計的に確認できるかどうかを,1791年から1854 年までの年次データを用いて,検証することである.実証においては,Yamamura(1974)の推計による旗本・御家人の実質所得指数,および明石(1989)の推計による実質貨幣流通量を用いる.旗本・御家人の実質所得は,明確な下方トレンドをとっていないことから,必ずしも彼らの窮乏化を示すものではないが,貨幣鋳造政策が,旗本・御家人の実質所得に正の影響を与えるという効果は観察できない.実質所得は負の自己相関をとり,なおかつマネーサプライの増大により負の影響を受けつつ推移していた.そのため旗本・御家人は,債務者として,進展しつつある貨幣経済に取り込まれつつ消費水準の円滑化を図った.
著者
東谷 仁志
出版者
名古屋市立大学経済学会
雑誌
オイコノミカ (ISSN:03891364)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1-20, 2013-03

自動車市場では,新たにハイブリッド自動車や電気自動車が市場に登場している.これらの自動車では,高性能電池が必要で,主にリチウムイオン電池が使用される.この分野では,日本だけでなく韓国企業が大きなシェアを獲得している.本稿では,電気自動車で使用される車載用電池を供給する韓国電池メーカーとして,LG 化学,SB リモーティブ及びSK イノベーションの3社を取り上げる.一方日本の電池メーカーとしては,アドバンスト・エナジー・サプライ(AESC),リチウム・エナジー・ジャパン(LEJ)および,プライムアースEV エナジー(PEVE)の3社を取り上げて,日韓電池メーカーの競争力を比較する.従来自動車市場では,日本の自動車メーカーがサプライヤーシステムを構築し,インテグラルなもの作りが高い競争力を生み出してきたとされる.韓国のLG 化学は,GM,ルノーやフォードなど多くの企業にバッテリーを供給するが,日本の電池メーカーは,特定の自動車メーカーだけに電池を供給している.日本の電池メーカーは,これまで日本の自動車メーカーが築いてきたサプライヤーシステムを踏襲した垂直統合型の供給関係を維持し,電気自動車を従来の自動車と同じインテグラル型製品アーキテクチャと位置づけた取り組みを行っている.これに対して,韓国電池企業は,電気自動車における車載用電池をモジュラー製品と位置づけた戦略に特徴がある.韓国電池企業は,いずれも複数の自動車メーカーへの電池供給を行い,量産規模を拡大して価格を低減する戦略をとっている.自動車市場では,これまでサプライヤーを含めて日本のメーカーが高いシェアを獲得してきた.EV 市場でも高い競争力を維持するためには,日本の自動車メーカーや電池メーカーは,戦略の見直しが必要と考える.