著者
多田 學 天野 宏紀 神田 秀幸 金 博哲
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

近年、本態性(老人性)痴呆症の発症や病態のメカニズムが明らかにされるにつれ、脳機能低下を予防させるために、より早期に精神機能の低下の兆候を特定することに注目が集まってきている。従来我が国において実施されてきた痴呆症対策は、痴呆がある程度のレベル以上に進行してしまっているため、改善が極めて困難な状態の痴呆症に対する医療・リハビリテーションによるケアであった。そこで、我々は島根県H町在住の初老期以降(50歳以上)の地域住民について、二段階方式診断法を用いた軽症痴呆症の評価法及び脳活性化対策の有効性を検討し、次のような結果が得られた。1)性・年代別かなひろいテスト得点では、女性において加齢による得点の低下が見られた。2)本研究では二段階方式診断法を用いて参加者58名のうち前痴呆8名、軽症痴呆4名であった。3)かなひろいテストの得点とMMSの得点との相関係数は0.6868で、正の相関が認められた。4)脳活性化対策実施後で60歳代男性を除いて全ての性・年代別で教室前のかなひろいテスト得点を上回った。5)脳活性化対策の継続実施は教室前の状態に比べ痴呆状態を改善しうることが明らかになった。特に、対策開始後2年間継続によって、かなひろいテスト平均得点の上昇がピークに達することが分かった。6)ライフスタイル調査では、重点対策前と対策開始1年後で参加者の日常生活に、ADLや対外的な行動に大きな割合の変化は無かった。7)参加者の痴呆に関する意識では、対策開始後1年でアンケートに14名全てが「自分は痴呆にならないと思う」と回答した。
著者
一ノ瀬 充行
出版者
島根医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

補体成分C5aはマクロファージにおいて走化性の亢進、スーパーオキサイド産生、IL-1・TNF放出促進作用等が知られている。チオグリコレート刺激により誘導した腹腔マクロファージにC5aを微少投与したところtonicとphasicの2種の外向き電流を生ずることが見出された。両成分とも逆転電位は外液K濃度に依存して変化した。KチャネルブロッカーであるキニジンとTEAにより抑制された。intermediate型のCA^<2+>依存性K^+チャネルブロッカーのキャリブドトキシンはphasic相のみ抑制した。外液Ca^<2+>を除去するとphasic成分は消失したがtonic成分は存続した。以上の結果よりC5aによる活性化に伴いCa^<2+>依存性と非依存性の二種のK^+チャネルが活性化されことが明らかとなった。神経修飾物質と考えられているニューロメジンCがマクロファージ貪食能を亢進したり、LPSの作用を増強することが知られており、神経系から免疫系への介在物質として作用することが考えられている。電気生理学的に検討したところ、ニューロメジンCにより外向き電流を生じた。しかし、その関連ペプチドであるニューロメジンB、ボンベシンやサブスタンスPで顕著な作用が認められなかった。外液K^+、C1^-依存性を調べたところ、K^+濃度変化にのみ逆転電位が変化した。TEA、キニジンにより弱いながら抑制されたが、アパミンやキャリブドトキシンによっては抑制されなかった。外液Ca^<2+>を除去したところ、完全に消失した。以上の結果、ニューロメジンCによって生ずるK^+電流はC5aによって生ずる二種のK^+チャネルとも異なるK^+チャネルを活性化することが明らかとなった。以上、二つの活性化物質の研究よりマクロファージ活性化過程において、K^+チャネルが活性化されることが電気生理学的に明らかとなった。
著者
加藤 讓 野津 和己 古家 寛司 谷川 敬一郎
出版者
島根医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

下垂体成長ホルモンならびにプロラクチンの分泌は視床下部に存在するセロトニンによって促進的に調節されている。セロトニンは下垂体に直接作用するのではなく、視床下部の成長ホルモン分泌促進因子(GRF)を介して成長ホルモン分泌を促進し、プロラクチン分泌促進因子の1つであるVIPを介してプロラクチン分泌を促進する。我々はVIPの分泌に視床下部ガラニンが関与することを見出した。本研究ではセロトニンとガラニンとの関係についてラットを用いて詳細に検討した。ラットの脳室内にセロトニンやガラニンを注入すると血漿プロラクチンは用量反応的に増加した。しかしガラニンの投与はセロトニンによるプロラクチン分泌に相加的な影響を与えなかった。セロトニンのH_1受容体拮抗剤メチセルジドの前投与はガラニンによるプロラクチン分泌を部分的に抑制した。しかしセロトニンH_2ならびにH_3受容体拮抗剤の前投与はガラニンによるプロラクチン分泌に影響を与えなかった。セロトニン合成阻害剤であるパラクロロフェニ-ルアラニンの前投与はガラニンによるプロラクチン分泌を明らかに増強した。この効果はセロトニン神経阻害剤5、6ジハイドロトリプタミンの投与によって部分的に抑制された。パラクロロフェニ-ルアラニンはセロトニンによるプロラクチン分泌を増強させた。この効果はセロトニン受容体の感受性の増大によると考えられた。従ってガラニンによるプロラクチン分泌にセロトニン受容体が少なくとも部分的に関与することが示唆される。次に成長にホルモン分泌は視床下部ソマトスタチンニよって抑制されるが、ソマトスタチンノ誘導体である酢酸オクとレオチドはより強力かつ待続的な下垂体成長ホルモン分泌抑制作用を示した。従って視床下部ペプチドの誘導体ないし拮抗剤による成長ホルモンやプロラクチン分泌の抑制効果は、これらの神経ペプチドが下垂体腫瘍に対する薬物療法に応用可能である。
著者
吉村 安郎 松田 秀司 KINGETSU Akira 金月 章
出版者
島根医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

実験手技が担当確立したとはいっても、処置中には出血死のマウスもある程度あった。合計49匹の成熟雄ICR mouse(下顎頭切除15匹、下顎頭切除後に耳介軟骨移植31匹、顎関節部を開放しもとにもどしたもの3匹)を処置後136日から187日まで飼育し屠殺した。その後両側の顎関節部を取りだし、通法通り組織標本を作製し、組織学的検索、免疫組織化学的検索とした。咬合状態をみると明らかに咬合異常を生じた症例は5例あり、4匹は死亡時に確認したものである。毎日マウスを観察していないため、咬合異常を生じた症例数はさらに数は多いのではないかと推測する。本年度は少なくとも下顎頭の欠損(すなわち咬合高径の減少)は明らかに咬合異常を起しうることを明確に示した。H-E染色による組織学的検査では、下顎頭切除例では、一般の骨折端とほぼ同様に治癒する。耳介軟骨移植例では、下顎運動のため移植軟骨は外側方に移動し、下顎頭欠損部に一致して存在していないことが多い。移植軟骨は耳介軟骨の性質を保有していた。免疫染色ではTransforming growth factor-βは顎関節関節腔表層細胞は下顎頭、下顎関節窩ともに陽性で、下層の軟骨は一般的に陰性である。移植耳介軟骨細胞も陽性細胞はわずかで、一般的に陰性である。fibroblast growth factor-2は下顎頭、下顎関節窩いづれも関節腔に近い間葉細胞、より下層の軟骨細胞も陽性であるが、表層に近い細胞群に活性は強い。移植軟骨は陽性のものと陰性のものが混在した。bone morphogenetic proteinは顎関節の関節腔の間葉細胞、軟骨細胞いづれにも陰性であり、移植軟骨は同様に陰性であった。Laminin染色においては、関節腔側にある細胞群も、それより下層の軟骨細胞ともに陰性反応を示した。移植軟骨細胞は一般的には陰性である。