著者
デュトゲ グンナー 神馬 幸一 神馬 幸一
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.209-228, 2016

近時,ドイツ刑法典の一部改正により,新217条「業としての自殺援助罪(geschäftsmäßige Förderung der Selbsttötung)」が2015年12月10日から施行された。本稿は,その動向を批判的に検討するものである。 当地において,この新条項導入以前,自殺関与は,法文上,禁止されていなかった。しかし,判例上,それを無に帰すかのような解釈論が展開され,実際上,自殺関与を巡る刑法上の取扱いは,動揺していた。このような法的状況を前提としていることもあり,今回の新規立法は,その論理構造に様々な矛盾を含んでいる点が批判されている。 また,この新規立法は,今後,ドイツにおける終末期医療の現場で,どのような波及的悪影響(ないしは萎縮効果)を及ぼし得るのかということも本稿では検討されている。 このように医師介助自殺に関する刑法的規制には多くの問題が伴う。そして,当該刑法的規制は,リベラルな法治国家の原則に反するものと批判されている。ここでいうリベラルな法治国家とは,ドイツ連邦通常裁判所が提示した言葉に従えば「全ての市民における居場所」として把握されるものである(BVerfGE 19, 206 [216])。そのような姿勢を貫徹するならば,確かに,一定の生き方ないし死に方を「正しいもの」として掲げることは,断念されなければならない。このことが本稿では強調されている。 このドイツの新規立法により生じたとされる自殺の禁忌化がもたらす問題性は,自殺幇助罪規定を有する我が国にも同様に当てはめることが可能であろう。この新規立法に関して展開された生命倫理と法を巡るドイツの議論を検証することは,我が国において関連する論点への示唆を得るためにも,その意義が認められるように思われる。
著者
柳川 重規
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.63-73, 2016-12-30

2016年1月30日に多摩キャンパスにおいて開催された日本比較法研究所と韓国・漢陽大学校法学研究所共催のシンポジウム「日本及び韓国における現在の法状況」における報告
著者
丸橋 透
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.63-80, 2016-03-30

ISPであるニフティを例にとり,サイバー犯罪に関するプロバイダの実務と考え方を紹介する。サイバー犯罪の捜査においてプロバイダは加入者の通信の秘密に関する事項については,記録命令付差押許可状により対応し,要請があればログ(通信履歴)を保全するが,ログ保存については義務では無い。また,サイバー犯罪の被害抑止活動としては,児童ポルノのブロッキングが民間の作成するブラックリストに基づきプロバイダにより実施されており,ボットネット対策については,マルウェアに感染した加入者に対してプロバイダが駆除要請をして協力している。これらは,通信の秘密とプライバシー保護に関する「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省)をはじめとする国内の法制度だけではなく,G8や欧州評議会における国際的な政策や法制度に民間が参加又は注視する慎重な議論を経ながらも着実に整理され進んできたものである。新たな施策に踏み込む(又は旧来の施策を拡大する)場合には,通信の秘密やプライバシー,表現の自由への影響等を分析しつつ慎重な議論が望まれるが,事後追跡性の確保や被害拡大の抑止・防止の必要性に係わるファクトをベースとした議論であれば,今後とも,ISPは誠意を持って参加していくであろう。
著者
長井 圓
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.23-50, 2016-12-30

2016年1月30日に多摩キャンパスにおいて開催された日本比較法研究所と韓国・漢陽大学校法学研究所共催のシンポジウム「日本及び韓国における現在の法状況」における報告
著者
樋笠 尭士
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.229-255, 2016-06-30

本稿は,客体の錯誤と方法の錯誤を明確に区別する思考方法を検討するものである。HoyerおよびWolterは,精神的表象(geistige Vorstellung)と感覚的知覚(sinnliche Wahrnehmung)という概念で両者の区別を図ろうと試みていることを確認し,その上で,全てに「誤り」が存する場合を方法の錯誤,一部に「誤り」が含まれる場合を客体の錯誤としたHoyerの見解を検討した。実行行為時に感覚的知覚による客体の特定が存せず,実行行為時よりも前に客体の特定をなすような場合,特定された客体とは,感覚的知覚によって特定された客体ではなく,危険源を設定した際に行為者によって最後に特定された客体と解すべきであると考える。そして,行為者の精神的表象により特定された客体に結果が生じていないことを前提とし,客体の錯誤を,「危険の向く先を定める際の,最後に特定された客体」と「実際に結果が生じた客体」が同一である場合と定義し,同一でない場合を方法の錯誤と定義した。 かかる定義に基づき,古典的四事例を検討した。電話侮辱事例(Telefonbeleidigerfall)は客体の錯誤,自動車爆殺事例(Bombenlegerfall)は方法の錯誤,毒酒発送事例(Vergifteter Whisky)は方法の錯誤,ローゼ・ロザール事例(Rose-Rosahl-Fall)は,教唆者が被教唆者に客体を特定するにあたって具体的に指示を出していた場合は方法の錯誤となり,抽象的・曖昧な指示を出していた場合は,客体の錯誤になるという結論を得た。その際には,方法の錯誤を,行為者によって最後に特定された客体へと向かう危険源とそれとは別の客体との因果的距離が縮まり,点として重なった状態であると解した。このようにして,本稿は,離隔犯においても,客体の錯誤と方法の錯誤を明確に区別され得ることを示すものである。

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著者
日本比較法研究所 [編]
出版者
日本比較法研究所
巻号頁・発行日
vol.29(1), no.90, 1995-06