著者
小埜 良一
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.111-120, 2007-06-30 (Released:2011-03-09)
参考文献数
56

MLL (Mixed-Lineage Leukemia) 遺伝子は, 乳児や二次性の白血病で頻度の高い11q23転座から同定された.MLL再構成の結果, MLLは転座相手遺伝子の1つと融合し, MLL融合蛋白を発現する.MLLは, クロマチン構造を修飾する転写調節複合体を構成して, ヒストンメチル化を調節するなどして, 成体型造血においてHOX遺伝子群の発現の維持を通じて重要な役割を果たしている.MLL融合蛋白は, MLL断片内のmenin結合モチーフやDNAメチルトランスフェラーゼ様領域が癌化能に必須であり, 転座相手断片内の転写活性化または多量体形成ドメインを介して白血病発症に至る.また, ヒストンメチル化能を欠くが, プロモーターへの結合を介してHOXを異常に活性化する.最近, われわれは, MLL融合蛋白は, 単独で長期の潜伏期を経て骨髄増殖性疾患を発症するのに対し, FLT3変異体のような二次的遺伝子変異と協調して早期に急性白血病を発症する多段階白血病発症モデルを確立した.この分野における進歩はMLL関連白血病発症の分子機構に新たな知見を開拓し, MLL融合を標的とした治療法の開発にも有用である.
著者
塙坂 八重 高橋 幸博 川口 千晴 森川 肇 安原 肇 吉田 幸一 吉岡 章
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.23-28, 2004-02-29 (Released:2011-03-09)
参考文献数
11

われわれは, 播種性血管内凝固 (disseminated intravascular coagulation : DIC) を合併した病的新生児に対する蛋白分解酵素阻害薬nafamostat mesilate (Futhan®) の臨床効果を, 同じく蛋白分解酵素阻害薬gabexate mesilate (FOY®) と比較し検討した.対象は1993年1月~2001年12月に当院新生児集中治療部門に入院した低出生体重児および外科症例を含むハイリスク新生児のDIC症24例であった.全例が生後28日未満にDICを発症し, 白幡のDICスコアー3点以上であった.Futhan®投与例とFOY®投与例が各12例であった.両蛋白分解酵素阻害薬ともDICスコアーを有意に低下させ, 血小板数とFDP値を有意に改善させた.Futhan®は新生児のDIC治療に有用であった.しかし, Futhan®投与群の1例に, 腎不全を伴わない高カリウム血症を認めた.Futhan®投与の期間中は血清カリウム値に注意を払う必要がある.
著者
金兼 弘和
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.89-94, 2001-04-30 (Released:2011-03-09)
参考文献数
18

分子生物学の進歩によって先天性血液免疫異常症の多くが単一遺伝子異常に基づくことが解明され, 遺伝子診断が行われるようになつてきたが, 遺伝子解析は時間と労力を有するため, 簡易診断が望まれる.X連鎖無γ-グロブリン血症, Wiskott-Aldrich症候群/X連鎖血小板減少症, X連鎖リンパ増殖症候群の3疾患を対象として, 特異的なモノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーにより細胞内蛋白を検出する簡易診断法と遺伝子解析について概説する.フローサイトメトリーによる患者・保因者診断は感度ならびに特異性にすぐれているが, より正確な診断および遺伝カウンセリングには遺伝子解析も重要である.フローサイトメトリーによる簡易診断法は, 非典型例を含めた先天性血液免疫異常症のスクリーニングに有用であると思われ, 特異的なモノクローナル抗体があれば, 他の遺伝性疾患の診断にも応用可能と思われる.
著者
東川 正宗
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.60-65, 1989-03-31 (Released:2011-03-09)
参考文献数
15

N4-behenoyl-1-β-D-arabinofuranosylcytosine (BHAC) はara-Cの脂溶性の誘導体であり, 広く臨床で使用されている.その薬理学的な作用機序を明らかにするため, (cytosine-2-14C) BHACと (acyl-1-14C) BHACの2種類の14C標識したBHACとP388マウス白血病細胞と培養し, DNAをフェノール法により抽出後, nuclease P1でnucleoside monophosphateに分解し高速液体クロマトグラフィ法にて分析した。 (cytosine-2-14C) BHACと培養したP388細胞から抽出したDNAの放射性活性はara-CMPとして認められたが, (acyl-1-14C) BHACと培養した場合には, 抽出したDNAに放射性活性は認められなかった.一方, 酸可溶性分画の主たる放射性活性はara-CTPとして認められた.以上の結果よりBHACは直接リン酸化されてN4-behenoyl-ara-CTPを形成するのではなく, 主としていったんara-Cに変換後ara-CTPを形成しDNAに組み込まれると考えられた.
著者
小西 央郎 柏 弘 小林 正夫 河口 美典 田中 義人 上田 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.367-371, 1989-12-31 (Released:2011-03-09)
参考文献数
15

一過性骨髄増殖症候群 (Transient abnormal myelopoiesis : TAM) はおもにDown症候群に認められる疾患である.われわれは肝脾腫, 皮疹, 末梢血への白1血病様芽球出現を認めた, 表現型正常の一例を報告する.染色体分析では, PHA非添加で培養した末梢血のすべての血液細胞に47XY, +21が認められた.しかしPHA添加の72時間培養では分裂細胞はすべて46XYを示した.皮疹生検では白血病様芽球細胞の皮膚浸潤を認めた.皮膚病変および臓器腫大は抗白血病薬による治療を行わずに徐々に改善し, 末梢血中の白血病様芽球も消退した.また芽球消失後, 末梢血の染色体検査は正常核型を示した.本症例では21トリソミーを有する異常なクローンがTAMにおける芽球様細胞の増殖に関係したものと考えられた.