著者
三木 英 三浦 太郎
出版者
英知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究が目指したところは、阪神大震災によって大きな被害を受けた地域社会が復興するにあたり、宗教が何らかの寄与を為し得たのかどうかを検証することであった。これまで得られた知見を以下に述べるなら、リジッドな組織を伴う神道、仏教、キリスト教、新宗教が地域社会の復興に貢献することはかなり難しいということがまず挙げられよう。教団は基本的には、そこに所属する信者の方角を向いていたのであり、地域社会全体にその翼を広げることはしなかった(できなかった)のである。たとえば天理教では被災後、活動を地域社会において展開しようとして壁に突き当たったという事実を、本研究は突き止めている。教団へのアレルギーが確かに被災者の間には存在したのである。とはいえ、宗教そのものが完全に被災者によって拒絶されたというわけではない。犠牲者の慰霊を宗教的な儀礼によって行うことは、多くの被災者が求めたところであった。また本研究は、被災地において巡礼が創出されたことを指摘しているが、このことは被災者が自らの心のケアに供するべく宗教的な装置を利用したことを示すものである。さらに本研究では子供達の他界観にも注目をしているが、彼らは、自身にとっては遠い概念であった死に対処するため、他界に言及して心の平穏を取り戻そうとしたようなのである。被災者は、組織という外殻を纏う限りの宗教に対してはネガティブであったといわざるをえない。しかし、外殻を意識させない拡散したかたちの宗教に対してはポジティブな姿勢を見せたといえるだろう。危機的状況に在る社会で、そのダメージからの回復に寄与する可能性を宗教が有することは確かである。ただしそれは、組織的・制度的宗教ではなく、非教団的な宗教であることが本研究から判明したのである。
著者
北川 朋子
出版者
英知大学
巻号頁・発行日
2003

博士論文
著者
松本 耿郎 岩見 隆
出版者
英知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は平成5年1月に78歳の生涯を終えた井筒俊彦博士の学問の方法と思想を分析解明することを目的としたものであった。井筒俊彦博士はコーラン研究、イスラーム思想研究、ギリシア思想研究、ロシア文学研究、東洋思想研究などの諸分野にわたって多くの業績を残している。また晩年には独自の言語哲学と存在認識論の総合を目指して、広い意味での東洋哲学に基礎をおいた独自の哲学の確立を構想していた。当初、この研究計画ではその思想と方法の全貌を明らかにすることを目指していたが、井筒博士の該博極まりない知識に基づく学問的営為を見るにつけ、その全貌を解明することは時期尚早であるとの結論に到達した。そこで、この研究においては井筒俊彦博士のこうした学問と思想的営為の基礎となる部分をまず明らかにすることが急務であると考え、同博士が所蔵し、同博士の学的営為の源泉となった1万5千冊の中近東諸語の蔵書の整理を研究の中心的作業とすることにした。中近東語の蔵書の多くはアラビア語、ペルシア語、トルコ語のもので、内容的には主としてイスラーム思想に関係するものである。このため蔵書の整理についてはアラビア語、ペルシア語、トルコ語の文献学に精通している慶応義塾大学非常勤講師岩見隆氏の全面的協力を得ておこなった。この結果、井筒博士の蔵書のなかには極めて資料的価値の高いイランの石版図書が含まれていることが明らかになった。石版図書はその性質上、分析に時間と労力を要するものであるが、本研究計画の最終年度にこれら石版図書のなかから特に資料的価値の高い図書90点をえらび「故井筒俊彦博士旧蔵イラン石版本目録」を作成し、研究課題報告書の一部として印刷した。