著者
玉岡 賀津雄 Michael P. Mansbridge
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.35-63, 2019 (Released:2019-10-02)
参考文献数
47

動詞を読む前の予測処理がかき混ぜ文の処理に影響すると報告されている。しかし,これらの研究は,文の同じ位置で名詞を比較しておらず,名詞の種類も異なっていた。そこで,高使用頻度の人名を文の同じ位置に配置して,他動詞の単文とそれらを埋め込んだ複文の2つの実験で,短距離・長距離のかき混ぜを句ごとに視線計測した。NP-ACC(ヲ)とNP-NOM(ガ)が連続して現れる場合は,2つ目の名詞句のNP-NOM(ガ)の部分で,両実験のかき混ぜ文の通過時間が有意に長くなった。これは,埋語補充解析が始まることを示唆している。しかし,その後,動詞を読んでからの再読時間と読み戻り頻度が,埋語が想定される付近の名詞句を中心に観察された。意味的な手掛かりが欠如する場合には,動詞の情報に準拠した主要部駆動処理に強く依存することが示された。手掛かりの有無によって,主要部前処理か主要部駆動処理かの依存の度合いが異なってくると考えられる。
著者
小泉 政利 玉岡 賀津雄
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.125, pp.173-190, 2004-03-25 (Released:2007-10-23)
参考文献数
35

本論文では,述語の項構造と文の統語構造との対応関係の研究の一環として行った日本語二重目的語構文の語順に関する実験結果を報告した.日本語の二重目的語文の基本語順に関して下記の3種類の仮説が提案されており,論争になっている,仮説1:「がにを」が基本語順である.仮説2:「がにを」も「がをに」も共に基本語順である.仮説3:動詞によって「がにを」が基本語順のもの(見せるタイプ)と「がをに」が基本語順のもの(渡すタイプ)とがある.これらの仮説の妥当性を検証するために,文正誤判断課題を用いて,文の読み時間(反応時間)を測定する実験を行った.その結果,見せるタイプの動詞を使った文も渡すタイプの動詞を使った文も共に,「がにを」語順の文のほうが「がをに」語順の文よりも反応時間が有意に短かった.この結果は,二重目的語文は動詞のタイプに関わらず「がにを」が基本語順であることを示唆しており,仮説1が支持された.
著者
林 炫情 玉岡 賀津雄 宮岡 弥生
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 山口県立大学学術情報編集委員会 編 (ISSN:18826393)
巻号頁・発行日
no.7, pp.9-15, 2014-03-31

り方を決定づける「対話場面(1対1・会議・メール・学生の前)」、「親疎関係(親しい・親しくない)」、「力関係(年上・同年齢・年下)」、「話し手と聞き手の性差(同性・異性)」、「調査協力者属性(男女差・年齢など)」の5つの要因を設定し、呼称表現選択にそれぞれの要因がどのように影響しあっているのかを決定木分析を用いて検討した。その結果、すべての場面において、「さん」よりは「先生(○○先生)で呼ぶことが多く、大学教員同士では相手を「先生(○○先生)」付けで呼ぶことが一般的であることが分かった。また、教員同士の「さん」使用は、「1対1」(139回, 22.7%)>「メール」(78回, 13.0%)>「会議・学生の前」(67回, 5.4%)の順に使用頻度が高く、「会議・学生の前」といった比較的フォーマルな場面や相手の立場への配慮が必要な場面では使用しにくいことが示唆された。女性教員の場合、「会議・学生の前」では相手を「さん」で呼ぶケースは見られなかった。さらに、決定木分析の結果、教員同士の「先生」と「さん」の使用選択には、「対話場面」の影響がもっとも強く、「親疎関係(親しい・親しくない)」、「力関係(年上・同年齢・年下)」、「調査協力者の男女差、年齢」の違いが、部分的に認められた。
著者
玉岡 賀津雄
出版者
日本語文法学会
雑誌
日本語文法 (ISSN:13468057)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.92-109, 2005-09
被引用文献数
1

本研究は,中国語を母語とする日本語学習者が,正順とかき混ぜ語順の能動文と可能文をどのように理解しているかを,文正誤判断課題による反応時間と正答率で検討した。まず,文法テストを87名の日本語学習者に行い,91.7%以上の得点を得た24名を被験者として選択した。実験1では,能動文の正順語順の方がかき混ぜ語順よりも速く,また正確に理解していることが観察された。この結果は,日本語母語話者と同じように,中国語を母語とする日本語学習者も,能動文の基底構造である[s NP-ga [vp NP-o V]]を構築して,かき混ぜ語順については空所補充解析による文理解を行っていることを示唆している。さらに実験2では,格助詞情報で統語構造を組み立てようとすると,主語・目的語の文法関係と食い違ってしまい,文の意味が理解できなくなるような可能文の正順とかき混ぜ語順を比較した(例えば,「高志にギリシャ文字が書けるだろうか」,[s NP-ni [vp NP-ga V]])。その結果,可能文の正順とかき混ぜ語順の理解時間に違いはなく,スクランブル効果が観察されなかった。したがって,可能文の正順の基底構造が確立されておらず,空所補充解析は行われていないと思われる。
著者
小泉 政利 玉岡 賀津雄
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.392-403, 2006 (Released:2008-11-13)
参考文献数
36
被引用文献数
1

The present study investigated the canonical positions of four kinds of adverbial expressions (or adjuncts) in Japanese (i.e. modal, time, manner, and resultative adverbs) using a sentence plausibility judgment task measuring reaction times and error rates. Sentences with a modal adverb were processed faster in the Adverb-Subject-Object-Verb (ASOV) order than either the SAOV or SOAV order. For time adverbs, the mean reaction time for SOAV was longer than the mean reaction times for ASOV and SAOV, which did not differ significantly from each other. For manner and resultative adverbs, ASOV took longer to process than SAOV and SOAV, and the latter two orders did not show a reliable difference in reaction times. These results suggest that the canonical word order(s) is(are) ASOV for modal adverbs, ASOV and SAOV for time adverbs, and SAOV and SOAV for manner and resultative adverbs, as predicted by the following syntactic structure of Japanese. [MP (Modal-Adv.) [IP (Time-Adv.) Subject (Time-Adv.) [VP (Manner/Resultative-Adv.) Object (Manner/Resultative-Adv.) Verb] Infl] Modal]
著者
柴崎 秀子 玉岡 賀津雄
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.449-458, 2010-02-20 (Released:2016-08-06)
参考文献数
15
被引用文献数
8

本研究では,小学1年から中学3年までの国語科教科書に収められたテキストの構成要素を分析し,学年による文章の難易尺度を検討した.学年を判定する式を構築するために,主要な国語科教科書の243テキストから,標準的な205のテキストを選んだ.そして,(1)1文の平均文字数,(2)1文の平均文節数,(3)1文の平均述語数,(4)テキスト全体の漢語の割合,(5)テキスト全体の平仮名の割合の5つを独立変数として,学年を従属変数とする重回帰分析(ステップワイズ)を行った.その結果,平仮名の割合と文の平均述語数の2つが有意な独立変数となり学年についての高い予測力を示した(R^2=0.791)ので,この2変数で学年判定式を構築した.
著者
斉藤 信浩 玉岡 賀津雄
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.35-47, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
32

理由節カラは、内容領域、認識領域、言語行為領域へと意味的に拡張し、多義化した。韓国語は日本語と同じ3領域に拡張した理由節を持ち、中国語は内容領域と認識領域の2領域だけを持つ。そこで、韓国語および中国語を母語とする日本語学習者の文法力を同等に統制して、3領域の用法の習得を比較した。その結果、韓国語母語話者は3領域を等しく理解したが、中国語母語話者は言語行為領域の理解が著しく低かった。母語の理由節の特性が外国語の理解に強く影響することが示された。
著者
玉岡 賀津雄 TAMAOKA Katsuo
出版者
名古屋大学言語文化研究会
雑誌
ことばの科学 (ISSN:13456156)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.45-64, 2020-12-25

SNSの普及にともない,書き言葉によるコミュニケーションが頻繁に行われるようになってきた。とりわけ,事実に即した情報や依頼などをわかり易く書き言葉で伝達するための「説明文(expository writing)」を書く能力が要求されるようになってきた。この能力を「説明力(explanatory ability)」と呼ぶ。現代社会において,説明力は日本語母語話者ばかりでなく外国人日本語学習者の実生活でも,なくてはならない能力になっている。そこで,『多言語母語の日本語学習者横断コーパス: I-JAS』に収録された2つのストーリーライティング課題が説明文を反映していると仮定し,海外で学習する日本語学習者850名が書いたテキストデータを基に,(1)動詞,助動詞,副詞,助詞の4つの品詞を「述部」とし,(2)名詞,形容詞,連体詞の3つの品詞を「名詞句」として,品詞別の産出頻度を算出した。そして,J-CAT(Japanese Computerized Adaptive Test)で測定された日本語能力からI-JASのテキストの産出頻度への因果関係モデル(図1を参照)を5つ想定して,構造方程式モデリング(structural equation modelling, SEM)の解析法で日本語能力と産出頻度データとの適合度を検討した。適合度指標に照らして,最適の因果関係モデル(図2を参照)をみいだした。このモデルは,次のような連続的な因果関係を示した。(1)語彙と文法が「基礎力」を構成し,(2)読解と聴解の「理解力」を促進し,(3)「述部」の語彙産出を豊かにし,(4)「名詞句」の語彙産出に大きく貢献する。With the widespread use of SNS (social networking services), people are communicating more frequently by written text than ever before. The ability to express content plainly is in great demand. In the present study, this is defined as “explanatory ability”. In contemporary society, this ability has become essential to daily life not only for native Japanese speakers but also for foreign learners of Japanese. Assuming the two story-writing tasks recorded in the International Corpus of Japanese as a Second Language (I-JAS) reflect explanatory ability, the productive frequencies of lexical categories found in the text written by 850 Japanese learners outside Japan were divided into two groups: (1) four categories of verbs, auxiliary verbs, adverbs, and auxiliaries as “predicates” and (2) three categories of nouns, adjectives, and conjoined words as “noun phrases”. Using the statistical method of structural equation modelling (SEM), the five causal relation models linking Japanese proficiency as measured by the Japanese Computerized Adaptive Test (J-CAT) and text productive frequencies (see Figure 1) were examined to see how these models fit with data from proficiency scores and productive frequencies. Based on the fitting indexes, the study found the best causal model to be that identified in Model 2 (see Figure 2). This model showed causal sequencing in the following order: (1) procession of a basic knowledge of vocabulary and grammar (2) promotes reading and listening comprehension, further (3) enriches the production of predicates and (4) contributes to the production of noun phrases.
著者
大和 祐子 玉岡 賀津雄 熊 可欣 金 志宣 YAMATO Yuko TAMAOKA Katsuo XIONG Kexin KIM Jeeseon
出版者
名古屋大学言語文化研究会
雑誌
ことばの科学 (ISSN:13456156)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.39-58, 2017-12-25

本研究では,韓国人日本語学習者31名を対象に,語彙テスト36問および漢字読み取り・書き取りテスト各24問(合計48問)の結果から,韓国人日本語学習者の語彙知識と漢字の読み書き能力との因果関係を検討した。日本語の語彙知識が漢字の読みと書きに同時に貢献する並列モデルと日本語の語彙知識がまず漢字読み取り能力に貢献し,読み取り能力を介して漢字書き取り能力に貢献するとする逐次モデルを想定して,それぞれのデータとモデルの適合度を構造方程式モデリングの手法で調べた。その結果,逐次モデルテストの結果を最もよく反映していることが分かった。韓国人日本語学習者は,日本語の基本的な語彙知識から漢字語の読み(音韻的表象群の形成)を習得し,その記憶の蓄積から,漢字語の書き取り能力(書字的表象群の形成)を向上させるという因果関係をみいだした。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 大塚 祐子 遊佐 典昭 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 Jeong Hyeonjeong 新国 佳祐 玉岡 賀津雄 伊藤 彰則 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 矢野 雅貴 小野 創
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

主語(S)が目的語(O)に先行するSO語順がその逆のOS語順に比べて処理負荷が低く母語話者に好まれる傾向があることが報告されている。しかし,従来の研究はSO語順を基本語順にもつSO言語を対象にしているため,SO語順選好が個別言語の基本語順を反映したものなのか,あるいは人間のより普遍的な認知特性を反映したものなのかが分からない。この2種類の要因の影響を峻別するためには,OS語順を基本語順に持つOS言語で検証を行う必要がある。そこで,本研究では,SO言語とOS言語を比較対照することによって,人間言語における語順選好を決定する要因ならびに,「言語の語順」と「思考の順序」との関係を明らかにする。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 大塚 祐子 遊佐 典昭 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 Jeong Hyeonjeong 新国 佳祐 玉岡 賀津雄 伊藤 彰則 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 矢野 雅貴 小野 創
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

主語(S)が目的語(O)に先行するSO語順がその逆のOS語順に比べて処理負荷が低く母語話者に好まれる傾向があることが報告されている。しかし,従来の研究はSO語順を基本語順にもつSO言語を対象にしているため,SO語順選好が個別言語の基本語順を反映したものなのか,あるいは人間のより普遍的な認知特性を反映したものなのかが分からない。この2種類の要因の影響を峻別するためには,OS語順を基本語順に持つOS言語で検証を行う必要がある。そこで,本研究では,SO言語とOS言語を比較対照することによって,人間言語における語順選好を決定する要因ならびに,「言語の語順」と「思考の順序」との関係を明らかにする。
著者
小泉 政利 安永 大地 木山 幸子 遊佐 典昭 行場 次朗 酒井 弘 大滝 宏一 杉崎 鉱司 玉岡 賀津雄 金 情浩 那須川 訓也 里 麻奈美 小野 創 大塚 祐子 矢野 雅貴 八杉 佳穂 上山 あゆみ
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究プロジェクトの目的は,マヤ諸語とオースロネシア諸語のなかのOS言語(特に,グアテマラのカクチケル語と台湾のタロコ語)を対象に,談話内での1.文理解過程,2.文産出過程,3.言語獲得過程,ならびに4.言語の語順と思考の順序との関係を,聞き取り調査やコーパス調査,行動実験,視線計測,脳機能計測などを用いて,フィールド心理言語学の観点から多角的かつ統合的に研究することである。より具体的には,1~4における個別言語の文法的要因と普遍認知的要因が文脈に埋め込まれた文の処理に与える影響を明らかにし,脳内言語処理メカニズムに関するより一般性の高いモデルを構築することを目指す。本年度は特に以下の研究を実施した。[文法理論部門]タロコ語の文法調査を行った。[理解部門・神経基盤部門]文脈と語順が文処理に与える影響を調べるために事象関連電位を用いたタロコ語の実験を実施した。[産出部門・思考部門]タロコ語の文散出時に動詞のレンマがどのようなタイミングで活性化されるかを調べる実験の準備(予備実験を含む)を行った。また,タロコ語話者の思考の順序やタロコ語の文産出に与える非言語的文脈や話者自身の動作の影響を調べるためのジェスチャー産出実験と文産出実験を行った。[全部門共通]トンガ語の調査・実験の実行可能性を調べるためにトンガ王国で現地見分を行った。また,ジャワ語の専門家を招いて,ジャワ語の調査・実験の実行可能性についての検討会を開催した。
著者
大和 祐子 玉岡 賀津雄 熊 可欣 金 志宣 YAMATO Yuko TAMAOKA Katsuo XIONG Kexin KIM Jeeseon
出版者
名古屋大学言語文化研究会
雑誌
ことばの科学 (ISSN:13456156)
巻号頁・発行日
no.31, pp.39-58, 2017-12

本研究では,韓国人日本語学習者31名を対象に,語彙テスト36問および漢字読み取り・書き取りテスト各24問(合計48問)の結果から,韓国人日本語学習者の語彙知識と漢字の読み書き能力との因果関係を検討した。日本語の語彙知識が漢字の読みと書きに同時に貢献する並列モデルと日本語の語彙知識がまず漢字読み取り能力に貢献し,読み取り能力を介して漢字書き取り能力に貢献するとする逐次モデルを想定して,それぞれのデータとモデルの適合度を構造方程式モデリングの手法で調べた。その結果,逐次モデルテストの結果を最もよく反映していることが分かった。韓国人日本語学習者は,日本語の基本的な語彙知識から漢字語の読み(音韻的表象群の形成)を習得し,その記憶の蓄積から,漢字語の書き取り能力(書字的表象群の形成)を向上させるという因果関係をみいだした。本稿は,科学研究費補助金・若手研究(B)「非漢字圏学習者の漢字語彙学習の成功に影響する要因の解明:効果的な学習支援のために」(課題番号:16K21145,研究代表者, 大和祐子),科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究「動詞と共起する名詞群の検索エンジンの構築と読解および聴解に対する共起知識の貢献」(課題番号:16K13242,研究代表者, 玉岡賀津雄)および日本学術振興会特別研究員奨励費(熊可欣:15J03617)の助成を受けた研究成果の一部である。