著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.69-81, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
20

本研究では、ネパール、フィリピン、ブラジル、中国等、外国につながりをもつ7人の複言語話者である高校3年生を対象に母語認識インタビューを行った。その結果を「継承語(第一言語)」、「現地語」(日本語)、英語という3つの観点から考察し、彼らの各言語に対する複層的な認識と、その認識を基盤とするアイデンティティの表出を質的に分析する。
著者
佐藤 美奈子
出版者
近畿大学全学共通教育機構教養・外国語教育センター
雑誌
近畿大学教養・外国語教育センター紀要. 外国語編 = Kindai university center for liberal arts and foreign language education journal. Foreign Language edition (ISSN:2432454X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.15-38, 2019-11-30

[要約]本研究は,ヒマラヤの小国ブータン王国における英語教授言語を主題とする.ブータンは,国語であるゾンカ語を含め19もの少数言語を擁する多言語社会である.1961年の普 通教育導入に際し,英語を教授言語として選定した.現在ブータンにおいて英語はゾンカ 語と並ぶ全国的な共通語として機能し,英語を第一言語とする世代も登場している.本研 究では現地調査をもとに,教授言語に対する人びとの認識とその変化を検証した.その結 果,教育による平等な社会の実現を目指した初期の政策から,その後ゾンカ語を核とする 国家アイデンティティの育成へと比重を移した教育政策上の転換が人びとの教育観や言語 観に反映され,「望ましい教授言語」の認識にも変化が生じていることが明らかになった.
著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.85-92, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
4

本研究は、多言語社会ブータンにおける複言語話者の言語認識と、母語を定義の過程を明らかにすることを目的とする。複数の母語定義基準を提唱するSkutnabb-Kangas(1981)と、関係言語の相対的地位から言語の「優位性」の概念を提唱するWeinreich(1976)の見解を融合した「総体的な母語認識」という概念を提唱し、自身にとって核となる言語を「総体的な母語認識」として定義する。学校関係者612人を対象として母語認識調査をおこなった結果、ブータンの複言語話者の母語認識には、現在の能力や使用頻度を基準に自身の母語を定義する現実主義的傾向と、国家アイデンティティの核とされる国語を個人としても自身の母語とする国家主義的傾向、出身民族の言語を自身の母語とするルーツ志向があることが明らかになった。個人が複数の基準から何を選択し、それに基づきどの言語を自身の核として据えるかには、その個人の自己規定の仕方が反映される。母語認識とは、すなわち自己認識である。
著者
佐藤 美奈子 松永 達雄 神崎 仁 小川 郁 井上 泰宏 保谷 則之
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.192-197, 2001-03-20
被引用文献数
8 8

突発性難聴の重症度分類は, 初診時の5周波数平均聴力レベルを4段階に分類し (Grade 1: 40dB未満, Grade 2: 40dB以上60dB未満, Grade 3: 60dB以上90dB未満, Grade 4: 90dB以上), めまいのあるものをa, ないものをbとして, 初診時に突発性難聴のグレーディングを行う方法である. しかし臨床データによる研究は少なく, その有用性・問題点については未知の部分が多い.<BR>本研究では, 発症後1週間以内に治療を開始した初診時聴力レベル40dB以上の突発性難聴263例を, 前述の重症度分類に基づき6群に分類, 聴力回復との関係を検討した. 固定時聴力の比較では, 予後良好な順にGrade 2b>2a>3b>3a>4b>4aであった. 初診時聴力レベルに影響を受けない予後の定量的評価の方法として, 聴力改善率と各群の治癒症例の割合を用いて検討すると, 予後は良好な順に, Grade 2b, 3b>2a>3a>4b>4aの5段階に位置づけられ, Grade 4aの予後が顕著に不良であった. Grade 2, 3では, 初診時聴力レベルよりめまいの有無の方が予後に対する影響が大きいと考えられた. Grade 4を聴力レベル100dBで分けた場合の聴力予後は, 4aでは100dBを境に大きな差が見られ, 100dB未満の4aは3aと同程度であった. しかし4bでは, 100dB以上の予後がやや悪いものの, その差は小さかった. 今回の検討により, 発症後1週間以内に治療を開始した突発性難聴では, 初診時聴力にかかわらず, ほぼ同程度の聴力改善が望めるレベルが存在し, このレベルはめまいのない場合40-89dB, めまいのある場合60-99dBであると考えられた. 各々の予後は, めまいのない場合, 治癒する可能性約60%, 聴力改善率平均80%以上, めまいのある場合, 治癒する可能性約40%, 聴力改善率平均60%程度と推察された. また, 初診時Gradeと重症度分類に準じた固定時Gradeを比較すると, 初診時Grade 2, 3では, 固定時Grade 1, Grade 4では, 固定時Grade 3の症例が多かった.
著者
佐藤 美奈子
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.49-75, 2021-03-31 (Released:2021-03-31)
参考文献数
49

教育の普及に伴い、ブータンではゾンカ語(国語)と英語の有用性と威信性が高まり、ブータン社会における両言語の習得の必要性と重要性に対する人びとの認識が強まっている。本研究は、ブータンに新たに登場した、「英語もゾンカ語も堪能な知識人」を両親とする家庭を対象に家庭言語調査をおこない、核家族で地方に赴任した教師家庭と地元出身の大家族三世代で暮らす一般家庭を比較した。結果からは、ゾンカ語は両方の知識人家庭ですでに標準となっている一方で、両家庭の相違は、新たな家庭言語選択肢となりつつある英語の導入のされ方と民族語の継承にあることが明らかになった。家庭言語に対して高い意識をもつ教師家庭では、子どもの幼少期から両親が意識的に英語を導入しているのに対し、一般家庭では子どもの成長に伴い、子ども自身が学校で学習した英語を家庭へ持ち込むことで家庭言語として定着していく様子がみられた。民族語は、核家族で暮らす教師家庭では子どもが成長すると実用性の高いゾンカ語と英語にシフトされるのに対し、三世代同居の一般家庭では、祖父母世代の存在に支えられ、英語とゾンカ語と併用される形で維持されていた。その結果、一家庭平均3言語という高い複数言語環境を創造するに至っていることが明らかになった。