著者
堤 俊彦 千代丸 信一 繁成 剛
出版者
近畿福祉大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本研究は、重度運動発達障害児童(重度児)を対象として、他動的な移動補助具の適合性を高めることにより向上すると予測される、重度児の自発性や自立移動意欲に関した研究を行うものである。昨年度年度は、これまで専門家の勘や経験に頼っていた補助移動具の選択・適合度に関しSRCウオーカーを中心に,科学的なデータベースの構築を行った.今年度は,実際の現場においてSRCウオーカーを療育に用いている養護教諭,あるいは介護者に,導入によって高まるだろうと予測される心理的な自立移動意欲の評価を行った。具体的には,TFIP (Trunk Forward Inclining Posture)アプローチ経験のある養護教諭,及び介護者12人を対象として半構造化面接法を行い質的なデータを収集した.質問内容は,1)TFIPアプローチに関する知識,2)重度児の自発性や移動意欲,3)身体活動向上に伴う恩恵(Pros:メリット),4)身体活動向上に伴う負担(Con:デメリット)である.結果は,インタビュー内容をデータ化し,重要な表現と内容の抽出を行った後,概念化とカテゴリーの名を付与した.その結果TFIPアプローチのメリット(pros)は,1)身体感覚が高まる,2)体力や筋力の向上,3)精神・心理的な効果,4)社会性/コミュニケーションが高まる,5)介護者のQOLとなった.一方,デメリット(cons)は,1)メカニカルな限界,2)体力的な問題,3)訓練/トレーニングとして捉えられる,4)介護者の考え方,5)環境の制限となった.重度CP児の身体活動を高めることには,身体機能だけでなく,心理面や社会性などに関した恩恵である.これの効果は,重度児の身体を活性化させることにより,環境に対して注意を向けたり,ものに対する興味関心が広がるなど,積極的に外界に関わろうとする自立移動意欲の促進につながることを予測させる。
著者
井上 美智子 無藤 隆
出版者
近畿福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

東京都・兵庫県の保育所・幼稚園1600園を対象とした質問紙調査を実施し、分析を進めた。その結果、園庭や地域の環境の実態にかかわらず、保育者が意図的に自然との関わりを活動の中に含まれるよう環境や活動を考えていることがわかった。しかし、そこで見られる活動内容や環境設定は従来の自然との関わりと大差はなく、自然の循環性や多様性を意識した内容などはまだあまり検討されていないことが明らかになった。また、幼保・公私のカテゴリー別にみてみると、多くの点で公立幼稚園の実態が高く評価できた。今後、自然体験プログラム等のノウハウが蓄積すれば、保育現場が受け入れる余地は十分にあると考えられ、期待が持てた。環境教育実践施設キープ自然学校における幼児対象自然キャンプでは、3年間の継続実施の過程で、幼児対象のプログラムは原則的にフリープログラムが有効であることが確認できた。しかし、そこには保育者、あるいは、関係する大人のかかわり方が重要であり、子ども観・保育観を共有しながら、子どもが自主的に遊びを創出していく過程を援助する役割に徹する必要性が確認できた。また、子どもが森の中で活動する内容には単に自然体験だけの枠に留まらない多様な経験があり、子どもの総合的な発達の全ての部分に関わる場を提供していると考えられた。その上に、自然の中ではそこでしかできない体験も含まれることから、自然との関わりが発達に寄与するものが再確認できたといえる。今後は、保育者に向けてこれらの活動の意義を啓発していく必要が感じられた。最終年度には、同様の活動をしている他団体と、保育現場の教員を交えてまとめの研究会を実施した.各実践者とも自然との関わりの価値を認めそこに子どもの多様な育ちの場認めているが、それを言語化していくこと、また、親にどう向き合っていくかが課題であると確認できた。