著者
伊藤 誠二 裏出 良博 松村 伸治 芦高 恵美子
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

痛みは生体にとって警告反応どなる生理的な痛みだけでなく、炎症や手術後の痛み、癌末期の疼痛、神経の損傷による神経因性疼痛(ニューロパシックペイン)と様々な原因で起こり、自発痛、侵害性刺激による痛覚過敏反応、本来痛みを誘発しない非侵害性刺激による痛み(アロディニア)とさまざまな病態をとる。末梢組織で活性化された侵害受容器のシグナルは一次求心性線維を介して脊髄後角に伝えられる。我々は、脊髄髄腔内にプロスタグランジン(PG)E_2あるいはPGF_<2α>を投与するとアロディニアを生じ、PGD_2がアロディニアの発症を修飾すること、これらのアロディニアの発症はカプサイシン感受性と非感受性の異なる2つの伝達経路を介すること、脊髄での中枢性感作には、PG→グルタミン酸→NMDA受容体→一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性化という生化学的カスケードを介することを明らかにしてきた。今年度は、アロディニアの発症機構におけるこれらの生体因子の役割をノックアウトマウスで明らかにするために、まずマウスの坐骨神経結紮モデルを確立し、検討した。1)アロディニアは坐骨神経結紮後、1週間で生じたが、COX-2のノックアウトマウスは、アロディニアの発生には関与しなかった。2)坐骨神経結紮モデルの痛覚反応はCOX-1の選択的阻害薬で抑制されたが、COX-2の選択的阻害薬では影響されなかった。3)誘導型NOSのノックアウトマウスでもアロディニア反応は抑制されなかった。4)NMDA受容体ノックアウトマウスではアロディニア反応の出現が抑制された。これらの結果は、アロディニアの発症にグルタミン酸による興奮性神経伝達が重要な役割をしていることを示唆するものである。今後、我々が進めてきた髄腔内PG投与によるアロディニアモデルと比較検討してアロディニアの発症機構を解明したいと考えている。
著者
芦高 恵美子 伊藤 誠二
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ノシセプチン/オーファニンFQ(N/OFQ)とノシスタチン(NST)は、同一前駆体タンパクから産生され、痛覚伝達において相反する作用を示す。ペプチドの産生、遊離が重要な制御機構の一つであると考えられる。Bioluminescence Resonance Energy Transfer(BRET)を用い、生細胞においてタンパクのプロセッシングを定量的にモニターできる新規プローブを開発し、NSTとN/OFQのプロセッシングに適用できることを明らかにした。本研究は、プロセッシングモニタープローブを導入した細胞において、NSTとN/OFQの産生、遊離を制御する分子の同定、さらに個体レベルでの疼痛発症における神経回路網解析を行い、疼痛発症制御機構の解明を目的とする。1.NSTとN/OFQの産生、遊離 プロセッシングモニタープローブを用いNSTとN/OFQの産生には、少なくともfurin、PC1およびPC2が関与していることを明らかにした。内因性にfurin発現細胞に、PC1を発現させると、NSTは恒常的分泌経路を、PC2発現により調節的分泌経路を介して分泌された。また、炎症性の痛覚モデルマウスにおいて、脊髄後角においてfurinとPC2が顕著に上昇する興味深い結果が得られた。このことは、プロセッシング酵素の誘導により、NSTの産生や分泌経路が異なり、N/OFQの痛覚発症が制御されている可能性が示唆された。2.NSTとN/OFQ遊離をめぐる疼痛発症 プロスタグランジンE_2によるアロディニアは、N/OFQの遊離を介しており、NSTによってその痛覚反応は抑制されたことより、NSTとN/OFQの遊離調節により、痛覚制御がなされていることも示唆された。
著者
伊藤 誠二 西澤 幹雄 芦高 恵美子 松村 伸治
出版者
関西医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

最近のDNAマイクロアレイの実験では、神経損傷に伴い100以上の遺伝子発現が変化することが報告されているが、どのように疼痛反応に関与するかは不明であった。今年度はPACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)のノックアウト(PACAP^<-/->マウスを用いて検討を行った。神経損傷に伴いPACAPの発現がDRGの中型・大型細胞、脊髄後角の浅層で増加するが、PACAP^<-/->マウスでは見られなかった。痛覚伝達にはグルタミン酸NMDA受容体が重要であり、その活性化に伴い一酸化窒素(NO)の産生が増加する。神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)活性は組織を固定後、NADPHジアホラーゼ活性で組織染色して測定できる。神経損傷後、NADPHジアホラーゼ活性がPACAPの発現誘導部位に一致して増加していたが、PACAP^<-/->マウスでみられなかった。NADPHジアホラーゼがnNOSの活性化を反映しているかどうか確認するために、蛍光NO指示薬DAF-FMを用いてNO産生を検討した。脊髄スライスにNMDAあるいはPACAPを単独投与した場合にはNO産生がみられなかったが、NMDA存在下にPACAPは濃度依存的にNO産生を増加させた。PACAP^<-/->マウスでNMDAとPACAPが相乗的に作用してアロディニアを誘発することから、疼痛行動とNO産生との関連が確認された。さらに、培養細胞を用いてNMDAとPACAPでnNOSの細胞質から細胞膜へのトランスロケーションが引き起こされ、NO産生が上昇することが示された。nNOSは後シナプス膜肥厚(PSD)においてPSD-95を介してNMDA受容体と会合することが知られている。現在、神経因性疼痛に伴うNMDA受容体複合体の構成分子の変化をプロテオミクスで解析を進めている。
著者
澤田 敏 狩谷 秀治 谷川 昇 川口 あすか
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

2つの離れた管腔臓器をX線画像ガイド下の遠隔操作で切開せずバイパスする方法と器具を開発した。この技術は特定の臓器に限定されず汎用性のある低侵襲治療法である。本研究ではブタを用い異なった臓器に計10回の経皮的バイパス作成術を行いすべてに成功した。病気による血管や消化管などの管腔臓器の閉塞は主に外科手術によってバイパスされるが、本研究の方法は低侵襲治療法であり外科手術が難しい患者にも行える。
著者
稲葉 宗夫 比舎 弘子 槇 政彦
出版者
関西医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

並体結合マウスの作出は定常循環動態下における細胞のリクルート/ホーミングを検討する有効な手段である。GFPマウスよりIBM-BMTした宿主[GFP→C57BL/6]を正常C57BL/6と並体結合し([GFP→C57BL/6]^<IBM-BMT>+C57BL/6と標記)、GFPマウス由来の各血液細胞の分化をGFPマウスよりIV-BMTした宿主[GFP→C57BL/6]を正常C57BL/6と並体結合したマウス([GFP→C57BL/6]^<IV-BMT>+C57BL/6と標記)と比較検討した結果、造血前駆細胞の頻度は[GFP→C57BL/6]^<IBM-BMT>+C57BL/6マウスにおいて優位に高いことが判明し、並体結合により構築された正常生理的条件下においてドナー由来細胞の生着がIBM-BMTにより促進されていることが推定された。