- 著者
-
葉山 杉夫
中務 真人
- 出版者
- 関西医科大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1991
二足起立姿勢をとらせたニホンザルに対するX線写真撮影の結果,猿まわしの調教をうけたサルの脊柱にはヒト的な特徴である腰椎前弯が発生していることが判明した。ニホンザルをはじめヒト以外のほとんどの霊長類の脊柱には胸腰部を通じ後弯しか存在しない。四肢性歩行者である彼らの胸腰椎は腹側に凸な曲げモーメントに耐える構造になっている。一方,調教ザルに認められた腰椎前弯の機能的意義は二足性起立時に,1)腰椎に発生する曲げモーメントを減少させる,2)体幹を起立させる固有背筋のテコ比を高め,効率的な筋活動を可能にする,3)体の重心を背側方向に移動させ,体重を支える後肢の負担を軽減させる,ことにあると考えられる。さらに,腰椎前弯の発達度と,調教期間,調教方法との関係について検討した。一般に,調教期間が長いサル(3年以上)は,短いサル(約1年未満)よりも顕著な弯曲を示す。また前者では,四肢性姿勢時でも腰椎前弯が認められるが,後者では弯曲は失われ通常のニホンザルに近い状態を示す。しかしながら,調教期間の長い個体群についてみると,調教期間が必ずしも前弯度と相関をしていない。腰椎前弯の発達の程度には第一に調教期間,第二に個体が潜在的に持っている能力の程度が関係していると考えられる。三番目の要因として,二足歩行のための調教方法の違いが示された。調教の初期段階で二足起立姿勢を維持する訓練を受けたサルは,始めから立って歩く訓練を受けたサルに比べ,同程度の調教期間の経過後,より顕著な脊柱の代償性弯曲を示す。