著者
有竹 浩介 鎌内 慎也 丸山 敏彦 星川 有美子 早石 修 永田 奈々恵
出版者
(財)大阪バイオサイエンス研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

チューリヒッヒ大学睡眠研究グループと共同で、睡眠障害患者の脳脊髄液および血液中の睡眠覚醒調節に関与する物質を分析し、健常人と比較した。ナルコレプシー患者では脳脊髄液中のリポカリン型PGD合成酵素濃度が有意に減少していること、パーキンソン病患者では有意に増加していることが判明した。更に、ヒスタミンやアデシンの濃度を調べたところ、脳脊髄液中のヒスタミン濃度は、多発性硬化症患者で増加し、イノシン濃度は、全ての睡眠障害患者で高い値を示した。これらの結果から、脳脊髄液中のL-PGDS、ヒスタミン、イノシン濃度の測定と比較が睡眠障害の新たな診断マーカーになることを見出した。
著者
古川 貴久
出版者
(財)大阪バイオサイエンス研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

我々は網膜の発生の中でも、網膜視細胞の発生機構の解明を目指している。我々は以前、視細胞の運命決定の鍵をにぎる因子がOtx2であることを明らかにした。我々はOtx2 CKOマウスの網膜(視細胞がまったく形成されない)と正常の網膜の遺伝子発現をマイクロアレイによって発現比較解析し、視細胞の分化、視細胞の形態形成、シナプス形成ならびに機能に重要な遺伝子群をまとめて同定し、視細胞発生のメカニズムの解明を目指している。今年度までの研究から、実際我々は生後12日目、1日目、胎生17.5日目でのマイクロアレイを行い、281遺伝子がOtx2ノックアウト網膜において有意義に低下していることを見いだした。その中の一つ、視細胞特異的な発現を示し、ラミニンドメインを持つ細胞外マトリックス蛋白質をコードする新規遺伝子pikachurinについて、ノックアウトマウス(KO)を作成し生体レベルでの機能解析を行った。Pikachurinは視細胞リボンシナプスのアクティブゾーンに局在し、KOマウスでは双極細胞樹状突起のリボンシナプスへの陥入が有意に減少していた。網膜電位図では、優位な遅延が認められ、シナプス伝達の遅れが観察された。これらの結果からpikachurinは視細胞-双極細胞の特異的シナプス形成に重要な役割を果たす細胞外マトリックスタンパク質であることが示された。さらに、我々はpikachurin KOの網膜電位図が筋ジストロフィー患者の示す網膜の電気生理学的異常と似ていることから、pikachurinとDystroglycanとの相互作用について検討した。実際、我々はpikachurinのラミニンドメインがalpha-Dystroglycanと糖鎖部分で結合することを見出した、つまりpikachruinはDystroglycanの新たなリガンドであることを示した。これらの結果から、我々はpikachurinとalpha-Dystroglycanの結合が網膜における精密なシナプス形成に重要であることが明らかとなり、さらに筋ジストロフィー患者の網膜生理異常の分子メカニズムの一端も解明された。現在、これらの結果についての論文投稿中である。