著者
吉田 和之 磯本 淳貴 今井 秀秋 光田 恵 柏原 誠一 松田 克己
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.126-134, 2008-03-25
被引用文献数
1

一般住宅の臭気対策の基礎データを取得することを目的として,調理で発生した焼肉臭の主成分の分析を行うとともに,カタログ等でにおい低減が表示されている各種市販内装材の臭気低減効果と持続性能の評価を行った研究である.<BR>最初に,GC-におい嗅ぎとGC-MSにより,焼肉臭の主成分がアルデヒド類や硫黄系化合物であることを明らかにした.次に,20Lのステンレス製容器中で市販の珪酸カルシウム系の内装材が焼肉臭気を低減することを明らかにした.<BR>実際の住環境に近い1m<SUP>3</SUP>のボックスを用いて,臭気低減効果を臭気濃度等で評価したところ,焼肉臭が珪酸カルシウムやアルミ珪酸塩系の内装材により低減されることが確認された.また,珪酸カルシウムとアルミ珪酸塩系内装材の効果持続性の相違がデシケーターを用いた促進試験で明らかにされた.
著者
村上 栄造 河野 仁志 加藤 真示 水野 成治 野口 正弘 堀 雅宏
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.146-150, 2004
被引用文献数
1

厨房排気臭は、都市部での代表的な悪臭として認識が高まりつつある。そこで、その対策として光触媒技術の適用を検討した。光触媒フィルターには、3次元網目構造をもつセラミックス多孔体にTiO<SUB>2</SUB>微粒子をコーティングし、さらに、その表面には、化学的に安定したナノサイズの銀を担持して用いた。対象とした臭気は、中華料理店からの厨房排気臭とし、その排気臭に寄与している硫化水素の脱臭性能を確認する基礎的な試験を行い、得られた知見から光触媒脱臭装置を作成した。その結果、中華料理店の厨房排気臭に対してナノサイズの銀を担持した光触媒技術が利用できることが明らかになった。
著者
坂井 信之
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, 2006-11-25

においやかおりが漂ってくると,我々はそのにおいの元を目で探してしまう.そこでにおいの元が何であるか理解できたときには安心するし,においの元を探し出せないときには,しばらく不安な気持ちになってしまう.このように,人では,においやかおりは単独で機能するのではなく,絶えず他の感覚と同時に使用されることによって外界の認知に役立っている.<BR>これまで,本学会誌はにおいやかおりの受容機構に関する総説特集や研究論文を多く掲載してきた.しかしながら上述したような事例から,においはそれ単独で感じられるだけではなく,味覚や三叉神経覚などと統合され,風味や化学環境の知覚を形成していると考えられる.そこで本特集では,においやかおりと関連が深い他の感覚の受容機構とそれらと嗅覚との相互作用に関する総説論文を掲載し,読者の方々がにおい・かおりの受容機構をより広く深く理解する助けとしたい.<BR>最初に味覚の受容機構について長年にわたって生理学の観点から味覚を研究されてきた小川氏(熊本機能病院神経内科・熊本大学名誉教授)と脳磁場計測の手法により現在精力的に味覚の脳機構について研究を進められている小早川氏((独)産業技術総合研究所)にまとめていただいた.口腔内での味覚の末梢性受容機構から,味覚情報の脳内情報伝達系,サルやヒトの大脳での味覚情報処理など,最低限知っておくべき知識から最新の知見までを盛り沢山に紹介していただいており,大変読み応えのある総説になっている.<BR>次に三叉神経系の化学感覚の受容機構を駒井氏(東北大学)を中心として井上氏(日本たばこ産業(株)),長田氏(北海道医療大学)らにまとめていただいた.しばしば味覚や嗅覚と混同される炭酸の刺激感,カプサイシンによる辛味,メントールの刺激感などについて,末梢の受容機構を中心に解説していただいた.<BR>続いて,化学感覚ではないが,食物を摂取するときには必ず生じている口腔内の物理的感覚(温度やテクスチャーなど)の受容機構ならびに,それらと口腔内の化学感覚との関係について硲氏(朝日大学)にまとめていただいた.歯痛のときにしか生じないと思われている歯の「感覚」が,実は通常の食事時にも生じており,それが食物の固さの感覚や異物の検出に重要な役割を果たしていることは,ここで初めて目にされる読者の方も多いかもしれない.<BR>これまでの三論文が比較的単純な感覚の話であったのに対して,あとの二論文は,単一の感覚というよりも,複数の感覚が統合された結果生じる,より複雑な知覚の仕組みについてまとめている.いずれの論文も,におい(嗅覚)を中心にまとめられているため,読者の方の興味を引き,また実際の業務などへの応用も期待できるのではないだろうか.庄司氏((株)資生堂)の論文は嗅覚が他の感覚・知覚(視覚や体性感覚など)に及ぼす影響を,反対に,坂井の論文は他の感覚(視覚や味覚など)が嗅覚の質の識別や強度評定,快不快判断などに及ぼす影響について紹介している.<BR>このように,一言でにおいと言ってもそれが必ずしも嗅覚の単一の感覚からなるというわけではない.我々が「においがする」と思っているときには,ここに述べたような他の感覚や知覚によって修飾され(歪められ)た結果生じたにおい体験(嗅覚知覚)を感じていることが多い.これらのことに加えて,においに対する嗅ぐ人の経験や知識などの要因も絡んでくるため,結果として,においの感じ方には個人差が大きくなるのである.今回の特集を機に,多くの読者がにおいの奥深さについて認識を深めていただければ幸いである.
著者
東原 和成
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.123-125, 2005

平成13年, 環境省は, 全国のなかから「かおり風景100選」を選定した. 豊かなかおりとその源となる自然や文化・生活を一体として, 将来に残し伝えていくためであるという. 興味深いことに, 特に「かおり」についての選定基準はなく, 自然的, 歴史的, 文化的な景観のなかにかおりの存在が浮かび上がるような風景であるということが選定のポイントとなっている.<br> 感性の歴史家アラン・コルバンは著書「風景と人間」 (小倉考誠訳, 藤原書店) でいう. 「風景の保護はある風景解釈を選択することである」. 自然環境・景観保護運動のありかたに対する問題提起のなかに, 周辺環境との調和のなかで地域が育んできた文脈を読み解くために, 人間が親しめる無意識下の記憶, すなわち, 嗅覚を含めた五感を重視する姿勢に共感できる. <br> かおりの風景とは, そこに住む人間達が創り出す表徴であり, 人間の存在意義にもつながる風景である. 畑の肥溜めも, 焼き魚も, 古本も, 社寺も, すべて, 人間の人間たるゆえんの風景であり, その存在を否定しては, 人間自体を否定することになる. ランドスケープとともに最近少しずつ注目されてきているスメルスケープといわれる景観は, 人間が「住める空間」なのである.<br> 人間以外の生物にとってもにおいの風景は生存に関わる必須なものだ. 多くの哺乳動物は, 自分のにおいと他人のにおいを正確に識別し, 自分達の生活空間・個体空間の大きさを作り出すだけでなく, 交尾時期を的確に把握して種の保存に努めている. 植物は動けないからこそ, 独自なにおい空間を設計し, 生存に必要な情報交換をしている (細川聡子の項参照) . もちろん陸棲生物だけでない. 魚は自分の生まれた川にもどるためにも嗅覚は必須であり, また, 放精誘起なども水溶性の「におい」物質によって引き起こされる (佐藤幸治の項参照). そこに居住する人間達が, 自然的, 歴史的, 文化的な「かおりの風景」を創成しているように, それぞれの生物のまわりには, 我々が見えない, 本能的, 進化的, 生態的なにおいの風景が構築されているのである.<br> におい物質とは, 分子量30~300の低分子揮発性物質である. ただし, 揮発性であれば必ずしもにおうというわけではない. 例えば, 二酸化炭素や一酸化窒素はわれわれ人間には感知できない. では, 二酸化炭素は「におい」ではないかというと, ショウジョウバエや蚊などの昆虫にとっては, 二酸化炭素も立派なにおいなのである. そういう意味では, 広義でいう「におい」とは, 「揮発性の分子で, 空間を飛んできて, 生物によって受容される物質」と定義できるかもしれない. 最近問題になっているVOCもその部類に入るかもしれない. 中世においては「にほひ」という言葉を光の意味でつかっている. 空間からの情報という共通の意味があったのだろう.<br> におい分子は嗅覚受容体によって認識される. 信号は脳に伝わるとともに, しばらくするとそのにおいに対しては順応して信号はオフになる. 近年, 分子レベルでのにおい認識とその後の受容体の脱感作・順応のメカニズムはかなり明らかになっている (堅田明子, 加藤綾の項参照). 一方, 受容体による認識という立体構造説に対峙するものとして, 「匂いの帝王」 (早川書房) で有名になったルカ・テューリンが主張する分子振動説がある. 分子振動説によると, 普通のにおい分子と重水素化されたにおい分子とでは同じ物質でもにおいの質が異なることになる. 最近, ヒトの官能試験では「No」という結果になった一方で, 犬は区別できると主張する研究者もいるのでまだ決着はみていない. 私個人的には, どっちかだけですべてを説明できるとは思わない.<br> 嗅覚における分子認識は, ある意味, 究極の識別センサーかもしれない. 複雑な混合臭は, 特有のにおいを呈し, その複雑さが, 芸術ともいえる香水の存在を可能にしている. 混合臭が織りなすにおいの創成メカニズムもそのベールがはがれつつある (岡勇輝の項参照). また, 嗅覚受容体は, 鼻のなかでにおいセンサーとして機能しているが, 鼻以外の組織でも機能していることが明らかになってきている (福田七穂の項参照). 広義でいえば, 嗅覚受容体は, 一般的な化学物質センサーと考えてもよいだろう. 将来, 嗅覚受容体の化学センサーとしての機能をいかして, バイオセンサーの開発も夢ではない. 特に, 昆虫の性フェロモン受容体の解析で明らかになった, 高感度・高選択性をうみだすメカニズムは, 応用面に期待がかかる知見である (仲川喬雄の項参照).<br>(以降全文はPDFをご覧ください)
著者
江嵜 和子
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.330-334, 2008

京都市掃除に学ぶ便きょう会(通称 : 便きょう会)は京都市教育研究団体の一つである.主な活動は,毎月第2土曜日に行う学校のトイレ掃除(月例会)である.小学校2校において,「月例会」実施後にアンケート調査を行ったところ,「月例会」に参加した子どもたちと参加しなった子どもたちでは,2校とも「挨拶を自分からする」「学校のトイレをきれいに使うようにしている」という項目に有意な差が見られた.また,実施後の子どもたちの感想を分析すると,外発的動機で参加(消極的な参加)した45名の子どもたちでも,実施後は42名(93.3%)がトイレ掃除に肯定的な感想をもち,満足感や達成感をもったことが推測された.このような結果から,「月例会」における学校のトイレ掃除の実践は,子どもたちの心身における成長に繋がるのではないかということが示唆された.
著者
斉藤 幸子 飯尾 心 小早川 達 後藤 なおみ
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-21, 2004-01-25
被引用文献数
14 8

嗅覚順応の時間依存性については、感覚的強度は指数関数的に減少すると報告されてきた。しかし、最近、持続した臭気に対する感覚的強度の評定が認知的な影響を受けることが報告された。そこで、我々は一定濃度のトリエチルアミンを10分間提示し、その時の感覚的強度の時間依存性について検討した。その結果、感覚的強度の時間依存性は5つの型に分類され、最も多いのは一度減じてまた強く感じる変動型で、指数関数型は全観測データ数の約30%だった。