著者
溝口 忠 高橋 誠 小野 大介 堀 雅宏 谷口 眞
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.11-17, 2009-01-25
参考文献数
14

賃貸集合住宅で居住者退去後に問題となる前居住者の生活残留臭の除去方法を実験により検討した.処理法としては3種の植物性オイルミスト,グラフト重合高分子塗膜剤処理,オゾン処理を取り上げた.ペット臭・煙草臭・芳香臭を着臭させたペーパータオルについてスクリーニング試験を行い,比較的効果の高い方法を実住宅に適用して評価した.塗膜処理はスクリーニング試験では有効であったが,実住宅では大きな効果は見られなかった.オゾン処理は10ppm 14時間処理で臭気強度4から2に低下することができた.これらの検討を通して残留臭気の除去ついての知見が得られた.
著者
中村 典子 城市 篤 寺嶋 有史 田中 良和
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.150-156, 2010-05-25
被引用文献数
1

バラにはdelphinidinという多くの青い花に含まれる色素を合成する能力がなかったため青い品種がなかった.パンジーから得たdelphinidinを合成するために必要な遺伝子をバラで発現させると,delphinidinの含有率が95〜100%になり,花色が青く変化したバラを得ることができた.その中から選抜した系統について生物多様性影響評価をおこない,カルタヘナ法に基づく生産・販売の認可を取得した.アプローズ(花言葉「夢かなう」)として販売中である.アプローズは,香りがよく,その主成分はgeraniolであり,従来のバラの中では交雑で作出された紫色のバラの香りに近い.
著者
吉田 和之 磯本 淳貴 今井 秀秋 光田 恵 柏原 誠一 松田 克己
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.126-134, 2008-03-25
被引用文献数
1

一般住宅の臭気対策の基礎データを取得することを目的として,調理で発生した焼肉臭の主成分の分析を行うとともに,カタログ等でにおい低減が表示されている各種市販内装材の臭気低減効果と持続性能の評価を行った研究である.<BR>最初に,GC-におい嗅ぎとGC-MSにより,焼肉臭の主成分がアルデヒド類や硫黄系化合物であることを明らかにした.次に,20Lのステンレス製容器中で市販の珪酸カルシウム系の内装材が焼肉臭気を低減することを明らかにした.<BR>実際の住環境に近い1m<SUP>3</SUP>のボックスを用いて,臭気低減効果を臭気濃度等で評価したところ,焼肉臭が珪酸カルシウムやアルミ珪酸塩系の内装材により低減されることが確認された.また,珪酸カルシウムとアルミ珪酸塩系内装材の効果持続性の相違がデシケーターを用いた促進試験で明らかにされた.
著者
松井 健二 杉本 貢一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.166-176, 2009-05-25
参考文献数
30

みどりの香り(GLV)は炭素数6のアルデヒド,アルコール,アセテート類の総称である.GLVは陸上植物にほぼ普遍的に見いだされ,様々な食品の重要なフレーバー成分となっている.また,GLVがヒトに抗ストレス効果を誘導することが報告され,注目されている.最近の研究で,植物は自らの生息する生態系をモニターし,制御するためにGLVを利用していることが明らかになってきた.C6アルデヒドはその高い反応性により外敵に対する直接防衛に寄与している.また,三者系では害虫の天敵を呼びつけて害虫駆除に利用している.また,植物自身もGLVを感知する能力を得,周りの状況を把握することで生態系の変化に敏感に対応しているらしい.
著者
坂井 信之
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, 2006-11-25

においやかおりが漂ってくると,我々はそのにおいの元を目で探してしまう.そこでにおいの元が何であるか理解できたときには安心するし,においの元を探し出せないときには,しばらく不安な気持ちになってしまう.このように,人では,においやかおりは単独で機能するのではなく,絶えず他の感覚と同時に使用されることによって外界の認知に役立っている.<BR>これまで,本学会誌はにおいやかおりの受容機構に関する総説特集や研究論文を多く掲載してきた.しかしながら上述したような事例から,においはそれ単独で感じられるだけではなく,味覚や三叉神経覚などと統合され,風味や化学環境の知覚を形成していると考えられる.そこで本特集では,においやかおりと関連が深い他の感覚の受容機構とそれらと嗅覚との相互作用に関する総説論文を掲載し,読者の方々がにおい・かおりの受容機構をより広く深く理解する助けとしたい.<BR>最初に味覚の受容機構について長年にわたって生理学の観点から味覚を研究されてきた小川氏(熊本機能病院神経内科・熊本大学名誉教授)と脳磁場計測の手法により現在精力的に味覚の脳機構について研究を進められている小早川氏((独)産業技術総合研究所)にまとめていただいた.口腔内での味覚の末梢性受容機構から,味覚情報の脳内情報伝達系,サルやヒトの大脳での味覚情報処理など,最低限知っておくべき知識から最新の知見までを盛り沢山に紹介していただいており,大変読み応えのある総説になっている.<BR>次に三叉神経系の化学感覚の受容機構を駒井氏(東北大学)を中心として井上氏(日本たばこ産業(株)),長田氏(北海道医療大学)らにまとめていただいた.しばしば味覚や嗅覚と混同される炭酸の刺激感,カプサイシンによる辛味,メントールの刺激感などについて,末梢の受容機構を中心に解説していただいた.<BR>続いて,化学感覚ではないが,食物を摂取するときには必ず生じている口腔内の物理的感覚(温度やテクスチャーなど)の受容機構ならびに,それらと口腔内の化学感覚との関係について硲氏(朝日大学)にまとめていただいた.歯痛のときにしか生じないと思われている歯の「感覚」が,実は通常の食事時にも生じており,それが食物の固さの感覚や異物の検出に重要な役割を果たしていることは,ここで初めて目にされる読者の方も多いかもしれない.<BR>これまでの三論文が比較的単純な感覚の話であったのに対して,あとの二論文は,単一の感覚というよりも,複数の感覚が統合された結果生じる,より複雑な知覚の仕組みについてまとめている.いずれの論文も,におい(嗅覚)を中心にまとめられているため,読者の方の興味を引き,また実際の業務などへの応用も期待できるのではないだろうか.庄司氏((株)資生堂)の論文は嗅覚が他の感覚・知覚(視覚や体性感覚など)に及ぼす影響を,反対に,坂井の論文は他の感覚(視覚や味覚など)が嗅覚の質の識別や強度評定,快不快判断などに及ぼす影響について紹介している.<BR>このように,一言でにおいと言ってもそれが必ずしも嗅覚の単一の感覚からなるというわけではない.我々が「においがする」と思っているときには,ここに述べたような他の感覚や知覚によって修飾され(歪められ)た結果生じたにおい体験(嗅覚知覚)を感じていることが多い.これらのことに加えて,においに対する嗅ぐ人の経験や知識などの要因も絡んでくるため,結果として,においの感じ方には個人差が大きくなるのである.今回の特集を機に,多くの読者がにおいの奥深さについて認識を深めていただければ幸いである.
著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, 2010-05-25

巻頭に掲載したさまざまなバラの写真,印象はいかがですか? 印刷インクにバラの香りのマイクロカプセルを使用すれば,臨場感は増したのですが,それは次の機会に取っておきます.<BR>2009年11月,「青いバラ」が満を持して市場に出され,クリスマス商戦に花を添えた.開発に着手してから,およそ20年の歳月が流れたという.2004年,青いバラが出来たというプレス発表を記憶されている方も多いのではないでしょうか.同年4月から10月に静岡県浜松市で開催された"浜名湖花博"に,この青いバラは展示された.私事で恐縮であるが「百聞は一見に如かず」生来の野次馬根性も手伝って,さっそく花博会場を訪れた.「青いバラ」はガラス製のケースに収められており,風で揺らぐこともなく,勿論香りは全く伝わってこない.言葉は悪いが,一瞬目の前に造花が現れたように感じたことを記憶している.青いバラの開発については,開発中のさまざまな苦労話も含めて,中村氏ら(サントリーホールディング(株)他)に執筆していただいた.研究開発は粘り強く,そして継続性が大切であることを思い知らされる.<BR>"花の女王(香りの女王)"とも呼ばれるバラ,古代エジプトの女王クレオパトラは,バラを浮かべた湯船につかっていたとか.当時もバラは最高級の花の一つであったに違いない.日本の有史以前,ギリシャ,エジプト,ローマ時代に,すでにバラは珍重されていたのである.上田氏(岐阜県立国際園芸アカデミー)には人類とバラとのかかわりを歴史的な背景を織り交ぜて執筆していただいた.<BR>紀元前の時代から親しまれてきたバラは,品種も膨大で,系譜図もかなり複雑である.バラの香りは花弁から発散される.しかし,バラの長い歴史の中で,香りは勿論であるが,それよりも視覚にうったえる品種の開発が優先されてきた経緯がある.蓬田氏ら((株)蓬田バラの香り研究所)は,バラの香りを詳細に解析し,香気特徴を9つのノートに分類することを試みている.執筆内容から並々ならぬ努力の結実であることがうかがえる.そして今,より芳香の優れたバラの開発に傾注されている.<BR>バラの香りの主成分として重要なフェニルエチルアルコールは,嗅覚検査に使用されるT & Tオルファクトメーターのにおい物質の一つである.臭気分野に携わっている者にとって,ある意味最も身近な香りの一つであるかもしれない.それともう一つ,バラの香りで重要な成分がダマセノンである.現在最高級の精油といわれる "ブルガリアローズ油",その主成分の一つがダマセノンで,バラ様の強い芳香を有している.小林氏ら(メルシャン(株)他)は,このバラ様香気であるダマセノン成分量を促進させた甲州ワインの醸造法を確立した.本論では,醸造の実用化に至る研究過程の詳細について執筆していただいた.<BR>前述したとおり,バラの花は香りよりも視覚にうったえる華やかさが優先されてきた.事実,市場に出回るバラの内,香りの良いバラは2割程度に過ぎないという.理由は,長時間の流通に耐え,花持ち・花色が良いこと,生産性が良いことなどを必須条件に,数多くの品種が作り出された結果であるといわれる.花き業界で活躍されている宍戸氏((株)大田花き)は,バラを含めて花の香りの重要性を主張されている.本論では,それらの活動の一端を紹介していただいた.<BR>以上,5編の組み立てで"バラの香り"を特集した.是非,本論をご熟読願いたい.ご多忙中にもかかわらず,ご執筆を快諾していただいた著者の方々には,本紙面を借りて厚く御礼申し上げる次第です.最後に一提案です.次の休日に一度バラ園(植物園)などに足を運んでみてはいかがでしょうか.にわか知識になるかもしれませんが,本誌からの若干のバラ情報を詰め込み,華やかさを観るだけではなく,鼻を近づけて香りのするバラ,しないバラ,そしてさまざまなバラの香りと歴史にふれてみて下さい.
著者
斉藤 幸子 飯尾 心 小早川 達 後藤 なおみ
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.17-21, 2004-01-25
被引用文献数
14 8

嗅覚順応の時間依存性については、感覚的強度は指数関数的に減少すると報告されてきた。しかし、最近、持続した臭気に対する感覚的強度の評定が認知的な影響を受けることが報告された。そこで、我々は一定濃度のトリエチルアミンを10分間提示し、その時の感覚的強度の時間依存性について検討した。その結果、感覚的強度の時間依存性は5つの型に分類され、最も多いのは一度減じてまた強く感じる変動型で、指数関数型は全観測データ数の約30%だった。