著者
平野 敏明
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.A1-A11, 2013

ヒバリ <i>Alauda arvensis</i> の個体数におよぼすヨシ焼きの影響を明らかにするために,栃木県南部の渡良瀬遊水地で繁殖期にヒバリの個体数調査を行なった.渡良瀬遊水地は,面積3,300 haの大部分がヨシを主とする高茎植物で覆われている.ここでは,毎年3月中旬に全域でヨシ焼きが実施されているが,2011年にはヨシ焼が行なわれなかった.そこで,ヨシ焼き前後およびヨシ焼きのあった2004, 2005年となかった2011年との比較を行なうことで,ヒバリの個体数におよぼすヨシ焼きの影響を検討した.2004年4月中旬から7月下旬にかけて1週間ごとにヒバリの個体数と草丈を記録したところ,ヨシやオギの高茎植物はヨシ焼き後に徐々に成長し,ヨシ焼き後100日あたりでは草丈が約2.1mに達した.一方,ヒバリの個体数は,草丈が約60cmに成長するヨシ焼き後40日でピークとなり,その後急速に減少し,ヒバリの個体数と高茎植物の草丈とのあいだには,有意な負の相関が得られた.また,草丈の高い2か所の調査地では,ヒバリの個体数はヨシ焼きを実施した年のほうがヨシ焼きを中止した年より有意に多かった.さらに,ヨシ焼きを実施した年におけるヨシ焼き前後の調査では,草丈の低い調査地ではヒバリの個体数に差がなかったが,草丈の高い調査地2か所のうち1か所ではヨシ焼き後のほうが有意に多かった.これらのことから,渡良瀬遊水地では,ヒバリはヨシ焼きによって古いヨシやオギが焼失することで広大な繁殖環境を得ていることが示唆された.もし,2011年の繁殖期のようにヨシ焼きが中止されると,ヒバリは道脇や堤防,ヨシ刈り地など極めて限られた場所で繁殖しなければならなくなると考えられた.
著者
渡辺 朝一
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A11-A18, 2012

レンコン栽培が盛んな茨城県下のハス田で,レンコン食害を防ぐための防鳥ネットに,コガモ <i>Anas crecca</i>,ヒドリガモ<i> A. Penelope</i>,オオバン <i>Fulica atar</i> など,多くの野鳥が羅網して落鳥する事態が続いている.防鳥ネットが多く敷設されている霞ヶ浦湖岸のハス田で,2010 年から2011 年にかけての冬期に5回の調査を行なった.その結果,羅網鳥は15種が記録され,種の識別ができなかったものも含め,のべ185羽の落鳥が記録された.防鳥ネットの天井面積を1haに換算すると,1日の調査では7.5 ± 1.8 羽が記録された.マガモ属は主に翼を引っかけて羅網し,オオバンは主に足を引っかけて羅網していた.コガモの羅網はレンコン収穫前のハス田でより多く記録されたが,オオバンの羅網はレンコン収穫後のハス田で多かった.種の識別ができたのべ145羽の羅網落鳥個体のうち,98羽は同じネットで連続的に記録されず,確実に 1 か月以内にネットから消失していた.生息している鳥類は25種が記録された.サギ類,シギ・チドリ類は防鳥ネットの敷設されたハス田にはわずかな出現かあるいは全く出現せず,防鳥ネット敷設により生息にマイナスの影響を受けていた.スズメ目のハクセキレイ,セグロセキレイ,タヒバリ,ツグミは防鳥ネットの有無に関わりなく記録され,防鳥ネットは生息の障害となっていないと考えられた.
著者
福田 道雄
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.S7-S11, 2013

1996年 3月から2012年 6月までのあいだ,東京湾内の葛西臨海公園の人工なぎさで休息するカワウ <i>Phalacrocorax carbo</i> の羽数を調べた.カワウの羽数は2月から3月に急減し,6月から9月に急増していた.本調査地の周囲でのコロニーを利用しているカワウは冬期は内陸で採食するものが多く,夏期は海で採食するものが多いと考えられることから,休息地を利用する数にこのような季節変化が見られたものと考えられた.2004年7月以降羽数が次第に減少していたが,近隣コロニーの生息数は減少していなかった.これは,採食地や餌資源量が変化したことを示唆していた.朝,正午,夕方に行なった調査のうち,最多羽数が記録されたのは正午の調査であることが多かった.休息地の近隣のコロニーは立ち入り禁止地にあったので,攪乱はほとんどなく,帰還時間の制約がなかった.そのため,休息していたカワウは夕方をまたずににコロニー戻ることができるため,正午が多かったものと考えられた.
著者
平野 敏明
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.A1-A9, 2015

近年,オオセッカが新たに繁殖期に生息するようになった渡良瀬遊水地で,繁殖期の個体数の変化と生息環境について2007年から2014年の繁殖期に調査を実施した.調査地のオオセッカは,2007年から2009年は1-2羽が生息していただけだったが,2010年に8羽,2012年には15羽と,2010年以降急激に増加した.増加の要因は,日本の主要な繁殖地での個体数の増加と調査地における春先の良好なヨシ原の存在が考えられた.渡良瀬遊水地では毎年3月中旬にヨシ焼きが実施されるが,個体数が増加した2010年から2012年はヨシ焼きが中止されたか,または降雨によって良好なヨシ原が残った.調査地におけるオオセッカの生息地点の植生は,青森県仏沼などの高密度生息地と酷似していた.すなわち,ヨシなどの単子葉高径植物の密度が16.2±9.1本/m<sup>2</sup>,高さが209.2±32.7cmで下層にスゲ類が密生している環境であった.渡良瀬遊水地では,オオセッカは調査地の特定の場所に集中してなわばりを占有する傾向があった.これは,本調査地での本種の生息密度が低いためと推測された.
著者
三上 修 三上 かつら
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.S1-S6, 2013

青森県弘前市にて2012年6月から7月にかけて1つがいのアリスイ <i>Jynx torquilla</i> が繁殖した.孵化から巣立ちまでの巣の様子をカメラのインターバルタイマー機能で撮影した.一眼レフカメラに300mmレンズを装着し,15秒に1回のタイムラプスで1日あたり約10時間の撮影を行なった.照度不足と風による振動は撮影成功率を低下させた.6月22日に孵化直後のアリスイのヒナ2羽がみられ,7月13日に1羽が巣立った.育雛期後半は餌を咥えていた写真の枚数はピーク時よりも減ったが,コムクドリに対する警戒と思われる入り口から外を警戒している写真が増えた.餌ははじめアリの繭だったが,途中からアリの成虫や卵も加わった.1回に運んでくる餌量は途中で横ばいになった.
著者
植田 睦之 神山 和夫
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.F33-F36, 2014

気候変動に対する鳥類の反応をモニタリングするために2005年に開始した参加型調査「季節前線ウォッチ」により収集したデータである.モズ(高鳴き),ヒバリ,ウグイス,メジロの初鳴き日,ホトトギス,カッコウ,アオバズク,ツバメ,オオヨシキリ,ツグミ,ジョウビタキの初認日,ヒヨドリの秋の渡り開始日,カルガモのヒナの初認情報も収集した.これらのデータを集計することで,どの種も年により初認時期が違うこと,温暖な地域ほど初認時期が早く,寒冷な地域ほど遅いという地理的な差があり,その差は1-2月にさえずりはじめるヒバリやウグイスでは大きく,3-4月に渡来するツバメやオオヨシキリは中くらいで,5月に渡来するホトトギスやカッコウでは小さいことなどがわかった.今後,情報を蓄積していくことで,気候変動の鳥類への影響などを解析することができると思われる.
著者
植田 睦之
出版者
Japan Bird Research Association
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A19-A23, 2012

オナガ <i>Cyanpica cyana</i> はツミ <i>Accipiter gularis</i> の防衛行動を利用して捕食を避けるために,ツミの巣のまわりに集まってきて繁殖するが,ツミが巣の直近しか防衛しなくなった2000年代からは,ツミの巣のまわりで繁殖することは少なくなった.しかし,一部のオナガはツミの巣のまわりで繁殖し続けている.なぜ,一部のオナガがツミの巣のまわりで繁殖しているのかを明らかにするため,営巣環境に注目して2005年から2011年にかけて東京中西部で調査を行なった.ツミの巣のまわりのオナガの巣は1990年代よりも葉に覆われた場所につくられるようになり,通常のオナガの営巣場所とかわらなかった.またツミの巣の周囲に好適な巣場所が多くある場所でのみ,ツミの巣のまわりで営巣した.これらの結果は,オナガは1990年代同様,ツミのできるだけそばで繁殖しようとしてはいるものの,当時のように自分たちの巣の隠蔽率を無視してまでツミの巣の近くを選択することはなく,営巣場所選択におけるツミの巣からの距離と隠蔽率の優先順位が逆転したことを示唆している.