著者
寺田 伸枝 溝口 勲 河野 俊彦 林 豊
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.512-520, 1986

18ヶ月間にわたって, O<SUB>3</SUB> (0.1ppm) とNO<SUB>2</SUB> (0.3ppm) に単独, 複合暴露したラットの肺の病理学的変化について検討した。<BR>O<SUB>3</SUB>の単独暴露では, 1ヶ月後に, II型細胞の腫大と増加, I型とII型の中間型の細胞, 血管内皮細胞のpinocytotic vesiclesの増加, 肺胞壁間質の軽度の水腫が認められた。水腫液の貯留によって開大した組織間隙には, 離開した膠原線維と遊走細胞がみられ, air-bloodbarrierの肥厚を生じていた。3ヶ月後では, より進行した間 質の水腫が広汎に認められたが, 6, 18ヶ月後では消失する傾向にあり, また肺胞上皮の変化はほとんどみられなかった。<BR>0<SUB>3</SUB>とNO<SUB>2</SUB>の複合暴露では, O<SUB>3</SUB>単独暴露に比べ, 全暴露期間にわたって間質の水腫がより顕著に, かつ広汎に認められた。また中間型細胞が少数認められ, 肺胞上皮にも, 持続的な影響を及ぼしていると考えられた。
著者
樫村 広秋 須山 芳明 才木 義夫 山本 明夫 氷見 康二
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.432-438, 1983

自動車へのガソリン給油時に排出する炭化水素について, ガソリン温度と炭化水素濃度および排出量との関係を求め, 炭化水素の排出係数について考察し, 次の結果が得られた。<BR>排出ガス中の炭化水素濃度の実測値と著者らの提案した計算値は, 良好な一次式で表され, ガソリンの温度と成分がわかれば排出ガス中の炭化水素濃度は概算できる。<BR>ガソリン給油時の排出ガス量は, 温度上昇とともに増加する傾向をもち, 更に炭化水素排出係数もガソリン温度の上昇で増加し, 両者の間には良好な相関が認められた。<BR>ガソリン給油所での実測と今回行った実験では, ほぼ近似した結果が得られ, 試作装置を使用することによって, 給油所における排出実態を容易に把握できることができた。
著者
横田 久司 上野 広行 石井 康一郎 内田 悠太 秋山 薫
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.231-239, 2012

ガソリンを給油する際にその一部が蒸発し、大気へ排出される「給油ロス」がある。SHEDを用いて、給油ロスに含まれるVOC成分を測定し、合計及び131種の成分別排出係数を算定するとともに、給油所からの給油ロスによるVOC排出量を推計した。2009年度における東京都内の給油ロスによる排出量は約1万トンと見込まれ、2005年度に比べて給油ロスの都内合計のVOC排出量に対する割合は増加していた。給油ロスによる損失額は、東京都で約19億円、全国では約162億円と見積もられた。VOC成分には、大気中VOC測定用の標準ガスに含まれない"未定量成分"が存在し、これらの成分にはアルケン類が多いため、MIRを考慮した未定量成分のオゾン生成への寄与割合は大きく増加した。以上のことから、VOC対策を効果的に推進していくためには、VOC成分の個別の排出量を的確に把握することが不可欠であることが示唆された。
著者
島 正之
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.67-75, 2015

わが国では硫黄酸化物による大気汚染は改善されたが、自動車交通量の増加に伴い、二酸化窒素や浮遊粒子状物質による大気汚染が問題となり、特に交通量の多い大都市部の幹線道路沿道部における大気汚染の住民の健康への影響が憂慮されている。千葉県で行った疫学研究では、学童の喘息症状の有症率および発症率は幹線道路沿道部において高かった。アレルギー素因等の関連要因を調整しても沿道部における喘息の発症率は統計学的に有意に高く,大気汚染が学童の喘息症状の発症に関与することが示唆された。その後、環境省が実施した大規模な疫学調査(そらプロジェクト)の学童調査では、自動車排出ガスの指標として推計された元素状炭素(EC)の個人曝露量と喘息発症との有意な関連性が認められた。近年注目されている微小粒子状物質(PM<sub>2.5</sub>)の健康影響については、比較的低濃度であっても短期的曝露により喘息児の肺機能の低下や喘鳴症状の出現との関連が認められた。喘息による救急受診は大気中オゾン濃度との関連が認められたが、PM<sub>2.5</sub>との関連は必ずしも明確ではなかった。今後はPM<sub>2.5</sub>の成分や粒径分布、さらには発生源と健康影響の関連を明らかにすることが望まれる。大気汚染に関する疫学研究には健康影響評価だけでなく、精緻な曝露評価が必要である。今後は国内外で様々な分野の研究者が協力して、大気汚染の健康影響を解明するための共同研究が活発に行われることを期待したい。