著者
野内 勇
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.295-312, 1990-09-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
148
被引用文献数
13

酸性雨は今や世界的な環境問題であり, 酸性雨の陸上生態系への影響に関する多くの研究が報告されている。本稿は酸性雨による農作物および森林樹木への影響をまとめたものであり, 特に, 酸性雨による葉障害, 植物の生長低下や農作物の収量減少, 障害発現メカニズムおよび酸性雨が原因と言われている森林衰退を中心とした。人工酸性雨の実験によると, 葉面に現れる可視葉被害発生は, ほとんどの農作物ではpH3.5以下であり, いくつかの感受性の樹木ではpH 3.0以下であった。また, ほとんどの人工酸性雨実験で, 農作物の生長・収量減少と樹木苗木の生長減少は, pH 3.0以上のpHの酸性溶液では生じなかった。それ故, 現在の大気環境レベル (pH4.0~5.0) の酸性雨では, 農作物の生長や収量および樹木苗木の短期の生長には影響はないであろう。しかし, 自然の森林における樹木では, 酸性雨は土壌を酸性化し, 毒性の強いアルミニウムの溶解性の増加, 葉成分および土壌養分の酸性溶脱の増加, 菌根菌の活性阻害など様々な影響を受けている。そのため, 酸性雨は森林衰退に寄与する環境要因の一つであるかもしれない。森林衰退の原因に関しては,(1) 土壌酸性化-アルミニウム毒性説,(2) オゾン説,(3) マグネシウム欠乏説,(4) 窒素過剰説,(5) 複合ストレス説の五つの主要な仮説がある。酸性雨にはこの5仮説のうち4つに関連する。ヨーロッパや北米での森林衰退の原因は明らかではないが, 研究者の多くは寒害, かんばつ, アルミニウム毒性, 昆虫害, オゾン, 酸性雨, 酸性の雲水などが複合して森林衰退を導いているものと推定している。
著者
大村 嘉人 河地 正伸 太田良 和弘 杉山 恵一
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.47-54, 2008-01-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
33
被引用文献数
2

地衣類ウメノキゴケの大気汚染に対する指標性は, 1970年代前半のSO2汚染が深刻だった時代に見出された。しかし, 1980年頃までに都市部でSO2汚染が大幅に改善され, 相対的に自動車排出ガス由来の大気汚染が問題化したことに対して, ウメノキゴケがどのような動態を示してきたのかついては, 詳しいことが分かっていない。筆者らは, 静岡市清水区の56地点の墓地において19721978, 1994, 2003年にウメノキゴケの分布調査を実施し, 本種の分布変化と大気汚染との関係について調べ, 次のことを明らかにした。1) ウメノキゴケは1972年以降のSO2汚染の改善に伴って, 6年以内に分布が回復してきた。2) 東名高速道路および国道1号線が交差する地域付近において, ウメノキゴケが1978年に消滅し始め, 1994, 2003年と国道1号線に沿って空白域が拡大していた。この空白域に近い大気測定局ではNO, NO2, NOx濃度が高くなっていたことから, ウメノキゴケの消滅と自動車排出ガスや交通渋滞による大気環境の変化との関連が指摘された。しかし, 調査地域内のウメノキゴケの分布とNO, NO2, NOxとの関連あるいはSO2, SPM, Oxとの関連は見出されなかった。3) ウメノキゴケの分布変化から, 2003年の調査地域は, 国道1号線沿いの空白域のほかに, 清水区役所周辺の移行帯, 郊外の通常帯に区分された。これらは大気汚染や乾燥化などの大気環境の違いを反映していることが考えられる。ウメノキゴケの分布変化は, SO2汚染とその改善, 道路開通や交通量の増加に伴う大気環境の変化を反映していることから, 都市部における大気汚染の監視には, 本種による長期モニタリングを取り入れることが重要であると考える。
著者
劉 安基 前田 泰昭 池田 有光 坂東 博
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.410-413, 1995-11-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
5
被引用文献数
1

都市ごみ焼却炉において, ダイオキシン類およびNOxなど有害物質発生を抑制するためには, 焼却炉での燃焼ガスの混合, 反応, 伝熱などによる完全燃焼を図ることが重要である。本研究では, 実際のごみ焼却プラントにおける各種条件が, ガス化燃焼に与える影響度合いを把握することを目的とした。実験では, 焼却炉内へ二次空気を吹き込むとともに, 炉内への水噴霧および排ガス循環を行い, COとNOx濃度の変化を調べた。その結果, CO濃度を低減すると同時に, NOxの発生量も低レベルでコントロールすることができた。
著者
河野 吉久 松村 秀幸 小林 卓也
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.206-219, 1994-07-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
18
被引用文献数
3

人工酸性雨の長期暴露実験を行うため, ミスト型降雨装置に代わる半自動走行式の雨滴落下型人工降雨装置を開発・製作した。本装置は, 直径約1mmの雨滴を発生し, 有効降雨面に対して1時間当たり2.5mmの降雨強度で運転が可能である。また, 降雨量の分布や繰り返し精度は10%以下であった。この降雨装置を用いて, 1991年から1993年の3年間に合計46種類の樹木を対象に人工酸性雨の暴露実験を行った。用いた人工酸性雨の組成は, 硫酸, 硝酸, 塩酸イオンの当量濃度比が5: 2: 3となるように, これら3種の酸を脱イオン水に混合して人工酸性雨原液を調製した。人工酸性雨原液を, 脱イオン水で容量希釈して, 人工酸性雨 (SAR) とした。SARの設定pHは, 5.6 (対照区), 4.0, 3.5, 2.5, および2.0であった。なお, SARは, 1週間に20mm (2.5mm×8hr) を3回の割合で暴露した。SARのpHが2.0の場合には, 供試したすべての樹種の葉に壊死斑点などの可視害が発現した。11種類の針葉樹の中では落葉性のカラマツだけがpH2.5以下で落葉したことから, 針葉樹の中ではカラマツが最も感受性であると考えられた。しかし, pH3.0以上のSARを3あるいは4ケ月間暴露しても針葉樹には可視害の発現は観察されなかった。SARのpHが3.0では, 常緑広葉樹14種のうち7種, 落葉広葉樹21種のうち14種に可視害が発現した。また, 落葉広葉樹の7種は, pH2.0の暴露終了時点でほとんど落葉し, 3種は枯死した。しかし, 常緑広葉樹の場合には, pH2.0でも全葉が落葉したり枯死した樹種はなかった。サクラ属のソメイヨシノやアンズは, pH3.0のSAR暴露によって, 早期落葉や壊死斑点部分が穿孔状態となった。しかし, 供試した46種には, pH4.0のSARを3あるいは4ケ月間暴露しても可視害の発現は観察されなかった。これらの可視害発現状況を指標にした場合, 広葉樹よりも針葉樹の方が酸性雨に対して相対的に耐性であった。また, 広葉樹の中では, 常緑広葉樹よりも落葉広葉樹の方が相対的に感受性であると考えられた。
著者
大浦 宏照 白幡 浩志
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.151-161, 1994-05-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
27
被引用文献数
2

降雨・雪の主成分イオン濃度と気象要因との関係について考察する目的で, 多変量解析を実施した。1990年7月~1992年12月に西南北海道の室蘭および森野の2ヵ所で,「1降雨全量採取法」 により採取した湿性降下物試料に基づき, 大気汚染物質の中でも環境に対する影響が最も深刻である非海塩起源 (nss) SO42-と気象要因との関係について, 数量化理論第I類による解析を実施した。解析の結果, 各気象要因のnss SOSO42-濃度に対する寄与は, 季節, 風向, 流跡線, 降水量の順に大きくなることが明らかになった。また各流跡線毎の解析結果からに, nss SOSO42-の一部が中国南東部およびロシア東部の工業性排出物を起源とするものであると考えられた。さらに地表風向は湿性降下物の局地的汚染源の影響を示す指標として有効であることが示唆された。このように, 湿性降下物中のある特定のイオンと気象要因の関係について厳密に検討するには, 単一の要因に着目した手法に比べ多変量解析がより有効である。
著者
脇阪 一郎 柳橋 次雄 小野 雅司 平野 靖史郎
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.120-127, 1985-04-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
16
被引用文献数
3

桜島を中心にして半径50kmの地域を距離間隔5kmの同心円によって10地域に区分し, それら区分地域の間で, 昭秘3年から57年までの15年間の総死因並びに各種呼吸器系疾病による死亡像を比較した。更にまた, 総死因および喘息, 気管支炎, 肺気腫を一緒にした呼吸器系疾病の訂正死亡率の年次変動と桜島の爆発回数との関係を検討した。結果は次下の如くである。(1) 桜島から距離30km以内の区分地域においては, 気管支炎, 肺気腫およびインフルエンザにょる死亡実数は標準人口をあてはめた期待死亡数より有意に多かった。しかも, これらの区分地域の間には, 上記カテゴリーの疾病の標準化死亡比に桜島からの距離に関して一定の勾配傾向がみられ, 火山活動がこれらの疾病による死亡を高めることに関係している可能性を示唆する。(2) 総死因並びに喘息, 急性気管支炎, 肺癌および結核の死亡実数は, 対象地域全体としてみた場合にそれぞれの期待死亡数を有意に上回った。しかし, 肺炎の死亡実数は, 対象地域全体としてのみならず, どの区分地域においても期待死亡数より少なかった。更にまた, これらのカテゴリーに属する疾病の標準化死亡比には, 区分地域間で一定の勾配傾向を見出せず, これらの疾病の死亡パターンに対しては桜島の火山活動の影響はないことが示唆される。(3) 桜島に近い区分地域内では, 気管支炎, 喘息, 肺気腫をあわせた呼吸器系疾病の年次別訂正死亡率は, 火山の爆発回数がピークを示した年 (1974年) に一致して上昇しており, 桜島に近い地域においては, これらのカテゴリーの呼吸器系疾患の年間死亡に対する火山性大気汚染の因果関係が示唆された。
著者
原口 公子 北村 江理 山下 俊郎 貴戸 東
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.323-331, 1994-11-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
28

北九州市における大気中の農薬の濃度を, 市街地および農業地域に近接した地域で, 農薬を大量に使用する時期 (1992年6月, 8月) とそれ以外の時期 (11月, 1993年2月) について, 石英ろ紙とXAD-2樹脂を装着したハイボリュームエアサンプラーを用いて試料を採取し, GC/MS-SIM法により測定した。調査対象とした36種類の農薬のうち35種類が検出され, それらの農薬の検出濃度範囲は0.01から70ng/m3であった。最も高い濃度を示したのはFlutoluanilの70ng/m3であったが, 35種類のうち30種類の農薬の平均濃度は1ng/m3以下であり極めて低濃度であった。農薬の濃度は, すべての測定地点で8月が他の月に比べ最も高く, 特に農業地域に近接した地点でその傾向は顕著であったが, 市街地でも同様の傾向がみられた。この現象は, 使用された農薬からみて農業地域からの影響が最も大きく, その他の地域で用いられた農薬がこれに加わり各地点に影響を与えていることが推察された。また, 6, 11, 2月では数種類の高沸点の農薬以外は, ほとんどの農薬がガス状物質としてXAD-2樹脂上に検出されたが, 8月では, 石英ろ紙上に粒子状として捕集されるFlutoluanilが大量に検出されたため, ガス状物質より粒子状物質の検出量が高い値を示した。
著者
加藤 進 北畠 正義 小山 善丸 永楽 通宝 山内 徹
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 = Journal of Japan Society for Atmospheric Environment (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.43-52, 1996-01-10
被引用文献数
1

中国瀋陽で10月11日~15日 (1994年) にかけてPassive samplerを用いてNO<SUB>2</SUB>およびSO<SUB>2</SUB>濃度を測定したところ, ホテル (6F) でそれぞれ26~39ppb, 36~137ppbであった。また, 低温でもTEA濾紙は100%ではないが, SO<SUB>2</SUB>を捕集しているように思われた。重汚染, 中汚染および対照地区の学校で広葉樹の落葉を採取し沈着量と葉中濃度を分析したところ, SO<SUB>4</SUB><SUP>2-</SUP>, Cl<SUP>-</SUP>, Ca<SUP>2+</SUP>および重金属濃度が簡易な汚染指標になると思われた。葉面に付着している浮遊粉塵には土壌由来粒子の他にFly-ashも認められた。
著者
黒田 孝一 兪 栄植 芳倉 太郎 岡 三知夫
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.321-324, 1984-08-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
7

ハイボリウムエアサンプラーを用いて道路傍で毎日粉じんを捕集していたところ, 約20m離れた民家に火災が発生し, 約30分間サンプラーは火災の煙にまかれた。火災前後の日の総粒子状物質 (TSP) 濃度は, 0.10mg/m3 (24時間平均値), そのうちタール量7.0-7.9%であるのに対し, 火災当日の総粒子状物質濃度は, 0.16mg/m3, そのうちタール量10.6%であった。火災当日の濃度増加分が持続30分間の火災によるものとして, 火災時間中の総粒子状物質濃度を推定すると, 2.4mg/m3となって平常時 (0.10mg/m3) の24倍, またそのうちタール量は17.7%と平常時 (7.5%) の2.4倍となり, 火災由来の粒子状物質組成は平常時とかなり異なることが示唆された。火災当日のタールはその半分が火災由来と推定されたが, TA100, TA98による変異原性の量反応曲線はタール200μg/プレートまでは前後の日とほぼ同じで, 投与量の増加に伴って直線的に変異コロニー数は増加し, また代謝活性化によって変異原性は強められた。400μg/プレートの投与量では, 火災日のタールは変異コロニー数の増加をS9 mixの有無にかかわらず抑制する傾向がみられた。この効果はタールの静菌作用によるものではないと思われた。これらのタールのSCE誘起性をCHO細胞を用い40μg/ml, 80μg/mlの投与量で調べた結果, どのタールもほぼ同程度のSCEを誘起し, 量依存性が明かであったが, タール間に統計的に有意な差はみられなかった。単位量当たりのタールの変異原性, SCE誘起性は火災日と前後の日では変化はないが, 空気量当たりでは前者は30-90倍, 後者は60倍高い値であった。
著者
関根 嘉香 橋本 芳一
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.216-226, 1991-07-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
29
被引用文献数
5

日本は, 冬季から春季の北西季節風が卓越する時期に, 中国大陸の風下にあたる。近年, 中国および韓国の諸都市は急速に工業化, 都市化が進み, 大気汚染問題が生じている。これら大陸都市において発生した大気汚染物質が季節風によって輸送され, 日本の大気質に影響を及ぼす可能性が考えられる。そこで東アジア地域における粒子汚染物質の長距離輸送現象を調べるために, 島根県松江市において大気エアロゾル試料を採取し, その成分分析結果から大陸都市の影響について検討を行った。大気エアロゾル中の成分組成比を韓国ソウル市のものと比較すると, 冬季の松江市における成分組成比はソウル市のものと類似し, 特にPb/Zn比は松江の夏季が0,22であるのに対して冬季は0.83となりソウル市での値と良い一致を示した。Pbは大陸都市において特徴的な有鉛ガソリン自動車から排出されるものであり, 松江市において冬季に観測された大気中Pbの一部は長距離輸送を起源とするものと考えらるれ.そこで拡散ボックスモデルにより長距離輸送の寄与を大まかに推定したところ, 松江市で観測された冬季のPb濃度の一部はソウル市からの長距離輸送による影響であると推定された。またTe/Se比により大陸都市の主要エネルギー源である石炭の燃焼排出物の影響を検討したところ, 同様に大陸都市の影響を受けている可能性が示唆された。
著者
田中 良明 仁田 善雄 島 正之 岩崎 明子 安達 元明
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.166-174, 1996 (Released:2011-11-08)
参考文献数
43
被引用文献数
2

自動車排気ガスを中心とする幹線道路沿道部の大気汚染が, 学童の呼吸器症状, 特に気管支喘息に及ぼす影響を明らかにするため, 千葉県で主要幹線道路が学区を貫通する都市部6小学校と田園部4小学校の1992年に1~4年生のものを対象として3年間追跡調査を行った。気管支喘息有症率は女子では3年間すべてで都市部の沿道部が最も高率であり, 次いで都市部の非沿道部, 田園部の順となり, その傾向は有意であった。男子では2年目のみ有意であった。2年間の気管支喘息発症率は男子では沿道部5.7%, 非沿道部3.9%, 田園部1.6%, 女子ではおのおの3.3%, 2.5%, 1.0%であり, 男女とも沿道部が最も高く, 次いで非沿道部, 田園部の順となり, この傾向は有意であった。多重ロジスティック回帰により関連要因を調整したオッズ比を求めたところ, 田園部の発症を1とすれば男子では非沿道部1.92, 沿道部3.70, 女子では非沿道部2.44, 沿道部5.97であった。すなわち, 沿道部の大気汚染は気管支喘息の発症に関与していることが疫学的に示唆された。
著者
萩原 純二 掛本 勝治 阿部 健蔵 上原 義昭 町田 彌
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.469-473, 1983-10-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
11

汚泥乾燥炉やZimmermann Processプラソトからの排ガス中に含まれる高濃度のアルデヒドを亜硫酸ナトリウムとの付加反応を利用して除去するため, 水溶液中の亜硫酸ナトリウムの空気酸化 (分解) を防止する実験とアルデヒドの吸収条件について検討した。水溶液中の亜硫酸ナトリウムの空気酸化防止剤はグリセリンが最も適しており, アルデヒドの最適吸収条件は, 常温で, ガス空塔速度は1.0~1.7m/s, 液ガス比は2l/m3以上, 吸収液のpHは7前後, グリセリンの添加量は3%前後, 亜硫酸ナトリウム濃度はアルデヒド250PPmに対して5×10-2mol/l (Na2SO3/R・CHOのモル比9) であった。この吸収条件でZimmermann Processのプラントから排出される高濃度のアルデヒド (約170PPm) は臭気濃度500以下でほぼ完全に除去できた。
著者
岩井 和郎
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.321-331, 2000-11-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
48
被引用文献数
7

ドイツ都市大気の測定では, PM2.5の約10重量%に0.1μm以下の超微細 (ナノ) 粒子が含まれている事が報告されている。実験的に酸化銅のナノ粒子をハムスターに吸入させてその体内動態を調べると'粒子は肺胞上皮を通過して肺間質に入り, リンパ管や血管内, 肺門リンパ節に運び込まれる事が見られた。また微小粒子とナノ粒子の動態を比較した定量的実験では, ナノ粒子で遙かに多い量が肺間質からリンパ節に入ることが示されている。健康人の肺に沈着しているナノ粒子には各種金属元素が含まれている事が分析電顕の研究から知られる。また各種排出源からの浮遊粒子状物質は肺障害性を引き起こすが, それは含まれる金属種により異なることが示唆されている。一方組織反応性に乏しい合成レジン, テフロンの蒸気に含まれるナノ粒子を吸入すると, 強い急性反応が起こることも報告されている。このナノ粒子が凝集して粗大塊となったものは直ちに毒性が消失しているという実験成績は, 化学組成よりも粒子が極めて小さいという事が重要であることを示している。もしPM2.5が疫学研究で報告されている心肺疾患死亡に関係するとすれば, ナノ粒子の血管内への容易な吸収は, その急性毒性を説明し得る。
著者
瀬戸 博 大久保 智子 斎藤 育江 竹内 正博 土屋 悦輝 鈴木 重任
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-12, 2001-01-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
37

ヒト肺に蓄積した多環芳香族炭化水素 (PAHs) および炭粉を測定し, それらの濃度と年齢, 性, 喫煙, 居住地, 職歴, 死因等との関連について調べた。1988年から1993年に東京の病院で亡くなった患者の剖検肺試料 (男性477例'女性284例) を分析に供した。PAHsおよび炭粉のレベルは男性の方が女性よりも有意に高かった。主要な蓄積要因は加齢 (暴露期間) で, 次に男性では職歴が, 女性では居住地又は職歴による影響が強かった。職業による比較では, PAHsおよび炭粉のレベルは技術系・技能系労働者および外勤職の方が事務, 管理的職業および主婦よりも高かった。また, 居住地による比較では, PAHsのレベルは区部に居住していた方が区部以外に居住していた場合に比べて高かった。しかし, 炭粉のレベルは地域による差がなかった。喫煙はこれらの物質の主要な蓄積要因ではなかった。男性の肺がん群のベンゾ [a] ピレン, ベンゾ [g, h, i] ペリレンおよび炭粉の濃度は非がん群に比べて有意に高かった。更に, 男性の扁平上皮がん群のPAHsおよび炭粉濃度は非がん群に比べて有意に高かった。一方, 腺がん群では非がん群と差がなく, 外来性物質の蓄積状態において組織型による差異がみられた。これらの結果は, 大気中のPAHsや炭粉を含む微粒子 (PM2.5) が肺がんの増加に影響を及ぼす可能性があることを否定できないことを示している。
著者
松下 秀鶴 森 忠司 田辺 潔
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.250-255, 1983-06-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13

室内空気中のニコチン濃度およびこれへの個人被暴露量の簡易分析方法を開発した。本法は, 次の各操作すなわち, 固体捕集法による室内空気中のニコチンの捕集, 固体捕集剤への内標準物質 (イソキノリン) の添加, アルカリ性メチルアルコール溶液によるニコチンの溶出, そして熱イオン化検出器付ガスクロマトグラフィー (GC-FTD) によるニコチンの分析から成り立っている。本分析方法は98.8±2.1%と高いニコチンの捕集効率が得られ, 内標準物質であるイソキノリンに対するニコチンの脱着効率の比の平均値は1.01±0.01と再現性がよく, 分析手法の簡易化に有用であることが判った。また本捕集剤中でのニコチンは暗室 (室温) および冷凍庫 (-20℃) 内での保存では少なくとも7日間は安定であることが判った。本分析条件でのニコチンの絶対検出下限は4.5pg (S/N=2) であり, 本法を用いると0.30μg/m3までの濃度のニコチンを精度よく分析できる。室内空気中のニコチン分析の一例として研究室内の空気中のニコチン濃度を調べた結果, 0.57~2.36μg/m3であった。また談話室内空気中のニコチンの経時変化を調べた結果, ニコチン濃度は2.5~23μg/m3と10倍近く変動すること, ニコチン濃度の変動のパターンはタバコの喫煙本数のそれとよく類似することが判った。
著者
溝畑 朗 伊藤 憲男 楠谷 義和
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.77-102, 2000-03-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
21
被引用文献数
8

自動車排気による汚染が特に顕著な東京都内の道路沿道で大気中の粒子状物質 (PM) を測定し, 自動車による影響を調べた。調査時期は1997年12月 (冬季) と翌年6月 (夏季) であり, 期間はそれぞれほぼ2週間であった。冬季には道路沿道の2地点で, また夏季には道路沿道1地点と対照とする1地点で粒径別に採取したPM試料に機器的中性子放射化分析法, イオンクロマトグラフ法, 熱分離炭素分析法を適用して, その化学組成を詳細に分析した。PMおよびその化学成分の粒径別濃度測定結果に数値解析を施し, それぞれの粒径分布を導出した。PMの粒径分布はいずれの測定でも粒径1~2μmが谷となる双峰分布パターンであったが, 化学成分では, 主にその成分を含む粒子の生成由来や発生源を反映して, それぞれ特徴的であった。自動車走行によるPMへの寄与は, 主にディーゼル車排気粒子によるものであった。その主成分である元素状炭素の粒径分布は著しく微小粒径に偏よっていて, ほぼ80%が微小粒子に含まれた。また, 道路粉塵の生成・再飛散やタイヤやブレーキ摩耗塵の発生によって, Alなどの土壌性粒子の指標とされる元素やCu, As, Mo, Sb, Ba, Hfなどを高濃度に含む粗大粒子が顕著であった。水可溶性イオンは炭素成分に次いで多い成分であり, 特に冬季の微小粒子中で大きな割合を占めた。特に, NO3-の前駆物質であるNOxの発生源として自動車排気が大きく影響していると考えられるが, ディーゼル排気粒子によるSO42-濃度への寄与は道路沿道でも小さかった。
著者
兼保 直樹 吉門 洋 水野 建樹 田中 敏之 坂本 和彦 王 青躍 早福 正孝
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.80-91, 1994

関東地方で初冬季に出現する広域・高濃度NO<SUB>2</SUB>現象の要因として, 数値実験的にはその寄与が指摘されていたNO<SUB>x</SUB>-炭化水素系光化学反応を, 野外観測によって捉えることを試みた。 NO<SUB>2</SUB>の高濃度 (>90ppb) が観測された1991年11月26, 27日および12月6, 7日に東京都都心部の高層ビル屋上および地上, 東京湾岸の東京都環境科学研究所, 関東平野内陸部の4地点および筑波山頂上において光化学反応に関与する物質の測定を行い, 各物質濃度の経時変化を検討した。<BR>東京都都心部でのperoxyacetylnitrate (PAN) 濃度は最高3.9~11.7ppbと高濃度を示し, 経時変化は [PO (=NO<SUB>2</SUB>+O<SUB>3</SUB>)-NO<SUB>2</SUB><SUP>Prime</SUP> (直接排出起源のNO<SUB>2</SUB>)] の経時変化と類似した挙動を示した。 高層ビル屋上で測定されたNO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP>濃度は12月7日以外の3日間は日中に顕著な増加を示し, 特に12月6日に最高59μgm<SUP>-3</SUP>と非常な高濃度に達した。 アセトアルデヒド/CO比は12月6, 7日の日中に顕著な増加を示した。 これらの指標物質の挙動から, 高濃度NO<SUB>2</SUB>の出現時に光化学反応が生じていたことが明らかとなった。 また, 船舶による東京湾内での観測結果より, 東京湾上空ではPOはO<SUB>3</SUB>の形で存在する割合が大きいことが示唆された。 さらに, 関東平野内陸部での観測結果より, 冬季光化学大気汚染はNO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP>の生成を通して高濃度SPM現象の一因となる場合があることが明らかとなった。
著者
大原 利眞 若松 伸司 鵜野 伊津志 安藤 保 泉川 碩雄
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.137-148, 1995

最近の光化学大気汚染の発生状況を明らかにするため, 関東・関西地方の大気汚染常時監視測定局にて測定された13年間の光化学オキシダント濃度データ (時間値, 月間値) を解析した。併せて, NMHC, NO<SUB>x</SUB>, NMHC/NO<SUB>x</SUB>の濃度測定データについても解析した。得られた結果は次のとおりである。<BR>(1) 光化学オキシダント濃度の経年動向に関する関東・関西地方に共通した特徴は, 日最高濃度出現時刻が経年的に遅くなっていること及び主要発生源地域から遠く離れた地域 (関東地方では北関東地域や山梨県等, 関西地方では京都・奈良地域) において高濃度が出現しやすくなっている傾向にある。<BR>(2) NMHC/NO<SUB>x</SUB>比は経年的に低下傾向にあり,(1) に示した光化学オキシダント濃度の経年動向の1要因と考えられる。
著者
高木 健作 大原 利眞
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.205-216, 2003

関東地域におけるオゾンの植物影響を, 大気常時監視測定局で測定された光化学オキシダント (O<SUB>x</SUB>) 濃度データ, 収穫量データおよびダメージ関数を用いて定量的に評価した。対象とした植物は農作物8種類 (稲 (水稲), 小麦, 大麦, 大豆, カブ, トマト, ほうれん草, レタス) とスギである。はじめに, 関東地域270局の大気常時監視測定局で測定されたO<SUB>x</SUB>濃度データを用い, O<SUB>x</SUB> オゾンとみなして植物生長期間における3次メッシュ (約1km×1km) 別平均オゾン濃度とオゾン暴露量を算出した。次に, 農作物については植物生長期間別平均オゾン濃度をダメージ関数に入力し3次メッシュ別植物種類別減収率を推計し, その減収率に収穫量を乗じて3次メッシュ別減収量と損失額を推計した。一方, スギに対してはオゾン暴露量をダメージ関数に入力し一本当たりの乾重量減少量を3次メッシュ別に推計した。<BR>推計結果によると, オゾンによって関東地域の植物は大きな影響を受け, 農作物収穫量およびスギ乾重量が大きく減少している。農作物減収による被害総額は年間210億円にものぼると試算された。一般的に野菜類は穀物類に比ベオゾン影響を受け易く, 中でもレタスは平均減収率約8%と極めて大きな被害を受けている。ほうれん草の減収率は約4%程度であるが, その経済価値が高いため損失額約22億円とレタスの約20億円よりも大きくなった。一方, 穀物の中では大豆がオゾン影響を受け易く, その減収率は約4%である。稲の減収率は約3.5%とそれほど大きくないが収穫量が多いことから減収量も多く, それによって損失額も約140億円と莫大になる。スギについては一本当たりの減少量のみが推計され, O<SUB>x</SUB>濃度が高い内陸部における減少量は約1.5kgと評価された。<BR>本研究の結果は, 関東地域におけるオゾンの植物影響が非常に大きいことを示した。一方, 関東地域におけるO<SUB>x</SUB>濃度はやや増加傾向にあり, しかも高濃度域が都市域からその周辺域に拡大している。これらのことから, 植物影響の視点も考慮して光化学大気汚染対策を講じる必要があると考えられる。