著者
矢永 尚士
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.59-66, 1992-01-31 (Released:2010-09-09)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

最近, Holter心電図のR-R間隔時系列変化のスペクトル解析により, 自律神経活動評価を行う試みが盛んである.これは, 心臓が自律神経の影響を受け, R-R間隔変動は自律神経活動の表現と考えられることに基づいている.一般に心拍変動性の低下は副交感神経機能低下を表し, スペクトル解析における低周波成分 (LF) は副交感神経に修飾された交感神経活動を, 高周波成分 (HF) は副交感神経活動を, LF/HF比は両者のバランスを表すと考えられている.しかしスペクトル解析の成績は, サンプリング領域・速度, 不整脈やノイズの処理法, 窓関数などの工学的条件, 体位, 覚醒・眠, 食事などの生物学的条件により左右される.さらにR-R間隔は自律神経, 受容体, 血圧, 末梢血管抵抗, 心拍出量, 圧反射, 呼吸, 中枢を含む心臓血管調節回路の一要素であり, 洞結節自体の異常によっても変動する.したがってR-R間隔変動による自律神経活動評価は, 心臓血管調節回路の機能の評価でもある.
著者
向井 誠時 早野 順一郎
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.217-224, 1996-05-31 (Released:2010-09-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

心拍変動解析の標準化のための基礎データとして, 心拍変動解析時の種々の要因が解析結果に与える影響を調べ, 次のことを明らかにした. (1) 不整脈処理時に行うデータ欠損部の補間処理はLF成分振幅の過大評価と, HF成分振幅成分の過少評価の原因となる. (2) 自己回帰スペクトル分析の次数を変化させたところ, LF成分, HF成分の振幅はともに16次以上で一定となる. (3) 呼吸周波数の減少は心拍数の変化を伴わずにHF成分の振幅を増加させることから, HF成分振幅は心臓迷走神経活動レベルとは独立に呼吸周波数の影響を受ける. (3) 心拍数が変化する時, R-R間隔による心拍変動の増減と瞬時心拍数による心拍変動の増減と一致しないことがある. (5) complex demodulation法は心臓自律神経活動の経時的変化の分析に適する.
著者
大塚 長康 藤井 龍平 黒川 秀夫
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.3, no.5, pp.595-599, 1983-09-01 (Released:2010-09-09)
参考文献数
13
著者
後藤 昌義 池田 佳津子
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.129-139, 1984-03-01 (Released:2010-09-09)
参考文献数
55

周知のように心臓拍動の本体は古くHippocrates (B.C.460-370) 以来の疑問であり, プネウマ説ほか諸説があったが, いずれも前近代的な学説であり, 実験科学的な追究はやはりHarvey (1628) の血液循環の発見以後に始まったといえよう。この17世紀以後の研究は心臓拍動の神経原説neurogenic theoryと筋原説myogenic theoryの論争をめぐって展開された。神経原説はWillis (1664) に始まるといわれ, 彼は心臓に至る神経を発見, 骨格筋におけると同様に心臓の収縮もこれを支配する神経の働きによると考えた。しかし一方, 骨格筋の収縮が筋の直接刺激でも出現することを見出したHaller (1754) は心臓へ還流する血液の伸展効果が心房拍動の原因であり, 心房収縮による心室の血液充満が心室収縮の原因と考え, いわゆる筋原説を提出した。Stannius (1852) がカエルの洞, 房, 室各部の結紮実験を行った頃は神経原説の最盛期であって, Claude Bernardが頸部交感神経の切断でウサギ耳血管の拡張を見出し, 血管収縮神経を発見した歴史的な年でもあり, Stanniusの実験結果も当時は静脈洞のRemakの神経細胞が自動能を支配し, 下位の神経節では自動能が弱いと, 現在の筋原説とは異なった神経原説で説明されていたようである。今世紀初めの田原 (1906) の房室結節, 刺激伝導系の発見, KeithとFlack (1907) の洞房結節の発見にひきつづき, 数多くの筋原説支持の研究があったが, CoraboeufとWeidmann (1949) の心筋へのマイクロ電極法の導入により, はじめて細胞レベルでの心筋自動能の筋原説が確証されたといえよう。以来, 細胞膜電位, 膜電位固定下の膜電流, 単一分離心筋における膜電位と膜電流, 単一イオンチャネルsingle channelの追究へと研究は飛躍的に発展し, 自動能の本態についても詳細な所見が明らかにされてきた。本総説では正所性または異所性自動能についての最近の進歩を紹介するとともに, その回顧と展望を試みたい。
著者
高橋 孝典 篠崎 毅 二宮 本報 遠藤 秀晃 佐藤 公雄 多田 博子 深堀 耕平 広瀬 尚徳 大友 淳 杉江 正 若山 裕司 苅部 明彦 沼口 裕隆 三浦 昌人 福地 満正 菊地 淳一 渡辺 淳 白土 邦男
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.606-613, 2003-11-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
27

アミオダロン (AMD) が慢性心不全患者の左室収縮能に与える効果を検討した.頻脈性不整脈の治療目的にAMDが投与され, かつβ遮断薬を使用しなかった慢性心不全患者のうち, AMD投与後6カ月以上生存した連続15例を前向きに観察した, NYHA機能分類 (NYHA) , 左室駆出率 (EF) , 左室拡張末期径 (LVDd) , 心拍数 (HR) , 収縮期血圧, QTc, BNPについてAMD投与開始時から6ヵ月間の変化を検討し, 年齢・性別をマツチさせた対照群15例と比較した, AMD投与後にEFとQTcは有意に増大し, NYHA, LVDd, HR, BNPは有意に低下した.EF, QTc, NYHA, LVDd, HRの変化は対照群に比べて有意に大きかった.全15例中5%以上のEFの改善を示した9例は, 5%未満であった6例に比し, その後の心不全入院回避率が有意に高かった.EFの変化とHR, QTcの変化の間には相関を認めなかった.結論: AMDは慢性心不全症例の左室収縮能を改善させる.その効果はQTcおよび心拍数の変化で説明することはできない.
著者
中川 幹子 藤野 孝雄 高橋 尚彦 石田 修二 渡邊 真理 丹羽 裕子 伊東 康子 桶田 俊光 犀川 哲典 伊東 盛夫
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.177-188, 1994-06-30 (Released:2010-09-09)
参考文献数
32
被引用文献数
1

糖尿病患者の心拍変動およびQT間隔と, 自律神経障害および心臓死との関連を検討した.対象は健常人13例 (C群) , 糖尿病群は自律神経障害を合併しない生存群9例 (AN (-) 群) , 自律神経障害を合併する生存群21例 (AN (+) 群) および心臓死群10例 (CD群) である.ホルター心電図より低周波数成分 (LF) , 高周波数成分 (HF) , LF/HFおよびRR間隔標準偏差の平均 (SD) を, 標準12誘導心電図よりQTc間隔およびQTc dispersion (最大QTcと最小QTcの差) を求めた.AN (+) 群とCD群は, C群に比しLF, HF, LF/HFおよびSDの24時間平均値と, その日内変動は著明に低下していた.最大QTc間隔はC群に比し糖尿病群では有意に延長していたが, 糖尿病の3群間には有意差を認めなかった.QTc dispersionはC群に比しCD群のみ有意に大であった.CD群は時間経過とともにHFの低下とQTc dispersionの増加が認められた.以上の成績から, 糖尿病患者の心臓死と自律神経障害およびQTc dispersionによって示される心室筋再分極の不均一性との関連が示唆された.