著者
直本 美知
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.636-641, 2004-08-01

英国には、医師を除いておよそ2,400人が鍼治療を行っている (5,100人が医師、看護師、理学療法士として鍼治療を行っている) 。また、約1,300人が専門の団体に所属しながら、各種ハーブ療法を行っている。現在、鍼治療とハーブ療法は法的に規制されていない。ということは、資格の有無に関わらず、誰でも鍼治療やハーブ療法を行うことが可能である。しかし、多くの治療家は自主的に専門団体に所属している。専門団体は、治療家の資格や治療の技術のレベルなどの基準を設定すると共に、その維持と向上に努めているが、団体によってその基準にばらつきがあり一定でないのが現状である。その結果、患者や医療関係者にとって、何を基準にして鍼やハーブ療法の治療家を選べばよいかが明確ではないという問題がある。これらの問題を反映して、2004年3月保健省から鍼治療とハーブ療法を法律で規制する案が提出された。保健省は、無資格の治療家から患者を守ることが必要であると判断し、法律規制案を通して鍼とハーブ療法の治療家たちの意見を募ることになった。
著者
北小路 博司
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-37, 2012-02-01

明治以降の鍼灸に関する医療制度・教育・研究の三分野について歴史的経過を俯瞰し、 日本鍼灸の特質を検証することとした。 <BR> 鍼灸に関する医療制度と鍼灸教育は、 明治維新を契機として西洋化による富国強兵の施策のもとに制定されたものであった。 すなわち、 西洋医学を日本の正統医学としたことから、 伝統医学である鍼灸は医療制度外に位置づけられる一方、 鍼灸教育においては西洋医学を基盤とすることが義務付けられた。 こうした制度上の矛盾を抱えたまま現代に至っているが、 教育においては、 西洋医学を基盤としたことから東西医学両医学による鍼灸教育が展開され、 このことが多様性を特質とする独自な日本鍼灸の形成をはかる土壌となった。 <BR> 鍼灸研究は、 鍼麻酔以降飛躍的に活発化し、 特に機序解明に向けた基礎的研究は大きく進展した。 加えて大凡20年前から教育研究、 調査研究、 東洋医学に関する研究も増え、 鍼灸に関する広い分野にわたり学術研究は確実に進展している。 こうした鍼灸学研究の進展は、 鍼灸高等教育化、 鍼灸のグローバル化等の要因によるものであるが、 学会の学術活動の牽引も強く寄与したと思われた。 <BR> 日本鍼灸の特質を更に向上させ、 発展させるには、 今一度、 鍼灸の歴史的変遷を俯瞰し、 長所と短所を明らかにし、 将来に向けた課題を明確化し、 すべての鍼灸師が共有することこそが、 新たな第一歩を踏み出すことに繋がるものと確信する。
著者
江川 雅人 校條 由紀 粕谷 大智 加川 大治
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.334-352, 2009-08-01

鍼灸医学において、 皮膚は特別な意味を有する。 鍼灸医学における皮膚は診察と治療の場でもあると共に外界との情報交流を行う場でもある。 体表に現れる種々の所見は、 単なる皮膚の所見とは捉えず、 体内や外界、 心の状況を映し出すと捉えている。 こうした視点により、 鍼灸治療は鍼と灸というシンプルな刺激手段ながらも、 体表上の特定部位を刺激することによって治療効果を引き出し、 心身全体の機能をも調整することができる。 <BR> 本シンポジウムでは 「皮膚と鍼灸」 を、 具体的な皮膚疾患の鍼灸治療とその臨床的効果を通して見つめ直し、 鍼灸師として鍼灸と皮膚の関連性を再認識した。 <BR> 江川からはアトピー性皮膚炎について、 校條先生からは爪白癬について、 粕谷先生からは膠原病の皮膚症状に対する鍼灸治療の方法とその臨床効果を紹介した。 また、 加川先生からは、 鍼刺激の皮膚性状に対する影響に関する研究結果についても呈示した。 これらの研究成果から、 広く皮膚科領域、 美容領域、 アンチエイジングへの鍼灸医学の効果や可能性について討論した。 また、 鍼灸医学における皮膚 (体表) の考え方として、 皮膚が各内臓器官や心の現れであること、 皮膚を診ることを通して心身全体が関連していることを再確認した。 さらには、 体表を診察と治療の場とし、 皮膚と全身の機能を関連させる鍼灸医学の有効性・発展性、 その視点の意味するものについて検討した。