著者
福田 文彦 石崎 直人 山崎 翼 川喜田 健司 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.75-86, 2008 (Released:2008-05-27)
参考文献数
72
被引用文献数
2 1

臨床ガイドラインは、 臨床医師が特定の疾患を治療する際の意思決定を支援することによって最高の診療を推進するという目的のもとに、 系統的に作成されるものである。 それらはエビデンスと連動しており、 より良い診療を行うために作成される。 鍼灸治療は、 医師や看護師、 理学療法士、 助産婦などの保健医療従事者や医療訓練を受けていない施術者などによってさまざまな状況で行われる可能性があるにもかかわらず、 一般の保健医療施設における安全な鍼灸診療のためのガイドラインはない。 ここに示すガイドラインはがん患者の症状、 特に疼痛症状の緩和やその他 (ホットフラッシュなど) の非疼痛性の症状に用いるために作成された。 本ガイドラインは、 がん患者における鍼治療の方針を提示する必要がある鍼灸師のための雛形として示すものである。 本稿には、 ガイドライン及びガイドラインとともに利用するための、 鍼治療のメカニズムや効果、 安全性についての総括的レビューが含まれている。 付記には、 自分自身で鍼治療を行うための方法を示した。 ガイドラインには、 役割と責任、 鍼治療の基準、 適応、 禁忌及び注意事項、 鍼治療、 調査及び監査のセクションが含まれている。 これらのガイドラインは治療に関する基本的で最低限の標準を示すものであり、 今後のデータとエビデンスの蓄積に応じた再評価と確認が必要である。
著者
井上 悦子 七堂 利幸 北小路 博司 鍋田 智之 角谷 英治 楳田 高士 會澤 重勝 西田 篤 高橋 則人 越智 秀樹 丹澤 章八 川喜田 健司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.635-645, 2003-11-01 (Released:2011-03-18)

風邪症状に対する鍼灸の予防、治療効果に関する多施設ランダム化比較試験 (RCT) の経緯ならびに現状について紹介した。パイロット試験では2週間の鍼治療が明瞭な効果を示したのに対し、多施設RCTによる同様な咽頭部への鍼刺激、さらには普遍的な間接灸刺激 (2週間) の効果は、いずれも300名を超す被験者を集めながら顕著なものとはならなかった。そこで、治療期間を最低8週間として、各施設においてパイロットRCTを実施した結果、より有効性が高まる傾向が認められた。これまでの臨床試験の経験や反省をふまえた議論のなかで、被験者の選択や対照群の設定、実験デザイン等の再検討の必要性が確認された。
著者
奥野 浩史 竹田 太郎 笹岡 知子 福田 文彦 石崎 直人 北小路 博司 矢野 忠 山村 義治
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.30-38, 2009 (Released:2009-08-11)
参考文献数
16
被引用文献数
8 3

【はじめに】自覚的な肩こりと肩上部の硬さとの関連性について検討した。 【方法】肩こり群 (n=60) および非肩こり群 (n=10) に対し、 肩こり自覚度と硬さの評価を鍼灸治療前後に行なった。 硬さは生体組織硬さ計 (PEK-1) と第3者による触診により評価した。 治療担当者に肩こり治療の有無を記入させた。 【結果・考察】硬さ計と触診による硬さの評価は有意な相関を認めた。 しかし、 肩こり群と非肩こり群との2群間の硬さには差を認めず、 肩こり群の自覚度と硬さに相関関係は認められなかった。 さらに鍼灸治療前後の自覚度と硬さの変化量にも相関を認めないことから、 肩こりと硬さとの関係性が無いことが明らかになった。 また、 鍼灸治療効果は肩こり治療をした群で高かった。 以上のことから、 臨床上感じられる触診結果と肩こりの自覚度との整合性の矛盾について、 その一部を示すことが出来たと考える。
著者
谷口 博志 谷口 授 伊佐治 景悠 北小路 博司
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.139-145, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
23

本稿では,勃起障害(ED)に対する中髎穴(第3後仙骨孔周辺)への鍼刺激による有効性,作用機序に関する我々の知見について紹介する.臨床において,多種多様なED患者に対して中髎穴への刺鍼は26例中15例で改善することを確認し,PDE5阻害剤が無効な糖尿病性ED患者においても,一定の効果を示すことができている.作用機序について,我々は麻酔下ラットの陰茎海綿体内圧を勃起機能の指標として検討し,上位中枢を介した体性-自律神経反射により調節されていることがわかっている.仙骨部への鍼刺激は,勃起が関わる上位中枢からの遠心路全てを賦活し作用すると考えられ,PDE5阻害剤の無効例等に対しても,鍼治療は有効な治療法となる可能性がある.
著者
若山 育郎 形井 秀一 北小路 博司 粕谷 大智 山口 智 赤尾 清剛
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.651-666, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

鍼灸は我が国に伝来以来1500年にわたって独自の発展を遂げてきた。その間,現代に至るまで,鍼灸は原則的に個人の力量に頼る医療であったが,現代医学にチーム医療という概念が浸透し始めてきたこともあり,鍼灸についてもチーム医療の一員として取り入れている施設が少しずつ増えてきている。特に近年大学病院などで鍼灸の応用が始まっているのはその現れである。そうした大学病院で,どのような疾患に対して鍼灸が用いられ,どのようにその効果を評価しているのかという点を明らかにするとともに,現代医療において鍼灸が果たすべき役割を考えてみる目的で,鍼灸を積極的に取り入れている4つの代表的な大学病院の状況を報告した。
著者
池田 朋子 田口 玲奈 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.230-241, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
13

【目的】全国の不妊クリニックを対象に、不妊治療における鍼灸の認識やその導入の実態を明らかにし、今後の不妊鍼灸における問題点を考察する。 【対象と方法】2015年9月現在、(公社)日本産科婦人科学会ホームページ上で「体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録施設」、「ヒト胚および卵子の凍結保存と移植に関する登録施設」、「顕微授精に関する登録施設」の全てに該当する547施設を対象に、郵送による無記名のアンケート調査を行った。 【結果】有効回収率は28.5% (156/547通) で、回答者の82.7%を医師が占めた。不妊治療における鍼灸は55.1%で認知されていた。しかし、実際に鍼灸を導入している施設は8.3%で、72.0%では今後も導入予定はなかった。鍼灸を導入している施設は婦人科医院が最も多く、鍼灸導入状況と病院形態に関連性がみられた(p=0.037)。また、鍼灸導入と情報源の有無には関連性がみられた(p=0.0009)。鍼灸の導入目的には、「精神的ストレスの緩和」が75.9%と最多であったが、導入しない理由としては、「鍼灸治療に十分なエビデンスがあると感じられないため」が59.3%と多かった。 【結論】現在、鍼灸を導入しているクリニックは少数であるが、今後、比較研究などエビデンスに基づいた、医師や患者にも分かりやすい鍼灸治療の有効性を示す必要があると考えられた。また、鍼灸師が他の医療従事者と同等のレベルで不妊治療について意見・情報交換ができるようになれば、クリニック内での導入や、クリニックと提携して治療を行う鍼灸院が増える可能性があり、鍼灸師のレベル向上が求められる。
著者
吉元 授 田口 玲奈 今井 賢治 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.406-415, 2009 (Released:2010-01-20)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

【目的】三陰交穴への円皮鍼治療が月経痛に及ぼす影響について検討した。 また、治療効果に影響を及ぼす背景因子についても検討を行った。【方法】対象は月経痛を有する女子大学生51名とした。 研究期間は9ヶ月間とし、無治療期間(a)、治療期間、無治療期間(b) の各々3ヶ月間を設定した。治療効果は月経痛重症度分類と服薬錠数の変化、治療期間終了時の痛み評価 (軽減、不変、増悪) で判定した。 さらに、治療効果に影響を及ぼす背景因子については神経症傾向(Cornel medical index: CMI)及び月経随伴症状 (Menstrual distress questionnaire: MDQ) 等との関連性を調査した。【考察】本治療は月経痛の緩和に有効であると考えられたが、その効果は精神的な要因や月経痛以外の痛みに影響されやすい可能性が示唆された。
著者
渡辺 勝久 北出 利勝 廖 登稔 佐々木 和郎 北小路 博司 石丸 圭荘 大山 良樹 木下 緑 岩 昌宏 山際 賢 大藪 秀昭
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.154-159, 1993-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
10

顎関節症は開口障害, 顎関節の疼痛, 関節雑音を主症状とする疾患で, 近年, 若年者を中心に増加の傾向にある。顎関節症は髄伴症状として, 鍼灸治療の適応である頭痛, 頸肩部の凝りなどの不定愁訴を有している場合が多い。そこで, 顎関節症に対する認識をより深め, 具体的な鍼灸治療の方法について, ビデオ教材を作成した。ビデオ教材の内容は, 前半は顎関節の解剖, 顎関節症の病態と分類などを解説し, さらに, 顎関節のMRI画像を紹介した。後半は診察の手順と治療を解説した。鍼灸治療は, 局所的常用穴を述べ手技の実際を紹介した。
著者
北小路 博司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.29-37, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
10

明治以降の鍼灸に関する医療制度・教育・研究の三分野について歴史的経過を俯瞰し、 日本鍼灸の特質を検証することとした。 鍼灸に関する医療制度と鍼灸教育は、 明治維新を契機として西洋化による富国強兵の施策のもとに制定されたものであった。 すなわち、 西洋医学を日本の正統医学としたことから、 伝統医学である鍼灸は医療制度外に位置づけられる一方、 鍼灸教育においては西洋医学を基盤とすることが義務付けられた。 こうした制度上の矛盾を抱えたまま現代に至っているが、 教育においては、 西洋医学を基盤としたことから東西医学両医学による鍼灸教育が展開され、 このことが多様性を特質とする独自な日本鍼灸の形成をはかる土壌となった。 鍼灸研究は、 鍼麻酔以降飛躍的に活発化し、 特に機序解明に向けた基礎的研究は大きく進展した。 加えて大凡20年前から教育研究、 調査研究、 東洋医学に関する研究も増え、 鍼灸に関する広い分野にわたり学術研究は確実に進展している。 こうした鍼灸学研究の進展は、 鍼灸高等教育化、 鍼灸のグローバル化等の要因によるものであるが、 学会の学術活動の牽引も強く寄与したと思われた。 日本鍼灸の特質を更に向上させ、 発展させるには、 今一度、 鍼灸の歴史的変遷を俯瞰し、 長所と短所を明らかにし、 将来に向けた課題を明確化し、 すべての鍼灸師が共有することこそが、 新たな第一歩を踏み出すことに繋がるものと確信する。
著者
大井 優紀 井上 基浩 中島 美和 糸井 恵 北小路 博司
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.112-123, 2012-02-29 (Released:2013-10-18)
参考文献数
20

目的:鍼通電刺激の腱修復能に及ぼす影響について調査する目的で、アキレス腱断裂モデルラットを用いて、組織学的、および力学的に検討した。方法:Wistar系ラット(雄性、12週齢)60匹を用いて、アキレス腱断裂モデルを作成し、無作為に鍼通電刺激群(EA群)と無処置群(Control群)の 2群に分けた。EA 群は、軽度麻酔拘束下にアキレス腱断裂部の内外側に先端部が腱断裂部に接触するようにそれぞれ鍼を刺入し、内側部を陰極、外側部を陽極として間欠的直流鍼通電刺激(刺激条件:刺激幅 5 ms、刺激頻度 50 Hz、刺激強度 20 μA、刺激時間 20分間)をモデル作成日の翌日から各評価日まで連日行った。Control群は麻酔拘束処置のみ行った。評価として、モデル作成後 7日と 10日に修復腱を採取し、設定した関心領域内の全細胞数(HE染色)、TGF-β1、および b-FGF の陽性細胞数(免疫組織化学染色)の計測とそれぞれの染色による組織像の観察を行った。また、モデル作成後 10日には、引張試験による修復腱の最大破断強度を測定した。結果:HE染色では、各評価日とも群間に有意差を認め、EA群で明らかな細胞数の増加を認めた(7日:p<0.05、10日:p<0.001)。免疫染色においては、TGF-β1、b-FGFともにモデル作成後7日のEA群で最も強い発現を認め、他との間に有意差を認めた[(TGF-β1:7日 EA群vs. 10日 EA群:p<0.001、vs. 7日 Control群:p<0.0001、vs. 10日 Control群:p<0.0001)(b-FGF:7日 EA群vs. 10日 EA群:p<0.001、vs. 7日 Control群:p<0.0001、vs. 10日 Control群:p<0.0001)]。モデル作成後 10日における修復腱の最大破断強度は EA群で有意に高い値を示した(pp<0.01)。考察・結語:アキレス腱断裂後早期の検討において、EA群では細胞数の増加と成長因子の発現量増加、さらに腱強度の増大を認めた。これらの結果から、直流鍼通電刺激は腱修復部における細胞増殖と成長因子の発現に有益に作用し、修復腱の力学的強度を高めることが示唆され、腱修復能に促進的に作用する有用な方法となる可能性が考えられた。
著者
大井 優紀 井上 基浩 中島 美和 糸井 恵 北小路 博司
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.112-123, 2012-02-29

目的:鍼通電刺激の腱修復能に及ぼす影響について調査する目的で、アキレス腱断裂モデルラットを用いて、組織学的、および力学的に検討した。<br>方法:Wistar系ラット(雄性、12週齢)60匹を用いて、アキレス腱断裂モデルを作成し、無作為に鍼通電刺激群(EA群)と無処置群(Control群)の 2群に分けた。EA 群は、軽度麻酔拘束下にアキレス腱断裂部の内外側に先端部が腱断裂部に接触するようにそれぞれ鍼を刺入し、内側部を陰極、外側部を陽極として間欠的直流鍼通電刺激(刺激条件:刺激幅 5 ms、刺激頻度 50 Hz、刺激強度 20 μA、刺激時間 20分間)をモデル作成日の翌日から各評価日まで連日行った。Control群は麻酔拘束処置のみ行った。評価として、モデル作成後 7日と 10日に修復腱を採取し、設定した関心領域内の全細胞数(HE染色)、TGF-<i>β</i>1、および b-FGF の陽性細胞数(免疫組織化学染色)の計測とそれぞれの染色による組織像の観察を行った。また、モデル作成後 10日には、引張試験による修復腱の最大破断強度を測定した。<br>結果:HE染色では、各評価日とも群間に有意差を認め、EA群で明らかな細胞数の増加を認めた(7日:p<0.05、10日:p<0.001)。免疫染色においては、TGF-<i>β</i>1、b-FGFともにモデル作成後7日のEA群で最も強い発現を認め、他との間に有意差を認めた[(TGF-<i>β</i>1:7日 EA群vs. 10日 EA群:p<0.001、vs. 7日 Control群:p<0.0001、vs. 10日 Control群:p<0.0001)(b-FGF:7日 EA群vs. 10日 EA群:p<0.001、vs. 7日 Control群:p<0.0001、vs. 10日 Control群:p<0.0001)]。モデル作成後 10日における修復腱の最大破断強度は EA群で有意に高い値を示した(pp<0.01)。<br>考察・結語:アキレス腱断裂後早期の検討において、EA群では細胞数の増加と成長因子の発現量増加、さらに腱強度の増大を認めた。これらの結果から、直流鍼通電刺激は腱修復部における細胞増殖と成長因子の発現に有益に作用し、修復腱の力学的強度を高めることが示唆され、腱修復能に促進的に作用する有用な方法となる可能性が考えられた。
著者
安藤 文紀 鶴 浩幸 北小路 博司
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.308-318, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
27

【目的】先進国の鍼の利用や制度を調査し、我が国で鍼が発展する課題を検討する。 【方法】米国・韓国・日本について、pubmed.gov、scholar.google.com、google.comで acupuncture 、regulation、educationなどのキーワードを用いて英語文献と日本語文献を検索した。 【結果】日本の年間鍼灸受療率は減少傾向にあるが、米国の鍼受療者の割合は増加し、韓国は鍼灸を最も利用していた。米国では47州とコロンビア特別区で鍼の法規制が有り、43州と特別区で鍼を医師の業務範囲としていた。2020年から連邦政府は高齢者の医療保険制度で鍼の費用を補償するようになった。韓国では伝統医学である韓医学の制度が法制定され、韓医師が鍼を含む韓医学の保険診療を行っていた。米国では医師1万人が鍼の講習を受け、医師の鍼の学会会員は1,300名以上、2018年の鍼免許保有者は37,886人。2016年の韓医師は23,845人。米国連邦政府は医療保険の適用のため、鍼施術者に鍼の修士課程修了以上の学歴を求め、13州と特別区で医師が鍼を実施するには200時間以上の教育が必要。韓国では高卒後6~7年等の教育により韓医師を育成し、国家試験後4年間の専門医研修プログラムにより鍼灸科専門医を養成している。 【考察・結語】前報を含め調査した6か国の内、医療施設での医行為として鍼を提供しない制度は日本だけであった。海外に比べ日本は医療としての鍼の情報が少なく、国民から鍼が医療として認知されないことが、鍼受療率低下傾向の一因と考えられる。日本の鍼が発展するには次の4つを検討することは重要と考える。1. 医療施設でも鍼を提供し、国民に鍼が医療として認知されること。2. 医療施設で鍼が提供される未来に向けてのはり師の対応。3. 医療施設での鍼の役割。4. 医師・はり師のはり教育。
著者
北小路 博司 寺崎 豊博 本城 久司 小田原 良誠 浮村 理 小島 宗門 渡辺 泱
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.86, no.10, pp.1514-1519, 1995-10-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
4
被引用文献数
10 10

(背景と目的) 過活動性膀胱に対して鍼治療を行い, その有効性について検討した.(対象と方法) 対象は尿流動態検査にて過活動性膀胱を呈した症例11例 (男性9例, 女性2例) で, 年齢は51歳から82歳 (平均71歳) であった. 主訴は切迫性尿失禁9例, 尿意切迫2例であった. 全例に対して, 鍼治療前後に自覚症状を評価し, さらに尿流動態検査を施行して鍼の効果判定を行った. 鍼治療部位は, 左右の中りょう穴 (BL-3) であり, ディスポーザブルの鍼 (直径0.3mm) を50~60mm刺入し, 10分間手による回旋刺激を行った. 鍼治療の回数は4回から12回 (平均7回) であった.(結果) 自覚症状では, 切迫性尿失禁は9例中5例に著明改善 (尿失禁の消失), 2例に改善 (尿失禁回数および量の減少) を認め, 尿意切迫を主訴とした2例の排尿症状は正常化した. その結果, 自覚症状の改善率は82%であった. また, 治療前の尿流動態検査にて11例全例に認められた無抑制収縮は, 治療後6例で消失し, 治療前後の比較では, 最大膀胱容量と膀胱コンプライアンスに有意な増加が認められ, 尿流動態検査でも改善が認められた.(結論) 以上より, 中りょう穴を用いた鍼治療は, 過活動性膀胱にともなう切迫性尿失禁と尿意切迫に対して有用であった.
著者
冨田 賢一 北小路 博司 本城 久司 中尾 昌宏
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.116-124, 2009 (Released:2009-09-15)
参考文献数
19

【目的】夜間頻尿に対する温灸治療の有効性を評価するため、 対照として温度が十分に上昇しないsham温灸を用いたランダム化比較試験を行った。 【方法】夜間頻尿を有し薬物療法に抵抗性を示す36名の患者を対象とし、 温灸群 (n=20) とsham温灸群 (n=16) の2群にランダムに割り付けた。 治療は、 患者自身が自宅で下腹部の中極穴に1週間毎日3壮施灸を行った。 温灸群とsham温灸群で治療前1週間と治療中1週間の平均夜間排尿回数の変化について比較検討した。 【結果】1日あたりの平均夜間排尿回数の推移は、 温灸群では治療前と比較すると有意な減少がみられた。 sham温灸群では治療による変化に有意差はみられなかった。 【結語】中極穴への温熱刺激が1週間の平均夜間睡眠中排尿回数を減少させた可能性が示唆された。 中極穴への温灸治療は夜間頻尿に対して有効な治療方法の一つになり得ると思われた。
著者
本城 久司 北小路 博司 川喜田 健司 斎藤 雅人 浮村 理 小島 宗門 渡辺 泱 荒巻 駿三
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.89, no.7, pp.665-669, 1998-07-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

(目的) 慢性期脊髄損傷患者の排尿筋過反射にともなった尿失禁に対する鍼治療の有用性について検討した.(対象と方法) 尿失禁を有する慢性期脊髄損傷患者の男性8名に鍼治療を施行した. 年齢は20~33歳 (平均27歳) であった. 損傷レベルは頚髄損傷4例・胸髄損傷4例であった. 全例ともウロダイナミクス検査により無抑制収縮が証明され, 排尿筋過反射と診断された. 鍼治療はステンレスディスポーザブル鍼 (直径0.3mm, 長さ60mm) を左右の第3後仙骨孔部 (BL-33) に刺入し, 10分間の手による半回旋刺激とした. 鍼治療は週1回の間隔で4回施行した. 鍼治療の効果について, ウロダイナミクス検査を治療直前, 初回治療直後および4回治療終了1週後に行って評価し, 臨床症状の変化は治療前と4回治療終了1週後で評価した.(結果) 鍼治療による副用はみられなかった. 8例のうち尿失禁が消失したものは3例であり, 他の3例に改善がみられた. 平均膀胱容量は治療前42.3±37.9mlであったのが, 治療終了1週後148.1±101.2mlと有意 (p<0. 05) に増大したが, 平均最大膀胱内圧には有意な変化はみられなかった.(結論) 慢性期脊髄損傷患者の排尿筋過反射にともなう尿失禁に対して鍼治療は有用であった.
著者
井上 基浩 中島 美和 北條 達也 糸井 恵 北小路 博司
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.263-272, 2013-08-28 (Released:2013-10-18)
参考文献数
21

目的 : 弾発指は滑膜性・靱帯性腱鞘部(A1 pulley)での浅・深指屈筋腱、長母指屈筋腱の滑走障害が原因とされている。本研究では、障害指A1 pulley部に刺鍼し、弾発時疼痛と弾発現象の程度に対する鍼治療効果を観察した。方法 : 弾発指15名19指を対象とし、無治療等の対照群は設定せず、全例に対して同一の鍼治療を行った。治療は障害指A1 pulley部で屈筋腱の橈・尺側に置鍼術(鍼刺入状態で10分間維持)を最高で5回(1回5~7日)行った。毎回の治療前後に、弾発時疼痛と弾発現象の程度を、それぞれ無症状を0mm、最も耐え難い症状を100mmとしたVisual analogue scale (VAS)で評価した。また、各症状の初回治療前に対する5回目治療前の変化率を求め、50%を基準に改善の有無を判定し、改善の有無と罹病期間の関係について調査した。結果 : 弾発時疼痛、弾発現象の程度において、初回治療前から5回目治療前のVASは、順に57.1±22.2 (mm, mean±SD) →26.0±29.8、61.2±23.1→26.1±27.6となり、有意な改善を示した。また、初回治療時の直後評価でも、弾発時疼痛、弾発現象の程度のVASは、順に40.8±19.6、44.3±23.9となり、有意な改善を認めた。加えて、5回までの治療で、疼痛は4指、弾発現象は6指に完全消失を確認した。弾発時疼痛および弾発現象の改善の有無と罹病期間の関係に関しては、改善を示した方が罹病期間が有意に短かった。考察 : 弾発現象の改善は、鍼治療が靱帯性腱鞘の変性・肥厚に影響したとは考え難く、鍼治療による局所血流の変化が腱鞘滑膜の炎症性腫脹に影響したものと考えた。弾発時疼痛の軽減は、上記による屈筋腱の滑走性改善に加え、鍼治療による疼痛抑制系の賦活の関与を考えた。無治療やSham治療等の対照群の設定がないため、明確にプラセボ効果等の影響を除外できないが、罹病期間により効果に差が生じたことから、障害A1 Pulley部への鍼治療は、罹病期間が短く、腱鞘滑膜の炎症性腫脹を主因とする弾発指に対して有効性示す可能性を考えた。
著者
小西 未来 鈴木 雅雄 竹田 太郎 福田 文彦 石崎 直人 堂上 友紀 北小路 博司 山村 義治
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.84-90, 2010 (Released:2010-06-07)
参考文献数
18

【はじめに】肺炎は強い咳嗽が出現し、 咳嗽はQOLは著しく低下させる。 今回、 肺炎に伴い強い咳嗽と身体疼痛を訴えた患者に対し、 鍼治療を行い良好な結果が得られたので報告する。 【症例】47歳女性。 主訴:咳嗽とそれに伴う身体疼痛。 現病歴:X年8月2日近医にて肺炎と診断され、 抗生剤を処方されたが症状の改善を認めず、 本学附属病院内科を紹介受診し同日より入院加療となった。 繰り返す咳嗽とそれに伴う身体疼痛が強いため主治医に指示によりX年8月7日鍼治療併用を開始した。 所見:血液検査にて炎症所見を認め、 胸部聴診、 胸部CTにて肺炎所見を認めた。 【評価】咳嗽時の身体疼痛をVisual Analogue Scaleにより評価した。 【治療・経過】鍼治療は鎮咳と身体疼痛軽減を目的に弁証論治に基づいて配穴し、 置鍼術は10分とした。 7日間に10回の鍼治療を行い、 症状の軽減が認められた。 【考察・結語】本症例において咳嗽とそれに伴う身体疼痛に対し、 鍼治療を併用することが有効である可能性が示唆された。
著者
皆川 陽一 伊藤 和憲 今井 賢治 大藪 秀昭 北小路 博司
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.837-845, 2010 (Released:2011-05-25)
参考文献数
18

【目的】鍼治療は、 顎関節症の保存療法としてよく用いられているが、 その多くが咀嚼筋障害を主徴候としたI型の報告である。 そこで今回、 関節円板の異常を主徴候としたIIIa型患者に対して鍼治療を行い、 症状の改善が認められた1症例を報告する。 【症例】19歳、 女性。 主訴:開口障害、 開口・咀嚼時痛。 現病歴:X-1年、 左顎に違和感が出現した。 X年、 口が開きにくくなると同時に開口・咀嚼時の顎の痛みが出現したため歯科を受診した。 診察の結果、 MRI所見などから顎関節症IIIa型と診断され鍼治療を開始した。 【方法】鍼治療は、 関節円板の整位と鎮痛を目的に外側翼突筋を基本とした鍼治療を週1回行った。 効果判定は、 主観的な顎の痛み・不安感・満足感をVisual Analogue Scale(VAS)で、 開口障害を偏位の有無で、 円板・下顎頭の位置や形態の確認をMRIにて評価した。 【結果】初診時、 顎の痛みを示すVASは52mmであり鍼治療を行ったところ、 2診目治療前には痛みの軽減がみられた。 4診目に一時的な症状の悪化が認められたが、 その後も治療を継続することで顎の痛みを示すVASが2mmまで改善した。 一方、 治療8回終了後のMRI撮影では関節円板の転位に著変はないものの運動制限と開口障害の改善がみられた。 【考察】顎関節症IIIa型に対する鍼治療は関節円板の整位はみられないものの転位した関節円板に随伴する症状を改善させる効果を有することが示唆された。