著者
若山 育郎 形井 秀一 北小路 博司 粕谷 大智 山口 智 赤尾 清剛
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.651-666, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

鍼灸は我が国に伝来以来1500年にわたって独自の発展を遂げてきた。その間,現代に至るまで,鍼灸は原則的に個人の力量に頼る医療であったが,現代医学にチーム医療という概念が浸透し始めてきたこともあり,鍼灸についてもチーム医療の一員として取り入れている施設が少しずつ増えてきている。特に近年大学病院などで鍼灸の応用が始まっているのはその現れである。そうした大学病院で,どのような疾患に対して鍼灸が用いられ,どのようにその効果を評価しているのかという点を明らかにするとともに,現代医療において鍼灸が果たすべき役割を考えてみる目的で,鍼灸を積極的に取り入れている4つの代表的な大学病院の状況を報告した。
著者
粕谷 大智 山本 一彦 戸島 均 坂井 友実
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.32-42, 2002-02-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 4

末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の効果を検討するため、日本顔面神経研究会治療効果判定委員会の提唱する基準に基づき、対象の選択を発症して2~3週間以内の新鮮例で, 電気生理学的検査 (Electroneurography : ENoG) による神経変性の程度を診断した上で、顔面運動スコアを用いて、薬物療法と鍼治療の比較、また薬物療法に鍼治療を併用した際の薬物単独療法との回復の違い等について111例の症例に対しretrospective study により治療効果を検討した。その結果、 (1) 鍼治療と薬物療法の回復の比較では、ENoG値41%以上の群で鍼単独療法群はステロイド経口投与療法群と比べ有意に麻痺の回復が劣った。 (2) ENoG値21%以上の群でステロイド経口投与療法群と鍼併用群群では特に有意差は認められず、鍼を併用しても薬物療法単独群と比べ麻痺の回復は変わらなかった。 (3) ENoG値1~20%の群ではステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると回復に有意差は認められず、ステロイド大量投与群とステロイド大量投与に鍼治療を併用した群と比べると、ステロイド経口投与に鍼治療を併用した群は明らかに回復が劣った。 (4) 薬物療法単独群と鍼治療を併用した群において、特に鍼を併用することで回復を早めるといった効果は認められないが、逆に回復を遅延させるといった逆効果も認められなかった。以上より、急性期末梢性顔面神経麻痺に対する治療は、発症して7日以内に適切な治療が求められており、鍼治療よりもステロイドなどの薬物療法が第一選択として重要であると考える。
著者
粕谷 大智
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.766-774, 2008 (Released:2009-03-10)
参考文献数
20

[目的]当院の血液内科で治療されていた血友病A患者が, 鍼灸院にて鍼治療を受け腸腰筋の血腫を起し, 日常生活を著しく支障をきたした症例を報告する。[症例]年齢は20歳代の男性。病名は血友病Aで自己注射にてVIII因子補充療法を継続中。腰部に鍼治療を受け腰下肢痛が徐々に増悪, 電気の走るような痛みが出現し, 安静時痛も強く救急車にて病院へ搬送される。以後, 自宅にて安静に。当院にてリハビリ開始。MRIにて腸腰筋に紡錘状の血腫を認めた。このような先天性の出血性疾患に対しては, 問診, 視診, 触診, 徒手検査法にて情報を収集し, 病態や重症度を把握し対応するべきである。
著者
橋本 洋一郎 鳥海 春樹 菊池 友和 篠原 昭二 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.18-36, 2014 (Released:2014-04-23)
参考文献数
54

頭痛に対する鍼灸の効果と現状を総合テーマとして、 当該領域のレビューを行った。 はじめに、 西洋医学的な立場から一次性頭痛や二次性頭痛の鑑別や治療効果を中心に紹介した。 次に、 鍼灸治療の治効機序に関して、 基礎研究の成果を文献に基づき紹介した。 最後に、 頭痛に対する鍼灸治療の臨床効果を文献に基づき解説し、 緊張型頭痛や片頭痛に効果が示されていることを紹介した。 以上の結果から、 鍼灸治療は一次性頭痛に対して臨床効果が報告されており特に、 episodic な頭痛に対して有効である可能性が示唆された。
著者
栢森 良二 堀部 豪 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.7-26, 2023-02-01 (Released:2023-06-01)
参考文献数
60

末梢性顔面麻痺の予後不良の見方、 評価法、 治療上の注意、 鍼灸治療については、 鍼灸師間で共通理解が乏しく、 多職種との連携もその点で課題も大きい。 現在、 麻痺の治療は予後不良例に対して麻痺の回復過程で後遺症をいかに少なくさせるかが重要となる。 後遺症を予防し、 患者Quality of life (QOL) を向上させることがゴールである。 それには麻痺診療手引きを理解し、 他のメディカルスタッフ同様、 鍼灸師も適切な診察・治療・セルフケアの指導等を行い、 専門医との連携が図れることが重要となる。 本セミナーの内容を読んで頂き、 麻痺の病態や評価方法、 鍼灸治療上の注意など共通理解が得られ、 今後の麻痺に対する臨床研究のコンセンサスや鍼灸の可能性について検討できれば幸いである。
著者
粕谷 大智
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】腰痛ガイドラインでは、治療者の対応(指導、共感、励まし)などが、治療成績や満足度を向上させるというエビデンスがある。しかし、腰痛患者の健康や疾病に対する考え方、理解度、性格などが治療の効果を左右する可能性があり、腰痛患者の信念体系を把握した上での対応が求められている。また、慢性腰痛患者が健康や疾病に対してどのような信念体系を持っているかということを知るには、その患者個人にあった介入を実施するためにも重要なことと考える。今回、慢性腰痛患者の健康統制感と身体所見との関係を調査し、心身健康科学からみた慢性腰痛患者の特徴と介入後の変化について検討した。【対象と方法】慢性腰痛と診断された49例を対象とした。評価法は、健康統制感尺度(JHLC)と患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)と不安評価尺度(STAI)とVASと身体所見との関係を調査した。介入は、(1)セルフケア、(2)患者教育、(3)鍼灸治療(4)カレンダーを用いて、課題が出来たら印をつけてもらった。調査は介入前・介入後1・2・3ヶ月時のJHLCの推移と、それぞれの指標との関連について検討した。【結果および考察】初診時と3ヵ月後の各指標の変化は次のとおりであった.(1)腰痛を表すVASは初診時54.6±13.1が3ヶ月には34.5±15.3と有意に改善していた。(2)JLEQ(腰痛QOL尺度)は78.9±18.5が67.3±17.3と有意に改善していた。(3)STAI(特性不安)は36.3±7.5が31.9±8.3と有意に低下していた。(4)JHLCは5つの下位尺度(Internal、Professional、Family、Chance、Supernatural)の中で、は内在的統制(internal)の尺度のみが有意に増加した。(5)VASの初診時と介入3ヶ月時の変化量を基準変数とした重回帰分析の結果では、QOL、STAI、身体所見変化量の寄与率が強く、JHLCの項目では、Professionalの変化量に寄与率が強い傾向であった。以上の結果より、自分の健康をコントロールできるのは自分自身であるという内在的統制(internal)が高い患者、またはinternalを高めること。外在的の因子では医療従事者(Professional)の関わりが、より効率的な保健行動向上の可能性が示唆された。
著者
坂井 友実 津谷 喜一郎 津嘉山 洋 中村 辰三 池内 隆治 川本 正純 粕谷 大智
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.175-184, 2001-05-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

【背景】本邦での鍼に関するランダム化比較試験の試みは数少なく、対照群に鍼治療以外の治療法をおいた研究はほとんどない。本邦において、医療制度の中に鍼灸が位置付いてゆくためには、質の高い臨床研究の結果が求められている。今回の臨床試験はこのような状況を踏まえ鍼を受療することの多い「腰痛症」を対象として行われた。【目的】「腰痛症」に対する低周波鍼通電療法の有効性および安全性を経皮的電気刺激法を対照としたランダム化比較試験により検討する。本試験は1995年9月から1996年6月にかけて瀬踏み的になされた第1期の研究を引き継ぐ第2期に相当する探索的なもので, 第3期の確認的な試験へ向けてのデータ収集の意味を持つ。【対象および方法】下肢症状がなく、発症から2週間以上経過した腰痛患者を対象に低周波鍼通電療法 (A群) と経皮的電気刺激法 (T群) の多施設ランダム化比較試験とした。観察期間は2週間、治療回数は5回とした。通電は各群とも1 Hzで15分間行った。【結果】目標症例数の80例に対して71例の応募者があり、68例が封筒法によりA群とT群に割付けられ、最終的にはA群の31例とT群の33例が解析の対象となった。背景因子として、年齢、罹病期間などには両群間に有意差はみられなかったが、性別、鍼治療経験の有無、経皮的電気刺激法の経験の有無には有意差がみられた。疼痛スケール (以下「VAS」とする) は最終時でA群は5.3±3.0に、T群は5.9±3.4に軽減した。また、主要評価項目であるVASをもとにした痛み改善度の効果判定では、A群は13/31例 (41.9%) に改善がみられ、T群では10/33例 (30.3%) に改善がみられた。さらに、副次的評価項目である日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準 (以下「JOAスコア」とする) は初診時14.5±3.0点、T群は15.0±2.8点であったが、最終時では15.9±2.0点と15.8±2.6点であった。しかし、A群とT群の両群問では、VAS及びVASをもとにした痛み改善度JOAスコアにおいて統計学的な有意差はみられなかった。【考察】プロトコールに沿ってデータの収集が行われたことは中央委員会の設立によるところが大きいと考える。目標症例数に達しなかったことは、臨床試験に対する患者の理解が低いことや参加施設のおかれている立地条件が考えられるが、患者募集の仕方にも工夫をしてみる必要があると思われる。また、鍼の効果を立証していくためには介入の方法や評価項目などについて検討していく必要があると思われた。【結論】腰痛症に対するA群とT群との間には有効性の差はみられなかった。第3期へ向けての基礎的データが収集された。
著者
高橋 啓介 赤羽 秀徳 粕谷 大智 中澤 光弘
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.32-47, 2010 (Released:2010-06-07)
参考文献数
31

近年、 腰痛をめぐる環境が大きく変化し、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつある。 それは、 腰痛を 「脊椎の障害」 という捉え方から、 「生物・心理・社会的疼痛症候群」 という概念で捉えることの重要性が認識されるようになってきたことである。 従来の椎間板の障害といった形態的異常を腰痛の病態とする考え方から目に見えない機能障害という視点からも腰痛の病態を把握しようとする考え方である。 このように疾病構造が多様化していることから、 鍼灸臨床においても適切に対応できる力量が求められている。 即ち、 病態を把握した上で適切な治療を行うという考えは医療人として身に付けておかなければならない重要な要素である。 今回のパネルディスカッション1は、 このような視点に立ち、 整形外科医、 理学療法士もパネリストに加わり、 「腰痛に対するプライマリケア」 を企画した。 まず、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつあることを踏まえて、 病態の捉え方、 対応の仕方、 鍼灸の適応と限界、 治療方法、 評価法について、 それぞれの立場から述べて頂いた。
著者
粕谷 大智 沢田 哲治 磯部 秀之 赤尾 清剛 吉川 信 高田 久実子 山口 智 小俣 浩 山本 一彦
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.193-202, 2005 (Released:2010-04-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2

(はじめに) 我々は関節リウマチに対する鍼灸治療の有効性と有用性および安全性を、外来にて薬物療法を行っている群を対照とした多施設ランダム化比較試験により検討した。(方法) 鍼灸臨床研究において重要な endpoint (評価項目) は、1. ACRコアセット (アメリカリウマチ学会提唱の活動性指標) による改善基準と、2. RAのQOL評価法であるAIMS-2日本語版を用い、介入 (治療法) については、関節リウマチの病期別に患者の活動性や機能障害を考慮しながら局所と全身の治療を行えるように病期別治療法チャートを作成し、患者の病態に応じて統一した治療法にした。(結果)1. 症例の収集についてはA群 (薬物療法群) 80例 (女性80例、男性2例、うち2例脱落)、B群 (鍼灸治療併用群) 90例 (女性90例、男性6例、うち6例脱落) の計170例が解析の対象となった。2. ACRコアセット改善基準を満たしている症例 (改善例) は、A群80例中8例、B群90例中20例で、2×2カイ二乗検定よりP=0.04で両群間において有意差を認め、鍼灸併用群の方が有意に改善を示した。3. AIMS-2質問紙によるQ0L変化: 12ケ月時点で両群間でP=0.001と有意差を認め、鍼灸併用群の方が有意に改善を認めた。4. AIMS-2質問紙の各項目の変化: 両群間で有意に鍼灸併用群に改善を認めた項目は歩行能、手指機能、家事、社交、痛み、気分、自覚改善度であった。(結語) 今回、多施設ランダム化比較試験において鍼灸併用群で上述の項目において有意に改善を認めたことは、従来の治療に鍼灸治療を併用することで身体機能低下を予防し、血行改善や精神的安定も得られ、関節リウマチ患者のQOL向上に寄与することが示唆された。
著者
粕谷 大智 川口 毅
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.79-90, 2011-09-10 (Released:2011-09-15)
参考文献数
24

【目的】腰痛ガイドラインにおいて,治療者の対応 (指導,共感,励まし) が,治療成績や満足度を向上させるというエビデンスがある.しかし,腰痛患者の健康や疾病に対する考え方,理解度,性格が治療の効果を左右する可能性があり,腰痛患者の信念体系を把握した上での対応が求められている.今回,慢性腰痛患者の健康統制感と身体所見との関係を調査し,心身健康科学からみた慢性腰痛患者の特徴と介入後の変化について検討した.【対象と方法】慢性腰痛と診断された49例を対象とした.評価法は,健康統制感尺度 (JHLC) と腰痛QOL尺度 (JLEQ) と不安評価尺度 (STAI) とVASと身体所見との関係を調査した.介入は,セルフケアや鍼灸治療など集学的治療を行い,介入3カ月までJHLCの推移と,それぞれの指標との関連について検討した.【結果および考察】JHLCは5つ下位尺度の中で,内在的統制において点数が高い傾向であった.また,介入3ヵ月後においてQOL尺度,STAI,VAS,身体所見とも有意に改善を認め,JHCLは内在的統制で有意に点数が増加した.VASの初診時と介入3ヶ月時の変化量を基準変数とした重回帰分析の結果では,QOL,STAI,身体所見の変化量で寄与率が強く,JHLCでは外在的統制の医療関係者の項目の変化量に寄与率が強い傾向であった.以上,内在的統制が高い患者であること,または介入により内在的統制を高めることと,外在的の因子では医療従事者の関わりが,より効率的な保健行動を向上させる可能性が示唆された.
著者
粕谷 大智 竹内 二士夫 山本 一彦 伊藤 幸治 坂井 友実
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.201-206, 1999 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13

We executed an acupuncture therapy to 62 lumbar spinal canal stenosis cases who were diagnosed by CT, MRI photo state and clinical symptom and examined the result.The 36 men and 26 women in this study had a mean age of 67.3 years.An acupuncture was executed by aiming to give an effect to the soft tissues and a blood circulation around the area where the stenosis was recognized then pierced facet joint closely and deeply and gave an electric acupuncture stimulus.14 cases were very good and 17 cases had good results according to the JOA score. No cases worsened.We concluded an acupuncture treatment was effective for treating lumbar spinal canal stenosis.
著者
林 健太朗 粕谷 大智
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.105-113, 2018 (Released:2020-05-20)
参考文献数
32

【目的】末梢性顔面神経麻痺(以下 麻痺)患者の後遺症は、患者のQuality of Life(以下 QOL)を 著しく低下させる。そのため、後遺症の出現が予想される患者に対してはその予防や軽減を目的 に発症早期からリハビリテーション(以下 リハ)が行われている。リハの介入の中で表情筋に対 するマッサージは日々の臨床で多用されている。そこで、本研究では我が国の麻痺患者に対する マッサージの文献レビューを行い、目的・方法・効果に焦点を当て、現状と意義および課題につ いて検討した。 【方法】データベースは、医中誌Web Ver.5 を使用し、検索語はその統制語である「顔面麻痺」、 「Bell 麻痺」、「帯状疱疹- 耳性」の同義語のうち関連する検索語と「マッサージ」とした。調査日 は2018 年6 月20 日、調査対象期間は限定せずに行った。同時に、ハンドサーチも行った。対象 論文は、包含基準・除外基準に基づき選定した。 【結果】検索の結果、医中誌Web23 件、ハンドサーチ3 件、合計26 件が抽出された。そのうち対 象論文の条件を満たす11 件について検討した。マッサージの目的は、後遺症出現前は予防、出現 後は軽減を目的に行われていた。方法は、主に前頭筋・眼輪筋・頬骨筋・口輪筋・広頸筋などの表 情筋に対して、頻回の筋を伸張するマッサージが行われていた。マッサージは他の治療法と併用 されていた。評価は、柳原法、Sunnybrook 法、House-Brackmann 法、Facial Clinimetric Evaluation Scale などが用いられており、マッサージを含めたリハの効果として、後遺症の軽減、QOL の向上 が報告されていた。 【考察・結語】麻痺患者に対するマッサージは、病期に応じて後遺症の予防や軽減を目的に、他の 治療法と併用することにより後遺症の軽減、その結果としてQOL の向上に寄与できる可能性が示 唆された。特に麻痺患者のQOL を著しく低下させる要因である顔面のこわばり感などの違和感に 対してマッサージを行い一定の効果を挙げていることは、この領域における手技療法の意義が考 えられた。一方で、マッサージの方法、効果の検討に関する課題も明らかとなった。
著者
松平 浩 井上 基浩 粕谷 大智 伊藤 和憲 三浦 洋
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.2-16, 2013-02-01
参考文献数
47

腰痛症に対する鍼灸の効果と現状を総合テーマとして、 当該領域のレビューを行った。 <BR>はじめに西洋医学的な立場から特異的腰痛や非特異的腰痛の鑑別や治療効果を中心に紹介した。 次に、 鍼灸治療の治効機序に関して、 基礎研究の成果を文献に基づき紹介した。 最後に、 腰痛に対する鍼灸治療の臨床効果を文献に基づき解説し、 様々な腰痛に効果が示されていることを紹介した。 以上の結果から、 鍼灸治療は様々な腰痛に対して臨床効果が報告されているが、 特に非特異的な腰痛に対して有効である可能性が示唆された。
著者
粕谷 大智 山本 一彦 江藤 文夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.773-779, 2003-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1 4

長期透析患者に起こる合併症の一つにアミロイドーシスを主因として引き起こされる透析性脊椎症がある。これはβ2-ミクログロブリンの異常蓄積を原因とし, 靭帯や関節などの軟部組織に沈着し, 炎症反応と線維化, 靭帯肥厚を伴いつつ, 靭帯付着部を中心に骨・軟骨破壊が進行する。これら軟部増殖性病変と骨・軟骨破壊により脊柱管狭窄を生じ, ついには脊髄, 馬尾の圧迫をきたし, 種々の臨床症状を呈するに至る。今回我々は透析性脊椎症によって腰部脊柱管狭窄を起こし間欠破行を呈した2症例を経験したので鍼治療の効果について検討した。鍼治療は狭窄部位を中心に置鍼術にて週1回の頻度で約3ヵ月行った。その結果, 症例1の神経根型は跛行距離およびJOAスコアの改善が著明に認められ, 症例2の混合型は症例1に劣るものの跛行距離の若干の改善およびJOAスコアの改善 (特に痛みの軽減) が認められた。透析性脊椎症による腰部脊柱管狭窄症を呈する透析患者に対して鍼治療は, 効果が期待できることが示唆された。
著者
松平 浩 井上 基浩 粕谷 大智 伊藤 和憲 三浦 洋
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.2-16, 2013 (Released:2013-06-17)
参考文献数
47

腰痛症に対する鍼灸の効果と現状を総合テーマとして、 当該領域のレビューを行った。 はじめに西洋医学的な立場から特異的腰痛や非特異的腰痛の鑑別や治療効果を中心に紹介した。 次に、 鍼灸治療の治効機序に関して、 基礎研究の成果を文献に基づき紹介した。 最後に、 腰痛に対する鍼灸治療の臨床効果を文献に基づき解説し、 様々な腰痛に効果が示されていることを紹介した。 以上の結果から、 鍼灸治療は様々な腰痛に対して臨床効果が報告されているが、 特に非特異的な腰痛に対して有効である可能性が示唆された。
著者
江川 雅人 校條 由紀 粕谷 大智 加川 大治
出版者
The Japan Society of Acupuncture and Moxibustion
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.334-352, 2009-08-01

鍼灸医学において、 皮膚は特別な意味を有する。 鍼灸医学における皮膚は診察と治療の場でもあると共に外界との情報交流を行う場でもある。 体表に現れる種々の所見は、 単なる皮膚の所見とは捉えず、 体内や外界、 心の状況を映し出すと捉えている。 こうした視点により、 鍼灸治療は鍼と灸というシンプルな刺激手段ながらも、 体表上の特定部位を刺激することによって治療効果を引き出し、 心身全体の機能をも調整することができる。 <BR> 本シンポジウムでは 「皮膚と鍼灸」 を、 具体的な皮膚疾患の鍼灸治療とその臨床的効果を通して見つめ直し、 鍼灸師として鍼灸と皮膚の関連性を再認識した。 <BR> 江川からはアトピー性皮膚炎について、 校條先生からは爪白癬について、 粕谷先生からは膠原病の皮膚症状に対する鍼灸治療の方法とその臨床効果を紹介した。 また、 加川先生からは、 鍼刺激の皮膚性状に対する影響に関する研究結果についても呈示した。 これらの研究成果から、 広く皮膚科領域、 美容領域、 アンチエイジングへの鍼灸医学の効果や可能性について討論した。 また、 鍼灸医学における皮膚 (体表) の考え方として、 皮膚が各内臓器官や心の現れであること、 皮膚を診ることを通して心身全体が関連していることを再確認した。 さらには、 体表を診察と治療の場とし、 皮膚と全身の機能を関連させる鍼灸医学の有効性・発展性、 その視点の意味するものについて検討した。
著者
粕谷 大智 江藤 文夫
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.836-841, 2004-12-18

関節リウマチ(以下RA)は,関節を主症状とする全身性の慢性炎症性疾患である.寛解と増悪を繰り返しながら徐々に進行し,治療しないで放置すると関節の破壊と変形をきたし,日常生活の活動を著しく低下させる.RA患者の病苦は単に患者の身体面のみにとどまらず,広く精神的,社会的,経済的側面を含む生活全体に及んでいる.近年,このようなRA患者の多面的病苦をQOL(quality of life)の視点から総合的に捉え,これを定量的に測定することにより,患者個人の健康レベルの評価や疾患の臨床経過のフォローアップと治療に役立てていこうとする試みがなされるようになった.2002(平成14)年度の厚生労働省の調査によれば,骨関節,リウマチ性疾患は脳血管障害と並んで,肢体不自由の主要を占めており,脳卒中,老衰,転倒骨折に続く寝たきりの原因の第4位を占めている.一方,厚生労働省が毎年行っている国民健康調査によればRA患者の3〜10%は医療機関と併せて鍼灸,マッサージの治療を受けており,臨床上疼痛の軽減や可動域の拡大などを認めており,QOL向上に役立っている.