著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
巻号頁・発行日
pp.100020, 2017 (Released:2017-10-26)

I 研究の背景・目的  日本においては,地名に由来する名字が8割を占めるとされている(丹羽, 2002).そのため,名字の分布は,由来となる地名の存在する地域と一定の関連性を備えたものになると考えられ,どの名字がどの地域に多いのかが電話帳や名簿データなどに基づき詳細に調査されてきた(矢野, 2007など)。一方,名字からは,様々な地理的情報を得ることができる.例えばMateos(2014)は,名字に基づき,主にロンドンにおける言語や民族別の人口分布を明らかにしている.どの名字がどの地域で多いのかという従来的な視点からではなく,出身地あるいは祖先が居住していた地域(以下,これらを「出身地等」と呼ぶ)を知るための手がかりとして名字を捉えることで,有用な知見を新たに得ることができるものと考えられる.  そこで本研究では,地域ごとに特有の名字を求めるために名字の分類を行った上で,名字の類型別の構成比に基づいて地域を分類し,名字を通して観察できる出身地等別の人口構成に基づく地域間の結び付きを明らかにすることを試みる.出身地や出生地別の全国的な居住人口統計は,1950年の国勢調査結果以降作成されておらず,本研究で得られる知見は,一定の重要性を持つものと考えられる.II 名字の類型化  名字に関するデータとして,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究により提供された2014年版の「テレポイント Pack!」(以下,電話帳データと呼ぶ)を用いる.電話帳データからは,2013年末時点の電話帳に掲載されている1,600万件の個人の名字を把握できる.分析対象とするのは,全国で100件以上のデータを持つ,9,985種類の名字である.  名字の類型化のために,2013年末時点の市区町村単位でそれぞれの名字の件数を集計し,名字ごとに市区町村別の構成比を求める.この構成比を,SOM(自己組織化マップ)とWard法を用いて類型化し,名字に関する33類型を作成した(以下,名字類型と呼ぶ).名字類型は,主に分布する地域が類似している名字のまとまりである.例えば,名字類型のS33は沖縄県に分布が集中する名字の類型であり,S10は,関東地方が分布の中心であるものの全国で1万件以上のデータを持つ名字の40.8%が含まれるなど,分布範囲の集中傾向が弱い名字の類型である.  地域ごとに名字類型別の名字件数の構成を求めることで,各類型の名字が主に分布する地域を出身地等とする人口の構成を推定できる.この推定の妥当性を検証するために,各類型の名字が主に分布する地域を都道府県単位で特定し,これらの都道府県を出生地とする1950年時点の人口を都道府県別に求めて出生地別人口比率を算出し,都道府県別の名字類型の構成比と比較した.これらの間には有意な一定の相関関係があることから,名字類型を通して,出身地等別の人口構成をある程度把握できると考えられる.III 名字類型別の構成比に基づく地域分類  市区町村単位で名字類型別の構成比を求め,SOMおよびWard法を用いて類型化し,市区町村を分類する12類型(以下,地域類型と呼ぶ)を得た(図).大部分の地域類型は,複数の都道府県にまたがっており,北海道を除けば飛び地の少ない分布となっている.近畿および四国はおおむね同じ地域類型R08に含まれる一方で,東北および関東はそれぞれ3類型(東北:R01・R02・R04,関東:R02・R03・R06)に,九州は2類型(R10・R12)に分かれており,必ずしも地方単位の分類にはなっていない.沖縄については単独の地域類型R09を構成している.北海道は,道南を中心とする地域が北東北と同じ地域類型R04に含まれる一方,札幌市を含めた残る地域の大部分が北陸と同じ地域類型R05に含まれており,明治以来の開拓に伴う人口移動の結果が地域類型の分布に現れている.  一方で,東京や大阪などの大都市圏では,12の地域類型としては,それ以外の地域からの大規模な人口移動の結果と考えられるような分布パターンを十分に認めることができなかった.名字類型の段階で,すでに2013年時点の名字の分布が反映されているためと考えられる.ただし,栃木・茨城県と福島県がR02に,群馬・埼玉県と山梨・長野県がR03にそれぞれ属するなど,大都市圏の一部とその後背地とも考えられる地域のまとまりが抽出されており,人口移動に基づく地域間の結び付きの一端を示している可能性が示唆される.

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (2 users, 2 posts, 2 favorites)

https://t.co/L6QiVHZOVk これ面白いな。近畿と四国がひとまとまりとか、方言区画に似てるところもある。 https://t.co/KgHsHARXze
https://t.co/5LkXexvnBQ 桐村喬(2017)「名字の構成比に基づいた市区町村単位での地域分類」要旨

収集済み URL リスト