- 著者
-
遠山 日出也
- 出版者
- 日本女性学研究会
- 雑誌
- 女性学年報 (ISSN:03895203)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, pp.53-74, 2022-12-16 (Released:2022-12-16)
- 参考文献数
- 83
ダイアン・グッドマンは、マジョリティがマイノリティ差別に反対する動機として、マイノリティへの「共感(エンパシー)」、「道徳的原則、宗教的価値観」、「自己利益」の3つを挙げ、それぞれを育成すべきことを説いている。本稿は、そのうち、女性解放の男性にとっての「自己利益」を、ジェンダーによる男性特有の被抑圧性からの解放という点にとどまらず、広く「ある社会における女性解放の程度はその社会の一般的解放の尺度である」(シャルル・フーリエ)という点に見出し、その具体的状況やメカニズムについて考察する。本稿は、フーリエの言う「社会の一般的解放」を、家族(=家内領域と公共領域の分離)や国家を乗り越えて、個々人の権利を社会全体で支えあう社会の実現であると捉え、そのために不可欠である女性解放の男性にとっての利益について、主に次の5つの角度から考察する。(1)公共/男性領域における女性の権利獲得と男性との関係、(2)女性が家内領域で担ってきた再生産活動の有償化や周縁的位置づけからの脱却と男性との関係、(3)「家族」という単位を乗り越えることと男性との関係、(4)女性解放と男性マイノリティとの関係、女性マイノリティの解放と男性との関係、(5)女性解放が、以上とは直接には関係しない点を含めて資本主義的抑圧全般からの解放に寄与することと男性との関係、である。以上のように広くトータルに女性解放の男性にとっての利益を捉えることは、女性解放を、たとえ男性特権を喪失しても実現すべきものとして理解することにつながる。本稿は、女性たちの運動が男性にとっても抑圧的な状況の緩和に結びついた具体的事例も挙げ、それらをより強めるには、女性の動きに男性の側からも呼応する必要があることも述べる。