著者
根岸 淳二郎 萱場 祐一 塚原 幸治 三輪 芳明
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-211, 2008 (Released:2009-03-13)
参考文献数
113
被引用文献数
38 27

イシガイ目二枚貝 (Unionoida,イシガイ類) は世界各地の河川・湖沼に生息し世界では合計約1000種,国内では18種が報告されている.特定魚類が産卵母貝として必要とすること,またイシガイ類も特定魚類に寄生することが必要であることなどから生息環境の状態を示す有効な指標種として機能する.国内外種ともにその生息範囲の縮小および種多様性の低下が懸念され,約290種が報告されている北米ではその約70%程度の生息環境の劣化が危惧されている.わが国では,数種の地域個体群がすでに絶滅し,13種までが絶滅危惧種の指定を受けている.イシガイ類の生息環境劣化には直接的要因(個体採取)と間接的要因(河川改修など)の両者が考えられる.近年は外来種の侵入による悪影響が心配されている.これまでの国内外の研究から,国外で報告される主な生息環境が比較的規模の大きな河川であるのに対し,国内では農業用排水路のような強度に人為的影響を受けた環境がイシガイ類にとって重要な生息環境であることが分かる.このことは,わが国独自の生息環境に基づいた研究知見を蓄積する必要性を示している.岐阜県関市で観察された農業用排水路の改修前後で見られた環境の変化は,主に横断・縦断方向の両方向の環境多様性の著しい低下,およびイシガイ類の生息密度の明らかな低下であった.これらを改善するために,側方構造物および堰板の設置行われたが,水路の環境を改修以前のものに近づけるには効果的であった.効率的な生息場所保全や再生事業が行われるためには,過去の事業の工程および結果がその成功・失敗にかかわらず積極的に公開されるべきである.地域レベルでの活動の事例や成果等が広く共有されることが国土全体を視野にいれた生息場所保全に重要である.

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